フランス映画ならではのエレガントさと可笑しみが巧みに同居しつつ、途中少しサスペンスフルな展開もあったりと、上映時間96分の中で至れり尽くせりの心地よい作品です。

美しいバラを作るために格安のギャラで雇われたのがド素人のはみ出し者たちといったギャップはチーム映画の王道ともいえる愉しさで、また唯一プロフェッショナルであるバラ園オーナー、エヴ(カトリーヌ・フロ)が意外と大胆不敵な行動に出てしまうあたりの意外性も実にユニーク。

『ローズメイカー 奇跡のバラ』レビュー:バラ作りに挑む素人はみ出し者たちの可笑しくも優雅で熱い奮闘!


特に前半、新種交配のバラをゲットすべくライバルのバラ園に忍び込むあたり、どこかすっとぼけたフレンチ・コメディの味わいがあるとともに(さすがは怪盗ルパンを生み出したお国柄とでも言いましょうか!?)、本来なら雇い主として更生させねばならない前科者の青年フレッド(メラン・オルレタ)に泥棒(? いや、エヴは「借りるだけ」と言ってはいましたが……)をやらせてしまう彼女の、これまたどこかネジが1本外れているというか、あまり物事を深く考えるのが苦手なタチのような感じが実に良いのです。

また、そんな彼女に長年尽くしてきた助手ヴェラ(オリヴィア・コート)の常にハラハラドキドキしている風情も、もうそこにいてくれるだけで映画が弾んでいきそうに思えてしまいます。

『ローズメイカー 奇跡のバラ』レビュー:バラ作りに挑む素人はみ出し者たちの可笑しくも優雅で熱い奮闘!


バラ・コンクールをクライマックスとする映像そのものの華やかさは当然として、一見そういった場に不似合いに思えるような面々が、次第に似つかわしい存在感を発揮していくのもこの作品の妙味といえるでしょう。

さりげなく現代社会の諸問題も違和感なく挿入しているあたりも、エンタテインメントとはかくあるべきと唸らされました。

私事ですが、うちの実家の近くにもバラ園があって、時折のフェスティヴァルでは多くの人でにぎわうのを子どものころから目の当たりにしてきたもので、個人的にも懐かしい気持ちを味わうことができました。
(さらに余談ですが、吉永小百合みたいなレジェンドを主演に日本映画でこれをリメイクしてみたら面白いのではないかなと、ふと思ったりしてしまいました)

(文:増當竜也)

--{『ローズメイカー 奇跡のバラ』作品情報}--

『ローズメイカー 奇跡のバラ』作品情報

ストーリー
頑固者のエヴ(カトリーヌ・フロ)は、父が遺したフランス郊外にある小さなバラ園を営んでいる。かつては優秀なバラ育種家として名を馳せていたが、今やバラ園は倒産寸前。人を雇う余裕もなく、職業訓練所から派遣された3人をスタッフとして加えるが、バラの事を全く知らない素人の彼らは手助けになるどころか失敗続きで足を引っ張るばかり。そんな中エヴは世界初となる新種のバラの交配に着手。全てを懸けて翌年のバガテル新品種国際バラ・コンクールに挑むことを決心するが……。

予告編


基本情報
出演:カトリーヌ・フロ/メラン・オメルタ/マリー・プショー/オリヴィア・コート/ファツァー・ブヤメッド

監督:ピエール・ピノー

公開日:2021年5月28日(金)

製作国:フランス