今後の日本の推進力となるのは、地方ではないだろうか。

テレワークが急速に普及し、場所を問わず働くことができるようになった2020年。

また多くの企業で副業制度が導入され、仕事との関わり方も変わりつつある今、地方で起こるイノベーションがムーブメントを起こしているのだ。

2020年11月26日に開催したMASHING UPカンファレンスvol.4では、その予感を検証するべく、「地方から始まるイノベーション」と題したセッションをおこなった。

内閣府でオープンイノベーションの推進を担当する石井芳明氏、株式会社ベストインクラスプロデューサーズでマーケティングの支援をしながら、岩手県住田町で一般社団法人邑サポートのメンバーとしてまちづくりに携わる伊藤美希子氏、都市部の若者と地域をマッチングするwebプラットフォーム「おてつたび」を運営する、株式会社おてつたび 代表取締役 CEOの永岡里菜氏、さらに、モデレーターとして、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏が登壇。今、日本各地で起こっている事例や、それらが社会や経済に与える影響が語られた。

「よそ者」だから得られる視点を活かす

ベストインクラスプロデューサーズ マーケティングプロデューサー / 一般社団法人邑サポート 伊藤美希子氏。「まちづくりは、実際に公民館で人に会うといったような対面のコミュニケーションが大事。コロナ禍で繋がりの大半がオンライン化した今、いかに地方と都市部をスムーズに連携していくか、デジタルの活用は今後の課題」と話す。

伊藤氏は、東京に本社を置く企業でマーケティングプロデューサー/プランナーを務める傍ら、岩手県住田町でまちづくり支援に従事している。東京と住田町の2か所を拠点に活動する、「二足のワラジスト」である伊藤氏は、「よそ者」だからこそできることがあると語る。

住田町に関わるきっかけとなったのは2011年の東日本大震災。住田町が陸前高田市や大船渡市からの被災者を受け入れる仮設住宅を建設し、ボランティアからスタートした邑サポートが、町の行政と連携してコミュニティづくりを支援。その後も仮設住宅を拠点にし、住民交流や外部からのボランティアのコーディネートといった活動を続けてきた。

伊藤氏は、「ボランティアとして関わって下さった人たちとの関係性を活かし、地元の祭を活性化するイベントや、トレイルランニング大会の開催なども企画、サポートしています。

町の資源を外から把握し、町の人と外部の人材をつないでいく『つながりのデザイン』をすること、そして外部の人の力を借りながら新しい風を吹き込むことによって、町民の方々と協力し、町の活性化に貢献していきたい。その際、時に現地の人間関係や、昔からのしがらみを知らないよそ者だからこそ、新たな価値観が生み出せることも」と、経験者ならではの視点で語った。

都心と地方が共存できる仕組みをつくる

株式会社おてつたび 代表取締役 CEO 永岡 里菜氏。おてつたびサービスは、自身が日本全国を巡る中で着想を得たという。季節労働や出稼ぎ、住み込みバイトといった概念のリブランディングを試みている。

かつては宿場町として栄えていた住田町だが、その後バイパスが開通し、人の流入が減少。このように外から人があまり訪れない地域は、日本に数えきれないほど存在する。

永岡氏の故郷である三重県尾鷲市もそのひとつだ。「尾鷲市のように、知名度が低くとも、魅力的な地域はたくさんある」と話す永岡氏は、PRの仕事を経て独立し、「誰かにとって特別な地域を創出する」ことをミッションとした、人と地域をつなぐプラットフォームおてつたびを起業。受け入れ側の農家や旅館は、都市部の若者が仕事を手伝う代わりに、報酬を支払う。地域は短期的・季節的な人手不足を解消でき、若者はこれまで知らなかった地域を訪れ、さらに得られた報酬で、旅行でネックとなりがちな旅費を軽減することができる仕組みを生み出した。

「人手不足という問題があっても、どのような人が手伝いに来て、どんな仕事ができるのかという情報がないとお互いに手が出しにくい。そこをおてつたびがマッチングさせることで、参加した若者と地域の双方の満足度が上がり、観光などでの再訪率も6割と高くなっています」(永岡氏)

