国内製造拠点拡大、米中半導体摩擦で日本メーカーに脚光!短期的には過熱感も

 日本経済新聞社は3月25日より、「日経半導体株指数」の算出・公表を開始しています。これは、主要な国内半導体関連30銘柄で構成されている指数であり、全般的な半導体関連株の動向を示すものとなります。


 同指数の起点となる2011年11月末の水準と比べると、12年4カ月で日経半導体株指数は11.5倍に上昇しているもようで、日経平均株価の4.8倍を大きく上回っています。


 このことから、半導体株は長期的に見て日本株を大きくアウトパフォームする傾向にあるといえるでしょう。短期的に見ると半導体関連株の過熱感は拭い切れませんが、長期スタンスで考えた場合、「半導体株を買うほうが投資妙味は高い」状況は今後も続いていくものと判断されます。


 とりわけ、半導体関連株は足元で、今後の拡大期待がこれまで以上に高まる状況にもなってきています。まずは、生成AI(人工知能)のブームが「AI用半導体」の急速な需要拡大をもたらし始めています。生成AI向けの企業の支出額見通しは、2027年に2023年の10倍近くの1,430億ドルに達するとの試算もあり、当面の半導体市場のけん引役になるとも期待されています。


 さらに、地政学的リスクが高まる中、「産業の米」とも呼ばれる半導体は戦闘機やミサイルなどの防衛装備品にまで幅広く使われているため、経済のみならず安全保障の面でも、戦略的物資としての位置付けが高まる状況となっています。


 11月の米大統領選でトランプ前大統領が復職することが決まれば、世界的に「保護主義」政策が強まる可能性が高く、半導体産業の囲い込みの動き、それに伴う半導体関連企業の価値向上が見込まれます。


 長期的な半導体市場の拡大、半導体関連銘柄のステージアップが想定される状況下、中でも日本の半導体関連銘柄には追い風が強まりつつある状況といえます。米国による中国への半導体規制が強化される中、日本の半導体産業の重要性はサプライチェーン(供給網)の観点から高まりつつあるようです。


 半導体受託生産の世界最大手、TSMC(台湾積体電路製造)が熊本県菊陽町に工場を建設し、2027年末までには第二工場も稼働させる計画となっていますが、米中での半導体開発競争の流れを反映したものとも受け止められます。


 日本企業でも「国策半導体」ラピダスが北海道千歳市で工場建設を本格化させていますが、これも米中の長期的な半導体摩擦による需要シフトなどを意識したものといえるでしょう。


 自国で大型の半導体工場が稼働することにより、半導体製造装置メーカーや半導体材料メーカーなども恩恵が強まってくるものと考えられます。

国内での製造拠点が稼働することによって、有望な販売先が増えるだけでなく。共同での新製品開発などが進みやすくなる可能性が高まるためです。


生成AI市場拡大で「後工程」に強みがある国内製造装置企業の重要性高まる

 半導体関連銘柄としては、半導体デバイスメーカー、半導体製造装置メーカー、半導体材料メーカー、半導体商社などが挙げられます。半導体デバイスは1980年代後半に日本企業の世界シェアが50%以上を占めていましたが、現在では10%未満の水準にまで低下しています。


 現在は、センサーの ソニーグループ(6758) 、車載用半導体の ルネサスエレクトロニクス(6723) 、パワー半導体の 三菱電機(6503) 、 富士電機(6504) 、 ローム(6963) などが主要プレーヤーといえます。


 半導体製造装置では日本企業の世界シェアが30%程度と推定されています。半導体の製造工程ごとに製造装置が分かれており、それぞれの製造装置ごとに強みを持つ企業が存在しています。


 日本の半導体関連銘柄で時価総額が大きい企業は、多くが半導体製造装置メーカーとなっています。半導体材料に関しては、トータルで日本企業が50%以上のシェアを占めるとされています。日本企業がほぼ独占状態にある材料も多く見受けられています。


 半導体製造プロセスは主に「前工程」と「後工程」に分かれています。前工程はシリコンウエハーに半導体の回路部分を作製する工程であり、後工程はウエハーを切り出してチップを作りパッケージ基板を取り付ける工程となります。


 前工程では、「洗浄」「酸化」「成膜」「レジスト塗布」「露光」「エッチング」「イオン注入」「平坦化」「検査」などがあり、後工程では、「グランディング」「ダイシング」「ボンディング」「モールディング」「検査」などがあります。


 半導体製造工程の中でも中心的な役割を担う露光装置ですが、最先端の装置になると価格が約200億円ともされており、オランダのASMLの独壇場となっています。前工程で半導体の高性能化を左右する微細化技術も露光装置が鍵を握っています。


 なお、電子回路の線幅を狭め、集積度を高める微細化は将来的には限界があり、その後の性能向上には後工程の技術が注目されているもようで、相対的に後工程でシェアが高いとされている日本企業にとってはチャンスとなります。


(表)工程別の半導体製造装置と世界高シェア企業
日本の半導体株10選、米中摩擦や生成AI拡大で日本メーカーに脚光!

