新電力(特定規模電気事業者)大手の日本ロジテック協同組合(東京都中央区)が、3月いっぱいで電力小売り事業から撤退することが明らかになった。資金繰り難から東京電力に対し託送料金(送電線の使用料)の支払いも滞っている模様だ。
日本ロジテックは2007年11月に設立された。外国人技能実習生の共同受け入れやETC割引きの共同利用とともに、10年から力を入れていたのが電力小売り事業である。官公庁の入札で安値攻勢を仕掛けていたことで知られ、ここ数年その急成長ぶりは際立っていた。直近でも関東地方整備局常陸河川国道事務所や宇都宮地裁などの入札案件を次々と落札、15年3月期の売上高は555億円に上っていた。資源エネルギー庁による直近の統計によれば、特定規模電気事業者で5番手につけるほどの勢いにあった。
そうしたなか、日本ロジテックは5~10万キロワット規模の自前発電所を持つ構想までぶち上げていた。母体となり12年に設立した日本新電力(東京都中央区)は全国各地で用地を物色した。13年8月には茨城県那珂市に約31万平方メートルもの広大な用地を約13億円で取得。これはかつて国が誘致を目指したものの断念した国際熱核融合実験炉(ITER)の候補地だった土地だ。さらに14年10月には佐賀県伊万里市に約15万平方メートルの土地を契約額22億円で取得。
●リミックスポイントとの提携
しかし、日本ロジテックの内情は自転車操業そのものだった。もともと同組合の電力小売り事業は薄利多売で、しかも入出金のギャップが大きいため、売り上げを伸ばせば伸ばすほど多額の運転資金を必要とする。電力の大半は日本卸電力取引所のルートで調達していた模様だが、その場合、取引所には数日ごとに支払いが必要。対して、ユーザーからの料金収受は1カ月単位といった具合だ。このため昨年5月には再生エネルギー関連の賦課金を期限までに納めることができず、経産省から公表措置も受けていた。
多額の運転資金を確保するため日本ロジテックが接近したのは、よりによって問題上場企業ばかりだった。最初は東証マザーズ上場のリミックスポイントである。提携したのは14年9月のことだ。リミックスポイントはもともと業務用ソフト開発のベンチャーだったが、上場後は業績低迷が続いた。09年に新たな株主が入り経営陣の一角も占めたが、それはローソン子会社を舞台とする多額の資金流用事件を引き起こした人脈で、その後も株主は頻繁に入れ替わった。
現在、リミックスポイントに少なからぬ影響力を持っているのは「ダイマジン・グローバル」なる香港法人だとされる。
成長著しい新電力との提携という提灯がついたリミックスポイント株は一時、急騰した。その裏で日本ロジテックはリミックスポイントに電力調達取引の間に入ってもらい、資金支援を受けるという実利を得ていた。ピーク時、リミックスポイントが立て替えた金額は約10億円に上った。しかし、とある経緯から元楽天副社長の國重惇史氏がリミックスポイントの社長に就任したことで蜜月関係には終止符が打たれた。昨年夏、多額の立替金を問題視した國重氏は関係見直しに動き、同年11月に提携は正式に解消となった。
●クレアホールディングスとの提携
蛇口を閉められた格好の日本ロジテックは売上債権の流動化で息をつなごうとファクタリング会社と交渉を始めたが、うまくいかなかったようだ。結局、次に頼った先は東証2部のクレアホールディングスである。
まさにクレアホールディングスは「ハコ企業」の代表格といえる会社だ。もともとの社名はキーイングホームで住宅メーカーだった。
日本ロジテックがクレアホールディングスと提携したのは、リミックスポイントから縁を切られる直前の昨年10月のことだった。ただし調達額はかなり限られた。電力販売債権の譲渡により日本ロジテックが受けられた資金支援は1億円にとどまった。
●キナ臭い人脈
それら問題企業との接近に加え、そもそも日本ロジテック自身の背後にもキナ臭い人脈の影がちらついている。
14年3月、千葉県銚子市の民家に本店を登記する「丸嶋」なる会社が解散を決議している。日本ロジテック前代表理事は丸嶋の取締役でもあった。解散決議時、丸嶋には取締役が3人いた。不可解な人脈というのは残りの2人、代表取締役・A氏ともうひとりの取締役・B氏のことである。
両氏の名前が世間を騒がせたのは1998年のことだ。
呆れたことに、2人は05年にも地元を揺るがすような大事件を引き起こしている。こんどは銚子信用金庫を舞台とする総額17億円に上る不正融資事件である。2人は銚子信金職員を丸め込んで融資金を引っ張り、競売で人手に渡る寸前だった自宅を買い戻したほか、残土処分場用地に注ぎ込んだ挙げ句、焦げ付かせた。この事件でB氏には懲役2年の実刑判決が下っている。
●銚子コネクション
2つの事件の間、A、B両氏の関係先として「労働安定センター」なる会社が銚子市内に設立されている。日本ロジテック前代表理事はやはり同社の取締役も長い間、兼務していたから、関係性はかなり深いものと見られる。
その一例が「コアビレッジ」と呼ばれていた施設だ。日本ロジテックが競売で落札したのは08年8月のことである。じつはコアビレッジは前述したピンハネ事件の舞台だった全国生鮮食品ロジスティクス協同組合が実習生を研修していた施設で、同組合の経営破綻後はA氏が代表取締役を務める不動産会社「コア・コンピタンス」が銚子信金からの不正融資金により買い取っていた。しかし、事件発覚後は税金滞納で差し押さえられ、銚子信金からは競売を申し立てられていた。A氏は「フロンティア21」なる別の不動産会社を07年に設立しているが、実は同社こそが日本ロジテックの大口出資企業の1社。A氏の影響下にある日本ロジテックが第三者に渡る寸前にコアビレッジをかわって買い戻した構図と見て取ることもできる。
これら「銚子コネクション」とも呼ぶべき事件人脈が背後で蠢きつつ、日本ロジテックはいわく付きの不動産購入や、無謀とも思える発電所計画で多額の支出を繰り返し、それが資金繰り難の元凶だった可能性は高い。日本ロジテックは横浜市に対しても電力購入代金7億円が未払いのままだ。先述した佐賀県伊万里市の土地代金もまだ15%の即納金しか払っていない。今回明らかになった電力小売り事業からの撤退は、次なる破局的な事態の序章に過ぎないと見たほうがいいだろう。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)