今、地方にチャンスが到来している理由

内閣府 企画官 石井 芳明氏。イノベーション政策や、スタートアップ支援を担う。
実は永岡氏は彼が作った人材育成プログラムの受講生の一人という。

内閣府にて国内スタートアップ企業の指導を担っている石井氏は、現在盛り上がっている地方創生の機運を後押しする3つの要素、「デジタル化・オープンイノベーション・価値観の変化」について言及した。

「東京圏に集中した人口を、地方に移す構想は昔からありました。その一つが、1980年に掲げられた田園都市国家構想。当時は実現には至らなかったが、今コロナ禍でデジタル化が一気に進み、状況は大きく変化。地域の自然と文化を楽しみながら仕事をする価値観が根づき始めたことを受けて、新たにデジタル田園都市国家構想が提唱されている」(石井氏)

もうひとつ、オープンイノベーションの気運が高まり、「政府や自治体が、課題解決のため民間のプレイヤーとの連携を必要としている」と石井氏。

さらに 「競争やお金儲けではなく、社会を変えたいという考えを持ったスタートアップが増え、そこにいい人材や資金が集まるようになっている」と、3つ目の要素として、社会の価値観が変化していることを指摘する。

地方にイノベーションが生まれる条件

早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏。経営戦略論、国際経営論を専門とする入山氏が、モデレーターとして日本の地方が秘める可能性について語った。

セッションの後半では、地方でイノベーションの創出に取り組む際の課題についても語られた。

「小さい町は、行政の担当責任者や町長などのキーパーソンと直接話せるので、アクションを始めやすいという側面があります。一方で、規模が大きい地域を外部から動かす時は、慎重さが求められるのではないか」と伊藤氏。永岡氏も、「もともと宿場町だった地域などは開放的な文化があるので、地域外からの人や考え方の流入にも寛容。

しかし、たとえば農村地域などは、外部の人に抵抗がある場合も」と、経験を語る。

では地方が今後、外からの新たな視点を取り入れ、しなやかに変化していくためには、どのような風土であることが望ましいのか。石井氏は、日本の中でも特にイノベーティブな地方として、福岡市に言及した。

「その理由は、市長のリーダーシップとともに、現場で動く人が変化に対して非常に意欲的であり、また祭などのイベントに、外からさまざまな人が訪れるオープンな環境があること。そして、『あそこに行けば、面白い人に会える』といった、“よそ者が行っても必ず地域のキーパーソンとつながることができる場”がある」と、外部の人間と地域のキーパーソンをつなぐ「場」の重要性について言及した。

その点、伊藤氏が住む住田町の場合は、仮設住宅の供用は終了したが、建物をリユースして交流の場として使用する計画も出ており、仮設住宅という資源が外部の人と町をつなげる拠点になるという。

持続的な地方創生が未来を創る

この先、地域が継続的に発展していく際に必要な要素についても、議論が及んだ。

2014年、第2次安倍政権下で多額の地方創生推進交付金が給付された。しかし石井氏は、一方的に配られる交付金でできることには限界があるとし、「次世代の地方創生には、地域の中核となる企業や名士が、地元の新しい事業を応援するなど、うまく資金が回る『温かい資金の流れ』が必要。持続可能な事業が増えれば人の流れが安定する」と語った。

また、継続的にイノベーションを生み出すには、ある地域で課題解決のために培われたノウハウが、同じ課題を持つ他地域に流用できると有益だろう。おてつたびには、地方の課題解決に詳しいユーザーも多くいる点に着目し、「今おてつたびが担っているのは、地域と人のマッチング。そこから発展させ、地域とナレッジのマッチングまでできれば」と、入山氏が“地方創生のインフラ”を目指すおてつたびが秘める、新たな可能性についても言及するシーンも。

これまでの地方の盛り上がりは、大都市のリソースを活用して起こるムーブメントが、地方へ波及する一方向なものが多かった。しかし、今後は地方が持つアセットと、都市部が持つエネルギーが交差して生まれるイノベーションが、日本全体に、もしくは国外へ影響を与えることを期待したい。

MASHING UPカンファレンス Vol.4

地方から始まるイノベーション
石井 芳明(内閣府 企画官)、伊藤 美希子(ベストインクラスプロデューサーズ マーケティングプロデューサー / 一般社団法人邑サポート)、永岡 里菜(株式会社おてつたび 代表取締役 CEO)、入山 章栄(早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授)

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