●コント作りと小説は完全に地続き
お笑いコンビ・レインボーのジャンボたかおが、デビュー小説『説教男と不倫女と今日、旦那を殺すことにした女』を出版した。相方である池田直人から「お前の性格、思想、正義、タイプ……すべてが出ている」と断言されたというほど、自らをさらけ出した。
そこには、ジャンボならではの芸人としての思いが詰まっているという――。

2016年に結成されたお笑いコンビ・レインボー。リアルな人物描写を得意としたコントは人気を博し、2023年にはYouTubeの「レインボーコントチャンネル」の登録者数は100万人を超えた。そんななか、コントを元に物語を紡いだものが、1冊の小説として発売された。

「noteに小説の真似事みたいなものを書いていたのですが、特別小説を出したいとか、そういう考えは全くなかったんです。だから『小説を出版しませんか?』という話をいただいたときは、『俺みたいなものにそんなこと言ってくれるなんて、ありがたいな』という気持ちでいっぱいでした」

“物書き”という職業には「1ミリも憧れたことはなかった」というジャンボ。
幼少期から本を読む習慣があったわけでもなく、特別作文が得意ということもなかった。どこかにルーツがあるのか……じっくり考えてみると、唯一思い当たる節があるのが、ドラマ好きということ。

「『王様のレストラン』や『やまとなでしこ』、『お金がない』あたりが大好きでした。なんとなく『こんな物語は面白いのかな』なんて話を頭で想像することはありました。あとは、俺は大学時代アナウンス研究会というサークルに入っていたんです。そこで番組発表会という出し物があって、ラジオドラマや15分のDJ番組を作るんです。
そのとき映像とかミニドラマを作っていたのですが、物語を考えるという癖みたいなものがついたかもしれません」

○「小説もレインボーの単独ライブを作ったみたいなイメージ」

頭のなかで想像したストーリーを文字にすることにはあまり抵抗がなかった。思ったよりもスラスラと書くことができた。コントを考えるときも、文章に困ったことはなかったという。しかし、出版物として出すということは、ジャンボが思っていた以上に、ハードルが高かった。

「楽しく書いていたのですが、本来俺はとてもだらしない性格。昭和の文豪みたいで生意気ですが、いろいろな理由をつけて締め切りを延ばしてしまい、結局1年半ぐらいかかってしまいました。
ついサボって先輩とパチンコ打ちに行ったりして迷惑をかけてしまいました」。

お笑い芸人という軸を持ちながらの執筆。小説はコントのネタが元になっているところもあったというが、コントのネタを書くのと、小説を書くのは相容れるものなのだろうか――。

「俺の場合はめちゃくちゃ同じでしたね。ほぼコントっぽく書いていたので。あまりコントを書く、小説を書く……という境目はなかったです。
まあ多少表現的に小説っぽい言い回しみたいなものは意識しましたが。でもコントを書いていたので、すんなり小説も書けたと思います。普通にコントを作っていくうちに、いろいろ蓄積されていったのだと思います」

さらにジャンボは、今回書き上げた小説について、完全にコントと地続きであることを力説する。

「この小説って、言ってみればお笑いの単独ライブなんです。お笑いの単独ライブって芸人にとっては、非常に大切なもので。俺らは単独ライブをやるとき、一つの作品として終わりたいというか、観に来た方が『作品を観た』という気持ちになってもらいたいと思ってやっているんです。
だからこの小説も、レインボーの単独ライブを作ったみたいなイメージなんです」

処女作で「すべてさらけ出した」


小説もコントも、登場するキャラクターのリアルさには舌を巻く。人間観察力はどのように養われていったのか――。

「あまり意識して人間を観察しよう……という気持ちではいないですね。自然と人の面白いところを探していることはありますが。でも芸人はみんなそういうことは得意なんじゃないですかね」

