映画、ドラマ、舞台と精力的に女優業を続ける篠原涼子。デビューから30年を超える活動のなか、常に一線級で活躍してきた篠原だが「さらなる挑戦がしたい」と強い気持ちで臨んだのがNetflixシリーズ『金魚妻』。
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「リアルで生々しいお芝居をしたい」 久々の本格恋愛ドラマで見せた新境地
累計300万部を突破した黒澤Rによる大ヒットコミックを原作にしたNetflixシリーズ『金魚妻』。さまざまな“妻”たちが禁断の恋を繰り広げる本作で、篠原は、夫との関係に悩むなか、偶然出会った年下男性・春斗(岩田剛典)と一線を越えてしまう女性・さくらを熱演している。篠原にとっては久々となる本格恋愛ドラマであり、セクシャル的な部分も含め、新たな一面を見せている。
「お話を頂いたときはちょうど新しい表現にチャレンジしてみたいというか、開放感のある芝居がしてみたいなと思っていた時期だったんです。地上波では、原作の持つ本当の表現もすべて表現しきれない場合もあります。題材がセクシャルな部分もあるのかもしれませんが、しっかりとリアルで生々しいお芝居をやってみたいと思っていました。体当たりで挑戦する場所ができたという意味では、ご褒美のようなお話でしたし、いろいろと広がるなという実感がありました」。
篠原が演じたさくらは、高層タワーマンションに住み、夫婦で事業を手掛ける仲睦まじい誰もがうらやむような外見だが、実は夫に支配され、逃げ場を失ったという女性。そこにすべてを包み込んでくれる春斗という男性が現れた。
「さくらは一見、すごくか弱い女性のように映りますが、芯はすごくしっかりしている。
これまで篠原が演じてきた役は、どちらかというと凛々(りり)しく、強さ溢れる女性が多い。篠原に抱くパブリックイメージも、そういった役を反映しているのか、元気で闊達(かったつ)な女性という印象がある。
「やっぱり春斗みたいな人がいたらいいなとは思いました。私も『一人で生きていけるでしょ』って思われがちなのですが、意外とそうでもないんですよ。すごく寂しがり屋だし、人に頼りたいという思いはあるので、さくらが春斗と出会うことによって、人の優しさやぬくもりを知って、本当の自分を出せたり、いままで自分のなかで気づいていなかった感情と出会ったりする部分は共感が持てました」。
劇中には、金魚妻、外注妻、弁当妻、伴走妻、頭痛妻、改装妻とユニークな妻たちが男性たちに翻弄(ほんろう)されながら、救いを求めて行動する姿が、シリアスかつ滑稽に描かれる。こうした男女の性は、篠原の目にはどう映ったのだろうか。
「ドラマのなかでは、どちらかというと男性が責める側で、女性が受け身なので、画的には男性が強く見えますが、本質は男女ともに変わらないと思うんです。
「お芝居が大嫌い」だった 女優人生に影響を与えた大きな出会い
30年以上にわたって女優として活動してきた篠原をして「運命的な出会いだった」と表現した本作。そんな作品に出会えたのは、長きにわたり女優業を続けてきたから。女優を始めたころはお芝居が「大嫌いだった」という篠原だが、ある人物との出会いで、その気持ちは大きく変わった。
「2001年に出演した『ハムレット』という舞台で蜷川幸雄さんと出会ったことは、とても大きかった。それまでもドラマや映画に出演させていただいていたのですが、正直全然お芝居を楽しいと思っていなかったんです。でも舞台でお客さんと向き合ってお芝居をしたとき、生のお客さんのリアクションを感じることができたんです。その反応がすごく生々しくて、もっとやりたいと思いました。蜷川さんも初舞台のときは、とても優しくてすごく褒めてくださったんです。私は褒められると調子に乗るタイプなので『もっと、もっとお客さんを喜ばせたい』と勇気が持てました」。
貪欲に芝居に取り組むようになり、演じることの楽しさに魅了されていく篠原。しかし、芝居の楽しさを知れば知るほど、同時に思い通りにならない難しさも痛感することになる。
「それまではなんとなくやっていたお芝居ですが、好きな仕事に変わってしまうと、もっとうまくなりたいと思うわけです。そうするとうまくできない自分にも直面して『なんでできないんだろう、本当に不器用だな』と落ち込むんです。でもそれを直すのって、繰り返しやるしかない。やっていくうちに、身体が覚えることもあるんですよね。いまだにくじけることは多いです。『もっといろいろと経験しておけば良かった』という後悔は常にあります」。
キャリアを重ね、ベテランと呼ばれる年齢になったことで、ダメ出しされる機会も少なくなっているのではないか――。
「まあ、面と向かって怒られることは少なくなりましたが、2018年に出演した舞台『アンナ・クリスティ』の演出を務めた栗山民也さんには、厳しく指導していただきました。やっぱりいくつになっても、しっかりと教えていただけることというのは、宝物だと思います」。
「もっと新しい表現を模索したい」と貪欲に俳優業に向き合う篠原。
「やっぱりこの仕事って正解がないので、やればやるだけ突き詰めていけるし、いくらでも楽しいことって見つけられるはずなんです。しかも、それを観ている人に伝えることができる。すごく魅力的な仕事だと思うし、目指せばいくらでも前に進めると思うんです」。
一方で、女優は年齢を重ねると役柄の幅が狭まるという現実を口にする人もいる。
「もちろん、自分の年齢を意識しながら仕事をすることも大切だと思います。でもあまり年齢にとらわれて『この年になったから、こういう役しかできないな』みたいに考えてしまうと夢がないですよね。役者って役になってしまえば、非現実的なことだって、なんでもできると思うんです。だからこそ限界を決めず、これからもチャレンジしていきたいと思っているんです」。
「あまり決めつけることが好きではないんです」と語っていた篠原。その柔軟性と変化を楽しめる懐の深さが、彼女の大きな魅力なのかもしれない。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)
Netflixシリーズ『金魚妻』は2月14日より全世界同時配信開始。