●『キリエのうた』で映画初主演
6月に解散した“楽器を持たないパンクバンド”BiSH。そのなかで唯一無二の歌声で多くの人を魅了してきたアイナ・ジ・エンドが、映画『キリエのうた』で初めての主演に挑んでいる。


作品のファンだという岩井俊二監督のもとで、歌う時以外はほとんど声を出せないミュージシャンを演じたアイナ。「お芝居の教科書」と話す広瀬すずから受けた刺激や、共鳴する部分が多かったという役柄について話したほか、BiSH解散から約4カ月が経った今、感じている変化も明かしてくれた。

○■大ファンだった岩井俊二監督からの主演オファー「絶対にやりたい」

――『キリエのうた』で映画初主演を務められました。撮影を振り返っていかがでしたか?

とても好きな岩井俊二さんが監督だったので、初めての試みで不安があっても飛び込むことができました。以前から岩井監督の作品はよく観ていて、特に『PiCNiC』(96)と『undo』(94)、『スワロウテイル』(96)が好き。あと『リリイ・シュシュのすべて』(01)も……全部好きですね(笑)。
日の映し方や描写の切り取り方がファンタジーなのに毒々しいというか、少しゆがんだ世界なんですよね。確かに人間ってこうだよな、全てが綺麗に整ってるわけではないよなということをいびつに、でも愛らしく描くようなところが好きです。

――そんな大ファンの岩井監督からオファーがあったときはどんな心境でしたか?

本当にびっくりしたというのが率直な気持ちで。「私でいいんですか?」みたいな気持ちもありつつ、でも絶対にやりたいなと思いました。いろんな原因の不安がもちろんあったのですが、岩井組の皆さんや広瀬すずちゃんが一緒にいてくれて、なんだかいつも不安を糧に成長して、不安を糧に曲ができていったので、自信が持てた感覚がありました。

○■広瀬すずは“お芝居の教科書”

――撮影中、特に広瀬さんと一緒にいる時間が長かったそうですね。


すずちゃんとは、「岩井組って普段こうなの?」って聞いたら、「岩井組って自由だよ」とか、お芝居に関する話をゆる~くしていました。“これから友達になれそうかも”“わくわく”みたいな感覚の会話が多かったですね(笑)。話していてかなり心地いいんです。
すずちゃんは小さい頃から女優業をやってらっしゃって、私にとってお芝居の教科書。すずちゃんがいなかったら、最後までやり遂げられてなかったかもと思うぐらい、すずちゃんの存在はとても大きかったので、学ばせてくれてありがとうという気持ちが本心の中の本心にあります。本当に感謝しています。


――そんな大きな存在だった広瀬さんの現場での姿を見て、勉強になったことや刺激を受けたことはありますか?

すずちゃんはすごくクリアな方。心もすごく聡明な方なんだと思うんです。ねちっこい部分が全くない、あっけらかんとしたところがあるのにもかかわらず、陰りがあるお芝居のときはすごくじと~っとした雰囲気を漂わせていて、“なんでもできるんだ……”と、そのすごさに刺激を受けまくってました。

――なるほど。一方で松村北斗さんとも共演シーンが多かったと思います。

松村さんはお会いするまではとってもクールな方なんだなと思っていて。
漂う空気感とかから無口な人なのかなという印象があったんですが、いざお会いして撮影をしていると、スタイリストさんとかヘアメイクの方と、とても朗らかにお話ししていて、とっても明るかったんです。「こんな明るい人だったんだ」という衝撃があってギャップのある方でした。

○■キリエとの共通点「言葉が出なくなったりする時期があった」

――今回演じたキリエ(路花)という役はどういった印象でしたか?

今回いただいた役がとても自分と共鳴するポイントが多くて、私も人と話すよりもダンスでコミュニケーション取った方が仲良くなれるって思ってた学生時代があったりして。無意識に相手を傷つけるようなこと言っちゃってたらどうしようと考えてしまって、言葉が出なくなったりする時期があったんです。キリエも普段喋れないけど、歌なら歌える、このポイントがかなり自分をグッと役に入れてくれたので、すごくやりやすかったし、自分らしくいれたと思います。

――共通点があったことで、役に入りやすかったんですね。
逆に全く違うと感じるところはありましたか?

意外にキリエは人を警戒していないんですよね。初めて風琴(村上虹郎)さんが近寄ってきたときも、ちょっと微笑んでいる。キリエは誰に対してもそうなんですよね。すごい人見知りに見えるけど、人やものが好きで、愛することができる女の子なんだなって思うんです。でも一方で、私は壁を作ってしまいがち……。「この人、もしかしたら意地悪な人なのかもしれない!」と思ってしまうと、バッカーンと壁を作ってしまうところがあるので、キリエを見習って、もう少し開放的に過ごそうと思いました。


そういう瞬間の自分があまり好きじゃなくて、結局私はどんな人のことだって好きになるんですよ。好きになるくせに壁を作らなくていいじゃん! と。そこを乗り越えてきてくれた人とは仲良くなれるんですけど、壁を作られたら誰も来てくれないですよね……反省してます……(笑)。

BiSH解散後の変化を語る


○■BiSH解散で全てに変化「ちょっとの寂しさは感じます」

――今作で映画初主演を務め、BiSHが解散してから大きな転機になる作品になるかと思いますが、生活や心境に変化はありますか?

全部変化がありますね……何から話したらいいか、わからないぐらい全てが変わっている日々で、正直自分もついていくのに必死な毎日です。ありがたいことにインタビューとか、雑誌の撮影、バラエティなどに出させていただける日々で、最初は怖かったんですけど、どんどん楽しくなってきていて、最近は楽に息ができるようになってきました。やっぱりBiSHの時は6人いたので、6人で持ちつ持たれつでやっていたなと改めて思いますし、今はそれがないので。ちょっとの寂しさは感じますね。

――他のメンバーの皆さんが担ってくれてた部分も1人でやっていかないといけない責任がありますよね。

でもそれって逆もあって、例えば人様の歌をテレビで歌う時に「あ、この子ってすごい歌良くないね。BiSHの子なんだ」と言われてしまうと、BiSHの顔に泥を塗ることになってしまうので、BiSHにいながらのソロにはプレッシャーがあったんです。ですが、その看板がなくなった状態のひとりぼっちだと、どんなことをやっても全ての責任が自分にあるので、なんだか少し楽になる部分もあったというか。「楽しんでこよう!」だけで歌える瞬間もありました。

――ある意味、責任感とともに解放感もあったのですね。ちなみにBiSHメンバーの皆さんは今作をご覧になったのでしょうか?

モモコグミカンパニーが見てくれました! 多分(メールで)4行ぐらい感想が届いて嬉しかった。モモちゃんがいちばん最初に観てくれたんですよ。初号の前の完成前の状態だったと思います。私、モモカンのことがめっちゃ好きなんです(笑)。人格もですけど、書く本の内容とか、人が言わなさそうな意見を言ってくるところとか着眼点も好きで。そういう着眼点を持った女の子が映画を観たら、どういう感想が生まれるんだろうってワクワクしてたので、今度会ったらちゃんと話したいなと思っています。

■アイナ・ジ・エンド
大阪府出身。2015年から“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーとして活動。今年6月に行われた東京ドームでのライブ「Bye-Bye Show for Never」をもって解散した。10月13日公開の映画『キリエのうた』(auスマートパスプレミアムでは、会員限定で同作を1,100円で鑑賞できるキャンペーンを実施中)で映画初主演を務める。18日にはKyrie名義でアルバム『DEBUT』をリリースした。