 生成AI向け半導体では、GPU(グラフィックス プロセッシング ユニット:画像処理に特化したプレセッサ)とともに、HBM(超高速メモリ)が搭載されています。


 ディープラーニングにおいて行列演算中の大量の計算データを一時保存する必要があるためです。HBMにおいては半導体の積層化技術が必要となります。

ウエハーを薄く削ったり、割れにくくするための加工を行なったりする必要があるほか、狭ギャップ間への樹脂充填技術なども必要とされます。総じて後工程の技術革新が重要なものとなってきます。


  ディスコ(6146) や TOWA(6315) では、この分野で唯一無二の技術を保有しているもようです。また。HBMの検査はメモリテスタが使用されるため、メモリテスタのトップである アドバンテスト(6857) にもメリットが生じることになります。


半導体材料でも日本高シェア、国を挙げて「囲い込み」強化へ

 半導体材料の主なものとしては、シリコンウエハー、マスクブランクス、フォトマスク、フォトレジスト、高純度ガス、フッ化水素、CMPスラリー、封止材などが挙げられます。


 シリコンウエハーでは 信越化学工業(4063) と SUMCO(3436) が2強、フォトマスクは 大日本印刷(7912) と TOPPANホールディングス(7911) 、マスクブランクスは HOYA(7741) がトップシェアを誇ります。


 ガスやフッ化水素なども 関東電化工業(4047) や ステラケミファ(4109) など日本メーカーが圧倒的なシェアを誇り、フォトレジストでは JSR(4185) や 東京応化工業(4186) など日本企業が90%以上のシェアを占めます。封止材では 住友ベークライト(4203) が約4割のシェアを占めるとされています。


 JSRは産業革新投資機構による買収が決定していますが、今後も半導体材料メーカーには、海外依存を減らし国内生産を増やす「囲い込み」の動きが国を挙げて強まっていく余地があるでしょう。


今後も注目される主要半導体関連10銘柄

 半導体関連銘柄の株価の動きは、米SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)に連動する形で、おおむね同一方向に傾きやすくなっています。2023年以降の株価パフォーマンスも総じて好調な推移といえるでしょう。


 中でも、生成AI関連としての位置付けが高い ディスコ(6146) 、 TOWA(6315) やTSMC向けのウエートが高いとされる SCREEN(7735) などの上昇率が高い状況です。 ローム(6963) に関しては、東芝への出資などに伴う財務リスクが株価の抑制要因にもなりました。


 今後も生成AIの市場拡大が続けば、ディスコ、TOWA、 アドバンテスト(6857) など、後工程メーカーの株価パフォーマンスが高まりやすくなるでしょう。


 以下に挙げた半導体製造装置メーカーは特定機種で高いシェアを占めているため、製造装置市場の拡大でストレートにメリットを受けやすいですが、長期的に見れば、技術革新などによって一部の工程が不要となる状況も考えられ、そこはリスク要因となり得ます。


 半導体材料メーカーは中小型株も多く、今後も再編の動きなどが株価材料となってきそうです。半導体メーカーでは、将来的にラピダスの上場が注目材料とされるほか、パワー半導体の市場拡大期待も高まっていくとみられます。


(表)主要な半導体関連銘柄 コード 銘柄 株価 時価総額 PER 上昇率 8035 東京エレクトロン 37,660 177,616 51.27 190.59 4063 信越化学工業 6,192 123,944 22.46 90.82 6146 ディスコ 56,060 60,749 81.75 345.51 6857 アドバンテスト 5,968 45,723 68.28 181.51 6920 レーザーテック 40,200 37,903 65.92 84.87 7735 SCREEN 18,295 18,585 27.11 332.51 6963 ローム 2,431.5 10,017 19.54 2.06 4186 東京応化工業 4,282 5,472 27.29 114.46 3132 マクニカHD 7,021 4,272 9.98 123.24 6315 TOWA 9,710 2,431 42.51 474.56 (注)上昇率は2022年末比
(注)時価総額、PER(株価収益率)は楽天証券MARKETSPEEDより

東京エレクトロン(8035・東証プライム)

 半導体製造装置の国内最大手企業。日経半導体株指数でも最大の構成比を占めています。フォトレジスト(感光剤)の塗布や現像を行うコータ・デベロッパでは世界トップ級で90%程度のシェアと推定されています。そのため、利益率も高いもようです。加えて、熱処理装置やエッチング装置などでも世界で高シェアを誇っています。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは4,583億円で前期比26.7%減の予想、会社予想は4,500億円です。2025年3月期のコンセンサスは5,967億円で同30.2%増となっています。


信越化学工業(4063・東証プライム)

 塩化ビニール樹脂で世界トップの化学メーカーですが、半導体シリコンウエハーでも世界トップシェアを誇っています。半導体分野では、フォトマスクブランクス、フォトレジストなどの半導体材料でも世界第2位の位置付けとなっています。新たにこうした半導体材料の新工場建設も計画しているようです。高シェア製品多く利益率が高いことも特徴です。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは7,962億円で前期比22.0%減の予想、会社予想は7,600億円です。2025年3月期のコンセンサスは9,009億円で同13.2%増となっています。