あくまでも自然に人の特徴的なところが意識のなかに入ってくるという。そんななか、相方の池田が、取材で話していた言葉が気になったという。


「以前の取材で同じような質問をされたんですよ。そのとき池田が『俺、人間観察ほんま趣味で、カフェからずっと人を観察することもあります。街で面白い人を見つけたらボイスレコーダー用意して、人のしゃべり方とか真似しますね』って話していたんです。もう『絶対嘘じゃん!』って(笑)。100パー嘘! しょーもないところで嘘つくんですよあいつは(笑)」

ツッコみどころ満載の池田だというが、基本的に「優しいヤツなんですよ」と笑顔を見せるジャンボ。そんな池田は、ジャンボの小説をどう思っているのだろうか。

「池田は俺の性格をすべて知っている。親よりも分かっていると思うんです。その池ちゃんが、俺の全部が出ている小説だねってって言っていました。俺の性格、思想、正義、嫌な部分、嫌いな奴、俺のタイプ……すべてが出ているって言っていました」

○「さらけ出すことで笑ってもらえて、寄り添えるって素敵」

小説で恥ずかしいところを含め、自分の全てをさらけ出したというジャンボ。芸人という仕事をするうえで、自らを“さらけ出す”という行為は、果たしてプラスなのか。

「どうなんですかね。例えばミステリアスな部分を売りにする芸人もいると思うんです。ケンコバさんなんか、普段何をしているのか、一切想像つかないですからね。だけど俺はさらけ出したいと思っています。この本も俺は身体でぶつかったので、俺みたいなおじさんに刺さってくれたらめっちゃうれしいですよね」

さらにジャンボは、恥ずかしくて隠したくなるようなことを、さらけ出すことが、誰かの救いになることも、芸人という仕事の魅力だという。

「芸人になって、唯一ありがたいなと思ったのは、自分のめっちゃつらかった部分、例えばいじめられていたことや、バレーボール好きじゃないのに部活に入って毎日楽しくない地獄の日々を送ったこととか、そういうことをさらけ出すことで、共感して救われる人がいる。自分の恥部、小説で言えば、どれだけセックスすることに執着し、リビドーの爆発があったか……とか、いま童貞でつらい人には刺さると思うし、笑ってもらえるかもしれない。多分200人とセックスしている芸人より、俺の方が童貞で悩んでいるヤツを抱きしめられると思うんです。さらけ出すことで笑ってもらえて、寄り添えるって素敵ですよね」

こうした考えは、相方の池田とも共通の認識だという。

「池田の何がいいかって、彼もコンプレックスまみれな部分があるんですよね。池田にも悲しい面がたくさんある。そこがあいつの好きなところなんです。つらい部分によって人を救えることもあるんじゃないですかね。俺らは正直にさらけ出していきたいと思っています」

出版後、大好評となった『説教男と不倫女と今日、旦那を殺すことにした女』。さらに続編も……という野望はあるのか。

「続編は100パーセントないです。すべてさらけ出したので。この終わり方も好きなんですよね。でも映像化はしてほしい。主人公はキングオブコントで準優勝したカゲヤマの益田康平さんで。益田さんもめっちゃ面白くて、皆から愛されているのに、信じられないぐらいモテない。絶対益田さんでお願いしたいです(笑)」

今後の目標は「キングオブコント優勝」と語ったジャンボ。プライベートでは「ベトナムでパチスロ打ちたい。いま日本で打てなくなった台がベトナムで打てるんですよ。5日間ぐらい休みとって、打ちまくりたいです」と笑っていた。

■ジャンボたかお
1989年6月25日生まれ、千葉県出身。2016年2月に池田直人とお笑いコンビ・レインボーを結成。2018年1月1日放送の『ぐるナイ おもしろ荘』(日本テレビ)で優勝し話題に。『千鳥のクセスゴ!』(フジテレビ)では常連として活躍している。毎日ネタをアップしているYouTubeチャンネル「レインボーコントチャンネル」も人気。個人のYouTubeチャンネル「レインボー ジャンボたかおの食うチャンネル」も開設している。