監査法人トーマツは、東京証券取引所2部に上場している半導体装置メーカー、アピックヤマダの監査契約を打ち切った。

 アピックヤマダは9月1日、第64期定時株主総会の継続会を開催した。

6月27日の株主総会で、2017年3月期の売り上げに関する一部会計処理について、第三者委員会による調査が進行中のため、決算手続きおよび会計監査人の監査報告が完了していなかったからだ。

 7月31日に決算手続きが完了し、会計監査人から「適正」との監査意見を得たことから、9月1日にもう一度株主総会を開き、有価証券報告書の内容を報告した。

 この時点で、トーマツは会計監査人を退任した。8月4日付で一時監査人に就任していた興亜監査法人が会計監査を引き継ぎ、18年6月の株主総会で正式な会計監査人に選任されることになる。

 監査法人変更の発端は4月末、トーマツと、アピックヤマダのメインバンクである八十二銀行に「内部告発」の文書が届いたことだ。その文書は、18年3月期の売り上げ分が17年3月期に前倒しで計上されていたと指摘していたという。
八十二銀行はアピックヤマダ株式の4.95%を保有する筆頭株主で、系列の八十二キャピタルは3.23%を保有する第2位の株主だ(自社株保有分を除く)。

 アピックヤマダは調査のため、弁護士と公認会計士による第三者委員会を設置。17年3月期決算は、第三者委の調査報告を踏まえて発表することにした。

 アピックヤマダは7月4日、第三者委の調査報告書を発表。第三者委は12年3月期から17年3月期までの6期分の売上高の修正を求めた。さらに、一連の不正は押森広仁社長ら経営幹部が関与して組織的に行われたと断定し、「上場企業としてコンプライアンス上極めて問題がある」と非難した。


 第三者委の報告を踏まえ、トーマツは改善策の明示を求めたが、アピックヤマダが具体策を提示でなかったため、監査契約を打ち切ったというわけだ。

 一方、アピックヤマダは7月31日付「公認会計士等の異動のお知らせ」で、こう釈明している。

「具体的な改善のための対応策が明示されない状況では契約の継続が困難である旨の打診が有限責任監査法人トーマツから平成29年7月中旬にありました。当社は、第三者委員会の調査報告書の受領が平成29年6月30日であり、極めて短時間のなかで実効を伴う具体的な改善策の立案、呈示は難しく、具体的改善策の策定方針を呈示することで、引き続き監査の継続を要請したが、一方的に監査契約を打ち切られた」

●大手監査法人は中堅・中小企業の監査から逃げていく

 ほかにも、上場企業と監査法人の関係が壊れてきており、監査法人の交代が相次いでいる。背景には東芝の不正会計問題がある。東芝の監査を担当した新日本監査法人は、不正を見抜けなかったことで信頼を失った。


 公的資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、新日本に対し35億円の損害賠償を求める訴訟を起こした。日本会計士協会は今年7月、新日本の会員権を2カ月間、一時停止した。

 この間、監査法人を新日本から変更する上場企業が相次いだ。たとえば、富士フイルムホールディングスは新日本からあずさ監査法人に変更した。

 そんななかで最近、特に顕著なのは、大手から中小の監査法人に変更するケースだ。アピックヤマダがトーマツから興亜監査法人に変更に変更したのが典型例だ。


 大手監査法人が中堅・中小の監査を敬遠するのは「実入りの少ない割にリスクが大きい」からだ。監査の厳格化は監査コストの増加につながり、監査報酬に跳ね返る。大手監査法人としては、最低でも1億円の監査報酬が欲しいところだが、1億円の監査報酬を払える中堅・中小企業は少ない。

 アピックヤマダが17年3月期にトーマツに払った監査報酬額は3340万円で、不正会計が発覚するかもしれないリスクの割に報酬は低い。トーマツが監査契約を打ち切った理由のひとつとみられている。

 アピックヤマダは決算発表を延期して監査法人が交代したが、株価は逆に上昇した。
監査法人の突然の変更は、株式市場では悪材料と見なされ株価が下落するのが常だが、アピックヤマダは違った。

 7月31日、3カ月遅れで発表した18年3月期の業績予想では、売上高は前期比26%増の140億円、営業利益は2.3倍の9億円、純利益は2.2倍の7億円の見通し。旺盛な半導体需要を映して、ウエハーレベルパッケージ(最小単位の半導体パッケージ)向けなどの半導体後工程装置の受注が拡大しているという。

 今期の決算見通しが好感され株価は急騰し、8月18日に662円の年初来高値をつけた。年初来安値(325円、1月16日)の2倍だ。

 第三者委が指摘した“コンプライアンスの改善”が今後の大きな課題となる。

(文=編集部)