ディスコ(6146・東証プライム)

 半導体チップをシリコンウエハー上から切り出すダイシング装置、シリコンウエハーなどを研削・研磨加工するグラインディング装置で世界トップの企業です。HBM向け装置ではシェア100%とみられ、生成AI市場拡大でメリットが極めて大きい銘柄です。会社側は生成AI関連の売上高は「3ケタ億円台半ば」とのガイダンスを示しているようです。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは1,156億円で前期比2.9%増の予想、会社予想は1,091億円です。2025年3月期のコンセンサスは1,639億円で同41.8%増となっています。


アドバンテスト(6857・東証プライム)

 半導体テスタ(試験装置)の最大手企業です。メモリテスタ、SoC(システム・オン・チップ)テスタともに世界で過半のシェアを握っているとみられています。AMD、中国企業向けのほか、エヌビディア向けなども相対的に強いとされているほか、HBM検査でもメモリテスタが使用されるため、生成AI市場の拡大メリットは大きいといえます。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは854億円で前期比50.1%減の予想、会社予想は825億円です。2025年3月期のコンセンサスは1,376億円で同61.0%増となっています。


レーザーテック(6920・東証プライム)

 マスク検査装置でトップシェアを誇っています。とりわけ、EUV(極端紫外線)マスクブランクス欠陥検査装置では世界100%のシェアを持ち、オランダのASMLが手掛けるEUV露光装置にも唯一対応できる企業です。EUV露光装置のステージアップに対応する次世代機の開発も順調に進捗(しんちょく)のもようです。東京市場では売買代金が連日トップ水準となっています。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは691億円で前期比8.5%増の予想、会社予想は670億円です。2025年3月期のコンセンサスは1,190億円で同72.2%増となっています。


SCREEN(7735・東証プライム)

 半導体洗浄装置の世界最大手企業です。一度に多数のウエハーをまとめて洗浄する「バッチ洗浄装置」では世界過半のシェア、ウエハーを1枚ずつ洗浄する「枚葉洗浄装置」でも4割近いシェアを占めるトップ企業です。TSMC向けの構成比が相対的に高いとされており、TSMCの熊本工場新設によるメリット期待は高いとみられます。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは913億円で前期比18.0%増の予想、会社予想は885億円です。2025年3月期のコンセンサスは1,015億円で同11.2%増となっています。


ローム(6963・東証プライム)

 特定の目的や製品向けにカスタマイズされたLSIに強みを持つ半導体メーカーです。東芝への出資リスクも警戒され2023年以降の株価は低調推移ですが、ファイナンスを発表したことであく抜け感は今後強まるでしょう。パワー半導体分野に注力中。Sic(シリコンカーバイド)パワー半導体では国内トップで世界的にも10%強のシェアを占め、東芝と生産で連携しています。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは686億円で前期比37.3%減の予想、会社予想は640億円です。2025年3月期のコンセンサスは668億円で同2.6%減となっています。


東京応化工業(4186・東証プライム)

 日本企業がシェア9割を占める感光材料のフォトレジストにおいて、 JSR(4185) とトップを争う半導体材料メーカーです。半導体材料は日本企業が強みを持つ分野であり、世界的な「半導体囲い込み」の流れの中で注目度が高いといえます。


 JSRが産業革新投資機構のTOB(株式公開買い付け)実施で非公開化の予定であり、株価的にはJSRからの資金シフトも目先期待できるでしょう。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは312億円で前期比28.6%増の予想、会社予想は277億円です。2025年3月期のコンセンサスは361億円で同15.9%増となっています。


マクニカHD(3132・東証プライム)

 独立系の半導体商社で、2015年にマクニカホールディングスと富士エレクトロニクスが経営統合して設立しました。2024年3月にはグローセルをTOBで子会社化しています。


 日本国内におけるエヌビディアの正規代理店ですが、2022年度は国内代理店の中でもトップの実績を上げて「Best Distributor of the Year」を受賞し、エヌビディア関連としての位置付けが高い銘柄といえます。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは620億円で前期比9.1%増の予想、会社予想は628億円です。2025年3月期のコンセンサスは645億円で同4.0%増となっています。


TOWA(6315・東証プライム)

 モールディング装置(樹脂を封止する装置)のトップメーカーで、世界約3分の2のシェアを占めているようです。DRAMが積層化されているHBMでは、層間まで隙間なく樹脂を浸透させる技術が求められますが、同社の真空コントロール技術はそれを可能とさせます。


 HBMメーカーの韓国SKハイニックスやサムスン電子向けに、2023年夏ごろから需要が急激に伸びているようです。


 2024年3月期経常利益の市場コンセンサスは85億円で前期比16.6%減の予想、会社予想は81億円です。2025年3月期のコンセンサスは128億円で同51.4%増となっています。


(佐藤 勝己)