画像/MASHING UP

ウェルビーイングとは、肉体的にも精神的にも、そして社会的にも満たされた状態を指す。政府や企業もその重要性を認識し、さまざまな施策を打ち出すなか、医療インフラが乏しい発展途上国では、輸血用の血液が手に入らないことによって今も救えるはずの命が失われている。

こうした現状を改善すべく立ち上がったのが、ナイジェリアをはじめアフリカ3カ国で医療物流システムを展開するスタートアップLifeBankだ。

2022年11月11日に開催されたMASHING UP CONFERENCE vol.6では「社会のWell-beingをつくる、ダイナミックなビジネス」をテーマに、LifeBankのCEO テミー・ギワ=トゥボスンさんがキーノートスピーチを行った。

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アフリカの医療を変える事業のルーツは2人の人物

LifeBank CEOのテミー・ギワ=トゥボスンさんのビジネスは、医療基盤が整っていないアフリカにおいて大きな影響を及ぼしている。 画像:MASHING UP

アフリカの医療インフラには、まだまだ課題が多い。治療に必要となる医療用酸素や輸血パックが本当に必要とされている人に届かないという状況の中でギワ=トゥボスンさんがスタートさせたのが、アフリカの医療課題解決を目指すヘルステック企業LifeBankだ。

テクノロジーの活用によってアフリカ中の医療機関が血液や酸素、マスクや手袋といった消耗品を、必要な時に入手できるサプライチェーンや医療用酸素工場を開発した。

これまでに約8万人の命を救ったLifeBankのビジネスの歩みを話す上で、「2人の女性の物語が、変化を起こすという信念を授けてくれた」と話すテミーさん。

1人は急病の末、医療用酸素の不足のため亡くなったローズマリー医師。もう1人は、ナイジェリア郊外の農村で暮らしていたラベスという少女。19歳の時に妊娠した彼女は緊急事態による死産を経験するが、LifeBankの輸血のおかげで一命を取り止めた。ギワ=トゥボスンさんは、2人の女性のストーリーを語ったうえで「2人のような事例は医療インフラの不十分な発展途上国で散見されている」とし、こう続けた。

「私たちのチームはテクノロジーを活用することで、広範囲に影響を及ぼす革新的な技術やアイデアを構築し効率的に展開することができました。さらに民間・公共機関とのパートナーシップによってイノベーションを素早く実行に移せました」(ギワ=トゥボスンさん)

さらに、社会起業家を支援するスコール財団や女性起業家支援団体であるCWI(カルティエ ウーマンズ イニシアチブ)の評価により支援を受けたことで、バリューチェーン全体を手に掛ける真のイノベーターとしてスピーディーな展開ができたと述べた。

革新的なビジネスへのインスピレーションは、共感と挑戦

ギワ=トゥボスンさんは、創業のきっかけとなった2人の女性のストーリーや、これから実現を目指す社会のかたちなどを語った。 撮影/TAWARA(magNese)

深刻な社会課題にテクノロジーで変化を起こしたギワ=トゥボスンさんは、新たなビジネスを始める際の視点についてこう述べた。

「重要なビジネスへのインスピレーションはあらゆるところにあって、見知らぬ人の人生や、死にさえ見出すことができるのです。私たちが深く考え、長く見つめさえすればインスピレーションはどこにでもあるのです」(ギワ=トゥボスンさん)

ギワ=トゥボスンさんが始めた活動は現代のパンデミックでの人命救助にも大いに役立っており、LifeBankによって300本以上の酸素ボンベが供給され900人以上の命を助けることにつながっている。

また医療インフラという解決が困難な社会課題へのアプローチへ踏み切るために必要な要素について、ギワ=トゥボスンさんはこのように話した。

「私は決して飛び抜けて知的で、革新的で勇気のある人間ではありません。しかし私は、今日会場にいらっしゃる皆さんと同じように『これらの国の貧しい人々の生活を救う価値がある』という共感と挑戦する意志を持っています。

必要なのはそれだけです」(ギワ=トゥボスンさん)

LifeBankの活動が各都市へと拡大していくことによって、性別や職業に関係なく誰もが安心して医療機関に行きサポートが受けられるようになる。 そのような社会が私たちの目指すストーリーであるとし、キーノートスピーチを締めくくった。

根深い課題を抱える医療領域へのインパクト

SDGインパクトジャパン代表取締役 小木曾さんとMASHING UPの遠藤との対談の様子。 撮影/TAWARA(magNese)

キーノートスピーチの後は、SDGインパクトジャパン代表取締役の小木曽麻里さんとMASHING UP編集長の遠藤祐子が対談を実施。

国際的にスタートアップの機運は高まる中でアジアでもテクノロジーを用いて社会解題に着手する起業家は増えているが、日本においてギワ=トゥボスンさんのような女性の起業家の数はまだまだ少ない。

特に顕著なのがLifeBankのような医療分野であり、スタートアップにおける多様な視点の重要性について小木曽さんが解説した。

「医療の現場で看護婦さんや介護士さんに女性が多いからこそ、女性が起業して色々な視点を提供していくことは医療全体の底上げの点からも非常に大事

日本は世界的に見ても女性の起業が少なく、社会全体で支援していくカルチャーが必要」(小木曽さん)

近年広まりを見せるフェムテックといった領域だけではなく女性への支援の輪を拡大し起業家を増やすことが、社会や業界全体の底上げにつながっていくのではないだろうか。

撮影/TAWARA(magNese)

MASHING UP CONFERENCE vol.6

社会のWell-beingをつくる、ダイナミックなビジネス

テミー・ギワ=トゥボスン(LifeBank CEO)、小木曽 麻里(SDGインパクトジャパン 代表取締役)、遠藤 祐子(MASHING UP 代表理事)

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