■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

2017年11月15日、およそ100年間行方不明とされていたレオナルド・ダ・ヴィンチ最後の絵画とされる「サルバトール・ムンディ(世界の救世主)」が絵画オークションの場に出品され、何と史上最高額の4億5030万ドル(時価にしておよそ510億円)で落札されました。

<新作レビュー>『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』、ディカプリオをも巻きこんだ美術界の一大スキャンダルが暴かれる!


この「サルバトール・ムンディ」、実は謎の多い作品で、そもそもダ・ヴィンチが本当に描いたのかどうかも、実は未だに定かではありません。

(レオナルド自身が描いたものなのか、晩年のレオナルド工房で弟子たちに描かせたものなのか、さらには彼らが後に手掛けた複製画がいくつもあるのでは……などなど、実にミステリアスなのです)

そんな絵が2005年になってルイジアナの小さな競売会社のカタログの中からひょっこり出現し、そのときは1175ドル(およそ13万円)で落札され、その後これは本物の「サルバトール・ムンディ」とみなされ、12年後には法外な額にまで膨れ上がっていったのです。

しかし、その裏ではさまざまな魑魅魍魎の欲望が蠢いていたことを、本作はドキュメンタリーの形をとって明らかにしていきます。

<新作レビュー>『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』、ディカプリオをも巻きこんだ美術界の一大スキャンダルが暴かれる!


もともとはベン・ルイス著『最後のザヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』にインスパイアされて制作された作品ですが、あたかも上質のミステリ映画を見ているかのようでもあり、一方ではアートに群がる人間たちのおぞましさであったり、真実を見出そうとする飽くなき探究心であったり、とにもかくにも学芸員や鑑定士、修復者、美術商、仲介人、そして購入者(この人物を巡るくだりに至っては、もはや私ら凡人の想像の域など遙かに越えるコメディ!?)やルーブル美術館などなど、いろいろな立場の者たちが1枚の絵画の虜になりながら我を失っていくさまが見事に描かれています。

一方では実際に絵画を観賞した一般客の純粋なる感涙も対照的で、その中にはレオナルド・ディカプリオも含まれていましたが(同じレオナルドとしてシンパシーを感じやすかった?)、結局は彼らの感動の表情までも商売に利用されてしまうのでした……。

<新作レビュー>『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』、ディカプリオをも巻きこんだ美術界の一大スキャンダルが暴かれる!


いずれにしてもこの騒動、最終的に一番得をしたのは誰なのか? 

誰が損したのか?

それはじかに本作をご覧になって、ご自身で判断してみてください。

(いずれ劇映画にしても面白そう)

今年、2021年の2月に公開されたドキュメンタリー映画『レンブラントは誰の手に』もそうでしたが、芸術が商売になることからもたらされるさまざまな欲望とは、実に人間臭い業でもあるなあと痛感させられたりもしてしまった次第です。

(文:増當竜也)

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』作品情報

【あらすじ】
2017年、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の傑作とされる『サルバトール・ムンディ』、通称“男性版モナ・リザ”が、オークションで史上最高額となる510億円で落札された……。すべてはニューヨークの美術商の“第六感”から始まった。ダ・ヴィンチには“消えた絵”があり、それには救世主が描かれているという説がある。名も無き競売会社のカタログに掲載された絵を見て、もしかしたらと閃いた美術商が13万円で落札したのだ。その後、彼らはロンドンのナショナル・ギャラリーに接触、専門家の鑑定を得たギャラリーは、ダ・ヴィンチの作品として展示する。そんななか、お墨付きをもらったこの絵にあらゆる魑魅魍魎が群がり始める。その意外な身元を明かすコレクター、手数料を騙し取る仲介者、利用されたハリウッドスター、巧妙なプレゼンでオークションを操作するマーケティングマン、国際政治での暗躍が噂されるある国の王子……。一方で、「ダ・ヴィンチの弟子による作品だ」と断言する権威も現れ、そして遂に510億円の出所が明かされる。だが、それはルーブル美術館を巻き込んだ、新たな謎の始まりであった……。 

【予告編】


【基本情報】
監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