『劇場版モノノ怪』が、ついに完結。5月29日に封切られた『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』をもって、2024年に始動した劇場版プロジェクトに幕を下ろす。
【写真】神谷浩史、凛とした和服姿の撮りおろしフォトギャラリー
■今回の薬売りは“仮面ライダー2号” 中村健治総監督から託された、新たな薬売り像
――『劇場版モノノ怪』が、この第三章でついに完結を迎えます。それに対しての率直な思いを聞かせていただけますか?
神谷:ようやく終わるのか、という感覚がありますね。最初から三部作だということは聞いていたので、始まった以上いつか終わりは来るんだろうなとは思っていました。ただ、その“最後”がいつになるのか、たぶん僕だけじゃなく、みんなまったく想像できていなかったと思うんです。
実際『唐傘』の公開翌日に『火鼠』のアフレコをしていて、最初はすごくテンポよく進んでいたのですが、この『蛇神』に関しては、その時点ではまだ監督の頭の中にしか存在していないような段階だったんじゃないかなと思っていて。だから僕は「そのうちやるんでしょ」くらいの、ある意味すごく無責任な感覚でいたんですよね。
でも、それは僕がアフレコにしか関わっていない立場だから言えることで。
僕たち声優は、仕事が決まった瞬間が一番うれしかったりするんですよ。そこから先は、ある意味“終わりに向かっていく作業”でもあるので。もちろん責任感もありますし、やらなければ終わらないのですが、『劇場版モノノ怪』に関しては“いつか終わりは来るけど、まだ終わらない”という「夏休み」のような感覚がずっとあったんです。いい作品ほど“続きが約束されている”ことって幸せだと思うので、その時間をすごく楽しませてもらえました。
だからこそ、今回ちゃんと最後までたどり着けたことには、本当にホッとしています。作品は、始まったものが必ずしも“みんなが望む形”で終われるわけではないので……。途中で止まってしまう企画もありますしね。でも今回は、第一章、第二章を経たうえで、第三章がしっかりその積み重ねの上に成立していて、“最高にエンタメしている”作品になっていた。劇場版の薬売りを最後までちゃんと導くことができて、本当に良かったなと思っています。
――2024年から始動した新作劇場版から“薬売り”というキャラクターを演じてきて、役に対するご自身の理解や距離感に変化はありましたか?
神谷:僕自身の中では、実はそこまで大きな変化はないんです。というのも、オーディションの段階で中村監督から、今回の“薬売り”に関する情報を必要な分だけしっかりいただいていて。
――なるほど。ただ『唐傘』の頃から比べると、この『蛇神』では大奥のキャラクターから見ての薬売りの印象が大きく変わったように描かれていましたよね。
神谷:その通り。作品を観てくださる皆さんにとっても、また違う見え方になると思います。最初は「なんだこいつ!」という存在だったものが、坂下をはじめ、周囲のキャラクターたちの感情や態度の変化を通して、少しずつ見え方が変わっていく。その変化自体が、薬売りというキャラクターを立体的に見せるためのギミックになっていたと思います。
だからこそ「最初と印象が変わった」と感じる方がいるのは、すごく自然なことだと思いますし、それだけ周囲のキャラクターたちがきちんと機能していたということなんじゃないかなと思っています。
――ちなみに、中村監督からは、薬売りについてどんな説明をいただいていたのでしょうか?
