豪華ミュージカル俳優陣(安蘭けい、石川禅、浦井健治加藤和樹咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子柚希礼音、吉原光夫)が集結することでも話題となっている、ミュージカル『カム フロム アウェイ』(東京公演:日生劇場3月7日~29日、大阪公演:SkyシアターMBS 4月4日~14日、 愛知公演:愛知県芸術劇場 大ホールにて4月19日~21日、福岡公演:久留米シティプラザ ザ・グランドホール 4月26日~28日、熊本公演:熊本城ホール メインホール 5月3日~4日、群馬公演は高崎芸術劇場 大劇場にて5月11日~12日)。

同作は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件(9.11)で行き場を失った飛行機のうち38機が、カナダのニューファンドランド島にある小さな町・ガンダーに不時着した実話から、人種、国、宗教、すべてを越えて繋がる人と人との心の物語をミュージカル化した。
トニー賞、ローレンス・オリヴィエ賞、ニューヨーク・タイムズ紙の批評家賞をはじめ、数々の演劇賞を受賞し、この度日本初演を迎える。今回は、ホリプロ 井川荃芬プロデューサーにインタビュー。ミュージカル上演のプロセス、またキャスト選出についても話を聞いた。

○■ミュージカル『カム フロム アウェイ』プロデューサーにインタビュー

――まずはこの作品との出会いについて教えてください。どうして日本で上演しようと思ったんですか?

私はホリプロに入社してまずはマネージメントの部署に配属されたのですが、その時から舞台が好きで、夏期休暇を使って毎年ブロードウェイに舞台を観に行っていたんです。観劇スケジュールから旅行を組み立てて、マチソワマチソワで「滞在中に12本観ます!」みたいな(笑)。
周囲も「井川の夏休みはどうせNYだろう」という感じでした。

なので演劇の部署に異動になってからもルーティンとしてブロードウェイに行っていました。『カム フロム アウェイ』も2017年のトニー賞で話題になり前評判の高さも知っていたので、2018年に観に行きましたが、観劇前は「9.11の話」ぐらいの知識で。それなのに、観終わった瞬間に「絶対に日本で上演したい」と思ったんです。やっと取れたチケットが1階席の最後列だったのですが、とにかく舞台上から伝わってきた人のパワーがすごくて。「9.11」という状況の中で、人と人が繋がり、国境も全てを越えてみんなが一緒になって今を生きるということをエネルギーにしていて、しかもたった5日間の中で生まれた絆が10年、20年経ってもつながっている物語に圧倒されました。


あとは作品の作りの素晴らしさ。ノンレプリカで上演している国もあるのですが、今回日本ではブロードウェイ版の演出で上演します。キャストの方からも「どうしてレプリカにしたの?」と聞かれたのですが、やっぱり最初に観た演出が何よりも秀逸だったんです。12人で100分を上演する中で100名近くを演じ分け、物語をシンプルに真っすぐ語って伝えてくれている。長年かけて創り上げられ、削ぎ落とされて完成された作品を、ぜひ日本でも上演できたらと思いました。これをそのまま日本語で届けられたら、同じパワーを届けられるんじゃないかなと思って、劇場を出てそのまま上司に「絶対やりたい」とメールしました(笑)。
滞在期間中に関係者の方に繋いでもらい、アプローチをスタートしました。

リードプロデューサーにすぐアプローチができたのは、本当に運が良かったと思います。いろんなパターンがあるんですけど、やっぱり根幹となる方々とお話をスタートさせていただけたというのはすごく大きくて。当時はこれから世界中に進出していく、というくらいの時期だったので、「ぜひ日本でやりましょう」ということで交渉がスタートしました。

○■それぞれ誰が出るかわからない中で集まったキャストたち

――その情熱がキャストを集めるに至ったのでしょうか? どういう経緯で集まったんですか?

NYで観劇した際に、「もし日本で上演できることになった時にこの役はこの方に演じていただいたらピッタリなのではないか」など妄想キャスティングをしており、それぞれの方に精一杯の思いを伝えました。結果として、この物語を伝える素晴らしいパワーある方々が集まってくださったので本当に感謝しています。
そして、日本側のスタッフさん、スタンバイを務める方々(上條駿、栗山絵美、湊陽奈、安福毅)も素晴らしい方に入っていただけることになりました。舞台上で放つ個性が素晴らしいですし、さらには、キャストの方々がただそこで生きてくださっていることで、単純に「いい作品だったね」で終わらない日本版になっていると思っています。

――普通は集まることのない方達が集まっているのでは…という印象もあります。

先日スタッフさんに「これ、新春コンサートじゃないですよね?」と言われて(笑)。出演する皆さんもお話をさせていただいた時は、誰が出るかわからない中で聞いてくださっていたので、出演を決めてくださったことが本当にありがたいです。

――これだけ削ぎ落とされた作品ということで、ミュージカルに“ド派手エンターテインメント”を求める観客からは驚かれるかもしれないと思いますが、いかがですか?

削ぎ落とされた演出で伝える本作品をきっと楽しんでいただけると思っています。
役者さんがシンプルに舞台上で生きています。ただそれは役者さんにとってはとても怖いことだとも思います。今回は開演したら舞台上ではスタッフが一切手を出せなくて、転換も全て役者自身がやるんですよね。本当に人の力で助け合い、100分間を劇場で一緒に共有する。「こういうミュージカルもあるんだ」ということも感じて頂けると思うので、期待して足を運んでいただけたらすごく嬉しいです。

お客様は貴重な時間と費用を使って観に来てくだるので、皆様に満足していただけるものをお届けできるように頑張ります。
お一人で来ていただいてもパワーをもらえると思いますし、誰かと一緒に観に来ていただいても観劇後に色んな会話をして頂けると思います。若い世代の方にも、人と繋がることの面白さや楽しさなどを感じてもらえると思います。

キャストの方々も「今までで1番大変」と言いながら稽古を毎日行ってくださっています。本当に素晴らしいので、ぜひ一人でも多くの方にこの物語が持つ魅力を届けたいですし、パワーをもらいに来ていただけたらと思います。

■井川荃芬プロデューサー
2008年、ホリプロ入社。関わった作品に『スクールオブロック』『キングアーサー』『COLOR』『ジェイミー』『メリー・ポピンズ』『ビリー・エリオット』『デスノート THE MUSICAL』『スリル・ミー』など。)