外食チェーンのやよい軒が無料だったごはんのおかわりを、一部店舗でテスト的に有料化した。おかわりをしない顧客から「不公平感がある」という意見が以前から寄せられていたことが理由だったようだが、頻繁に来店する層を中心に波紋を呼んだ。

大多数は既存のシステムに満足していたはずなのに、なぜ企業は一部の顧客の声を聞かなくてはいけないのか。立教大学経営学部教授でマーケティング論が専門の有馬賢治氏に話を聞いた。

●顧客は“その他大勢”になったとき、公平感を希求する

「現代は過剰なまでに顧客の声の反映が暗黙的に求められる時代です。企業がサービス改善のために行うPDCA(『Plan』『Do』『Check』『Action』)サイクルを回すための『Check』にあたる工程で回収を試みる顧客アンケートですが、なかには個人的なガス抜きのために利用する顧客もいます。ですが、それすらも企業には対応が求められているのです」(有馬氏)

 では、やよい軒のケースでは、その意見を寄せた顧客の心理とはどのようなものだったのか。

「顧客が企業に求めるサービスの代表的なものに、『自分だけの特別感』と『公での公平感』があります。たとえば自身がその店舗で特典を受けられる限定された会員のような立場だった場合、他の顧客よりもプラスアルファのサービスを受けられるため、オトク感を覚えて店舗への好印象を抱きます。一方、自身が特別扱いを受けない“その他大勢”に入っている場合は、逆に公平感を希求する心理が働きやすくなります。やよい軒のケースも、おかわりをしない客層が、自身がそうだからと自分側に合わせた公平感を店舗側に求めたのでしょう」(同)

 ここで冒頭の記述に戻るが、多くの顧客はこの対応に納得していない。おかわりが有料となれば、「もうやよい軒には行かない」という声も多数見られる始末だ。うがった見方をすれば、値上げに踏み切る口実を、顧客に押し付けて正当化しているようにさえ映る。

 本当にそういった意見が寄せられているにしても、一部の顧客のわがままに付き合ってしまえば、むしろマイナスプロモーションとなることを、やよい軒サイドは予想できなかったのか。
有馬氏は「さすがに値上げの理由を顧客に押し付けていることはないはず」との前提で、少数の声でも無視できない現実があると説明する。

●無視されれば腹いせに炎上させる顧客も?

「意見を言う顧客からすれば、紙のアンケートやメールなどで、手間をかけてわざわざ声を上げたにもかかわらずそれが反映されないとなると、『無視された』と思い込む事態も出てきます。すると、その腹いせに炎上に向けて行動する可能性さえも出てくるのです。ですが、企業による対応の動きがあれば、結果として受け入れられずに制度やサービスが変わらなくても、ある程度納得感を得て、それ以上騒ぐことはしなくなる人が大勢でしょう。出された意見を企業として採用するかどうかは置いておいて、顧客の意見に対応している姿勢を見せることは非常に大切なのです」(同)

 そして有馬氏は、やよい軒の今回のテストマーケティングは、顧客の声を聞いた“ポーズ”ではないかと分析する。

「大戸屋のアルバイトが撮影した不適切動画がネット上で拡散してしまったとき、運営会社は全店を1日だけ休業して研修日をもうけました。当時社会問題となっていた“バイトテロ”に会社としていち早く対応している姿をアピールするためなのですが、チェーン全体の1日分の売上額の1億円という被害を出しても、意味があると判断したからこその行動です。人種差別をしたアメリカのスターバックスでも似たようなケースがありましたが、ごく短期間の研修ではスタッフへの考え方の周知徹底はできても、サービス自体は実質的には大きく変わらないと思います。ですが、このポーズこそが社会的には意味があることなのです」(同)

 やよい軒のごはんおかわり有料化は、現状あくまで一部店舗でテスト的に実施されているにすぎない。これらの店舗で不評となれば、やよい軒はまた堂々と元のシステムに戻せるというのが有馬氏の推測だ。少数派の意見がやけに大きくなって届いてしまう生きづらい時代なのはもはや仕方がない。それを割り切って、企業も対応する必要があるということなのだろう。

(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

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