神谷:これまでのインタビューやイベントでも何度かお話ししているのですが、中村監督からは「今回の薬売りは“仮面ライダー2号”です」と言われていました。テレビシリーズの薬売りが“1号”だとしたら、今回の薬売りは“2号”なんだと。
劇場版の舞台となるのは、男子禁制の大奥。あの世界にアプローチする上で、テレビシリーズの薬売りみたいに“何か問題が起きてから動く”スタンスだと、おそらく間に合わないんですよね。だから今回は、自分から“入ってはいけない場所”へ踏み込んでいく。おそらくテレビシリーズの薬売りだったら、そこには入っていかないと思うんです。でも、それだと物語自体が動きづらい。だから今回の薬売りには、“能動的に人を助ける”という性格設定がされていたんだろうな、と僕は受け取っていました。
テレビシリーズの薬売りって、本当に格好いいんですよ。視線ひとつ、息づかいひとつ、たった一言のセリフだけで、“何を考えているかわからないけれど、本質は見抜いている”という雰囲気を成立させている。でも、僕が演じた今回の薬売りは、そういう存在ではないと思っていて。ちゃんと傷つくし、自分の身を犠牲にしながら真相へ迫っていく。そこはすごく人間的で、僕自身も共感しやすかったんです。
逆に、テレビシリーズの薬売りのような“自分は動かず、すべてを俯瞰して解決する”という存在は、僕の中にはあまりない感覚なので、もし「あの薬売りをそのままやってください」と言われていたら、かなり難しかったと思います。でも監督から最初に「神谷さんに演じてもらう薬売りは、そういう存在ではありません」と伝えていただいていたので、それなら自分なりのアプローチができると思って構築していきました。その印象は、この三作を通しても変わっていないですね。
――その一方で、劇場版では坂下をはじめ、周囲のキャラクターたちとの関係性の変化も印象的に描かれていました。薬売りは彼らをどのように見ていたと思いますか?
神谷:シリーズを通して坂下をはじめ、さまざまなキャラクターとの関係性が描かれてきましたし、観ている皆さんにとっては微笑ましさを感じる部分もあったと思います。それはすごく自然な受け取り方だと思いますし、僕自身も坂下はいいキャラクターだなと思っています。
ただ、薬売り自身が坂下をどう思っていたのか。そこを細かく説明することはできるのですが、それを言葉にしてしまうことが本当に面白いことなのかはまた別なんです。薬売りはあくまで“人間とモノノ怪を調律する”ことを目的に動いている存在なので。モノノ怪を祓うために来ている以上、周囲の人間に対しても“協力的か、非協力的か”くらいの視点で見ている部分はあると思うんです。その中で坂下は協力的だったから、当然助かっていたでしょうし、好意的な感情もあったとは思います。でも、それが友情などの“情”のようなものだったのかというと、それはまた別の話なんじゃないかなと思います。
――三章にわたって大奥を舞台にした壮大な物語が描かれてきました。今回の『蛇神』では、どのようなテーマや感情が描かれていると感じましたか?
神谷:すごく根本的なところで言うと「人間って何のために生きているんだろう」ということなんじゃないかなと思うんです。たぶん、多くの作品の根底には、そういうテーマがあると思うんですよね。“生命とは何か”とか、“人はなぜ生きるのか”とか。
ただ『劇場版モノノ怪』は、それを真正面から説明していく作品ではない。もっと、人間の営みの中で生まれていく感情や構造を描いている作品なんだと思います。人間って、生きていくために体制やルールを作るじゃないですか。社会を維持するために「こうやって生きていきましょう」という仕組みを作って、その中で営みを続けていく。でも、その体制を守ること自体が目的になってしまうと、本来の“人が生きる”ということと、少しずつ乖離していってしまう。
今回描かれた大奥は、まさにそういう“システム”の象徴なんだと思います。人間が生きていくために必要だったはずの仕組みが、いつの間にか人そのものより優先されてしまう。その中で、そこからあぶれてしまった人たちの感情や思いが、結果としてモノノ怪のようなものに変わっていく。
でも人間って、すごく複雑なようでいて、実はすごく単純でもあるんですよね。その象徴として、今回は「大奥」というシステムが描かれていて。「そのシステムはどうやって破綻していくのか」「壊れてしまったものを、どうすれば元に戻せるのか」……『蛇神』は、そういう物語なんじゃないかなと感じています。
■「世界中を探しても、こんな映像はない」神谷浩史が語る『劇場版モノノ怪』の圧倒的エンターテインメント
――先ほど薬売りに対する印象や表現は変わらなかったとお話しいただきましたが、アフレコの中で、共演者との掛け合いによって変化した部分はありましたか?
