12月に入ってから子育て世帯には喜ばしいニュースが入ってきました。東京都が実施する「高校の授業料の実質無償化」です。
まだ正式決定はしていませんが、実現すれば、対象となる子育て世帯の教育費の負担が減ることになります。そこで、現行制度と比較して、どのくらい家計への負担が減るのか、また、東京都以外の自治体はどうなるのかなど、気になる点を解説します。

東京都「高校授業料実質無償化」へ

東京都は2024年度から、都内在住の高校生を対象とした授業料助成の所得制限を撤廃し、私立校を含めたすべての高校の授業料を実質無償化する方針を固めました。

現在、東京都に限らず、国が実施する「高等学校等就学支援金制度」によって、高校に通う所得要件を満たす世帯の生徒に対して、授業料に充てるための資金の支給が行われています。支給額は世帯年収によって、年間11万8,800円の支給、私立高校などは加算され、最大39万6,000円まで支給されます。

所得要件は、親の働き方、子の数、子の年齢によって違いがあり、目安として、両親・高校生・中学生の4人家族で、両親の一方が働いている場合は年収910万円未満が対象となります。

<参考>家族構成別の年収目安

この他に、各都道府県が独自に実施する助成金があります。

東京都は、国による助成に加えて、授業料軽減助成金として、都内の私立高校の平均授業料相当額である47万5,000円まで(在学校の授業料が上限)の助成が受けられます。つまり、年収目安910万円未満の世帯は、47万5,000円の範囲内で、授業料の実負担額まで助成されるので、国公立私立問わず、高校の授業料が実質的に無料になるということです。

今回、この所得制限が撤廃される運びとなったため、都内在住のすべての高校生が「授業料無償化」の対象となります。
負担はどのくらい減るか
*910万円を境に明暗が分かれていた

現行の制度では、子どもが私立高校に通っている場合、世帯年収が910万円未満(※)であれば、高校の3年間で最大142万5,000円の支援が受けられます。しかし910万円以上になると支援は0円です。
年収909万円の世帯と年収910万円の世帯は、たった1万円の差で142万5,000円の差が生じるのです。

※両親・高校生・中学生の4人家族で、両親の一方が働いている場合

年収910万円は、手取りにすると650万円~670万円ほどになります。手取りで1,000万円を超えるならともかく、600万円台の手取りで足切りされるのは納得いかないでしょう。
*高校3年間でかかる教育費

高校の3年間でかかってくる教育費は授業料だけではありません。文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査」によると、入学金、授業料、施設整備費、修学旅行費、学校納付金、PTA会費、図書費、学用品、通学費、制服など、学校に通うために必要な費用の合計である「学校教育費」は公立高校で93万4,242円、私立高校では224万1,545円となっています。

授業料については、高等学校就学支援金や学校独自の減免額は除かれた金額となっているので、それでも多くの費用がかかっていることがわかります。


この他に学習塾や習い事などの「学校外活動費」が公立高校で60万8,874円、私立高校で91万4,856円かかっており、高校3年間の教育費総額は公立高校で154万3,116円、私立高校で315万6,401円になります。

今回の東京都の取り決めによって、所得制限がなくなり、都内在住のすべての高校生の授業料が実質無料になれば、これまで助成を受けられなかった公立高校に通う高校生がいる家庭では35万6,400円、私立高校に通う高校生がいる家庭では142万5,000円の教育費の負担が減ることになります。特に、所得制限を超えた私立高校に通う子どもがいる家庭では、学校教育費の負担が6割以上減ることになります。
東京都以外の自治体は?

今回の決定は東京都の方針であるため、他の自治体はこれまでどおりに所得制限があります。東京都に追随する形で他の都道府県にも「高校授業料実質無償化」は広がるのでしょうか。

まず、他の都道府県と東京都とでは、私立高校の数に違いがあります。


文部科学省の「学校基本調査」によると、東京都内にある全日制の高校の61%が私立高校であり、その割合は全国1位です。そのため、他県によりも「高校授業料実質無償化」を行う場合は財源が必要になりますが、東京都は予算規模が大きいので、それが可能となります。

私立高校が多ければそれだけ要望が多くなり、私立高校が多い大都市ほど、財政力もあるので、他の大都市が東京都に続く可能性は高いでしょう。

実際、東京都の次に私立高校が多い大阪府は、2024年度から段階的に授業料無償化を適用し、2026年度には、全学年で授業料を完全無償化する方針を示しています。

一方で、財政が乏しい自治体では、完全無償化が難しい場合があります。そうなると、住んでいる都道府県によって、高校の授業料を負担するケースとしないケースができてしまい、同じ子育て世帯でも経済支援の不公平が生じます。
これを理由に完全無償化を実施している自治体に移住する動きが出て、実施できない自治体は若い人が流出し、より財政が厳しくなることも考えられます。そうなる前に国が完全無償化に向けて動いてくれることを願います。

石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら