「都心では物価が高いので、生活していくのが大変だ」または「地方は物価が安いので、生活費が都心に比べてあまりかからない」と世間で言われていることは、本当なのでしょうか。

お金の扱い方について、都心部と地方部では、違いがないのでしょうか。


連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京と地方、両方の生活を経験して感じたことを交えながら、お金に関する情報などをお伝えいたします。

○1.街の「素顔」は図書館に現れる

地方移住を検討する際、多くの人がまず「仕事」や「住居」、そして「補助金」といった条件に目を向けます。もちろん、生活の基盤となるこれらのお金や情報のチェックは必要です。しかし、実際にその地域で「根を下ろして暮らす」ことを想像したとき、本当に大切なのは、スペック上の数字ではなく、日常の質を支える「居場所」の有無ではないでしょうか。

私自身、地方へ足を運ぶと、必ずその地域の図書館を訪ねるようにしています。図書館に行くと、そこに暮らす人たちの日常が感じられます。どのような蔵書が並び、どんな人たちがどのように過ごしているのか。図書館内の様子を観察するだけで、その地域が住民に対してどのようなサービスを提供し、どのような空間を設けているのか、その「街の姿勢」が少しだけ見えるような気がするのです。
○2.図書館は「自治体の志」を映す鏡

地方自治体が予算をどんなことに投じるかは、その地域の未来図を映し出します。立派な箱物があっても、中身が閑散としていたり、メンテナンスが行き届いていなかったりすれば、それは住民の日常に寄り添えていない証拠かもしれません。

一方で、創意工夫を凝らした図書館がある自治体は、「暮らしの豊かさ」を文化や交流の面から支えようという意志が感じられます。整理整頓された書物、本棚横に設置された椅子、常に清潔なトイレ、そして多様なイベント。
それらは、単なる住民サービスを超えて、移住者にとっても「この街ならば、自分や家族の時間を大切にできそうだ」という安心材料になります。

3.移住前にチェックしたい「居心地のよい暮らし」にするポイント


移住の下見で図書館を訪れたら、単に本を借りる場所としてではなく、「暮らしの拠点」として以下のポイントに注目してみてください。

・「子育て現場」の空気感
子どもへの読み聞かせ会が定期的に開催されているか、ベビーカーのまま入れる広い通路があるか、おむつ替え台や授乳室が設置されているか。楽しそうに本を選ぶ親子の姿は、その街の子育て環境がどれほど整っているかを実感させてくれます。

・「サードプレイス」としての居心地
予約制の学習デスクや、PC作業が可能なラウンジがあるか。また、館内にカフェが併設されていれば、そこは単なる読書の場ではなく、一人の時間を慈しむ「第三の居場所」になります。

・「地域交流」の温度感
図書館の横に交流施設が併設されているケースもあります。掲示板にある地元のワークショップやサークル活動のポスターを見れば、その街のコミュニティの活発さや、新しく入る人への寛容さを推し量ることができます。
○4.地域の個性が光る、知っておきたい各地の図書施設

具体的に、移住材料として見ておきたい、個性的な図書館をピックアップしました。

・みんなの森 ぎふメディアコスモス(岐阜県岐阜市)
巨大なグローブ(傘)が吊り下げられた開放的な空間が特徴です。ここは単なる図書室ではなく、市民の交流、展示、多文化交流が一体となった「広場」のような複合文化施設です。行政がいかに市民の対話を重視しているかが肌で感じられます。


・小布施町立図書館 まちとしょテラソ(長野県小布施町)
「学びの場」「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」という4つの柱による「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」という理念のもと建築されました。ここでは「館内での会話」が許容されており、まるでお茶の間のような温かさがあります。移住者が街に溶け込むヒントが見つかるかもしれません。
○5.終わりに:図書館の椅子に座ってみることから始める

移住は人生の大きな決断です。だからこそ、役所の窓口でパンフレットをもらうだけでなく、その街の図書館の椅子に座り、1時間ほど本を読んだり、周囲の様子を眺めたりして過ごしてみてください。

そこにある空気感、窓から見える景色、利用者の穏やかな表情。それらすべてが、その街での「未来の日常」を表しています。金銭的な支援も大事ですが、心が豊かになる「空間」を住民のために提供しようとする自治体の姿勢。それこそが、長く幸せに暮らすための真のチェックポイントなのだと思います。

高鷲佐織 たかわしさおり ファイナンシャル・プランナー(CFP 認定者)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/DCプランナー1級。 資格の学校TACにて、FP講師として、教材の作成・校閲、講義に従事している。過去問分析を通じて学習者が苦手とする分野での、理解しやすい教材作りを心がけて、FP技能検定3級から1級までの教材などの作成・校閲を行っている。
また、並行して資産形成や年金などの個人のお金に関する相談を行っている。資格の学校TAC講師(プロフィール一覧)。一般社団法人理想の住まいと資金計画支援機構(相談員)。 この著者の記事一覧はこちら
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