神谷:坂下役の細見大輔さんとは三作品を通してずっとアフレコで一緒だったのですが、それ以外のキャストの方々は、各章ごとに一緒だったり、そうでなかったりしたんですよね。ただ、そもそも薬売りが向き合っているのって、基本的には“モノノ怪”なんです。なので、人間同士の掛け合いの中で何かを受け取って変化していくという感覚は、正直そこまで大きくなかった気がしています。
むしろ彼は、モノノ怪を斬るために必要な情報を引き出すために動いている存在なので。その過程で見得を切ったり、あえて芝居がかった振る舞いをしたりするんですけど、あれも彼なりの“演出”なんだと思うんですよね。
なので、たとえ収録を一緒にしていたとしても、そこに対して大きくブレる感覚はなかったですし、最初に受け取った“薬売り像”が自分の中でかなり明確にあったので、掛け合いの中から新しい何かを得よう、という意識ではあまりありませんでした。そして、それはおそらく薬売りというキャラクター自体の特性なんじゃないかなと思っています。
――『劇場版モノノ怪』ならではの映像表現も、間違いなく見どころになっています。映像に対する神谷さんの印象もお聞きできますか?
神谷:これはもう一作目からずっと言っていることなんですけど、『劇場版モノノ怪』はある意味“トリップムービー”みたいな側面があると思うんです。あの情報量と色彩の洪水に90分間ずっと身を委ねる感覚って、なかなか他では味わえないんですよね。世界中を探しても、こんな映像はなかなかないと思います。
もちろん、映像表現の一部として、派手な色彩や演出を使っている作品はたくさんあります。でも『劇場版モノノ怪』の場合は、それが“部分的な効果”じゃなくて、作品全体を覆っているんですよね。その圧倒的なビジュアルの中で、ちゃんと物語を紡いでいく。そこがやっぱり、他の作品とは決定的に違うところだと思います。
最初『唐傘』の特報映像が公開された時、90秒くらいの映像を観て「すごいものが来たな」と思ったんです。でも、まさかあのクオリティの映像が90分間ずっと失速せずに続くとは思わなかった。それを実際にやり切っているので「とんでもないものを作ったな」という感覚がありますね。
だからこそ、台本も“こんなこと”(とてつもなく分厚い台本2冊分)になっていますし(笑)。それだけの熱量と情報量を、映像として最後まで成立させているのは、本当にすごいことだと思います。
――実際に観て驚きました。劇場アニメーションの台本は、どれもこのような分厚さになるのでしょうか?
神谷:いや、これも『劇場版モノノ怪』ならではですね。おそらく実写作品のように、セリフだけを書き起こした台本だったら、普通に1冊に収まると思うんですよ。ただ『劇場版モノノ怪』の台本は、とにかくト書きとカット割りの情報量がすごいんです。セリフ量だけで言えばそこまで多くないのですが、その分、映像や演出に関する情報がものすごく細かく書き込まれているんです。
他のアニメ作品でもここまでト書きに情報が詰め込まれている台本は、なかなか見ないですね。もしかしたら、僕の中ではこれが“最大級”かもしれないです。
――その圧倒的な映像に負けない、キャスト陣のお芝居に圧倒されました。神谷さんが特に注目してほしいと思っているポイントはどこでしょうか。
神谷:『劇場版モノノ怪』は“モノノ怪”を通して“人間”を描く作品なので、「なぜその人がモノノ怪に関わることになったのか」や「どうしてそういう感情を生み出してしまったのか」など、そういう“人間側”に一番スポットが当たっている作品だと思います。
だから、薬売りが出ていないシーンもすごく重要で。大奥というシステムの中で、人々がどう生きているのか、そのシステムをどう維持しようとしているのか、あるいはその中で自分がどういう立場にいたいのか。そういう人間たちの日々が、すごく大事に描かれています。
一作目で言えば、黒沢ともよさん演じるアサや、悠木碧さん演じるカメのような若い女性に焦点を当てて。二作目では堀内賢雄さん演じる老中大友や、堀川りょうさん演じる藤巻といった男性陣がいて。そして三作目では、榊原良子さん(水光院役)や平野文さん(常磐井役)をはじめとした、女性陣のやり取りが本当にすごいんです。
特に今回は、ベテランの方々同士の掛け合いが、本当に恐怖を感じるくらい緊張感がありました。観ていて「なんて怖いんだ……」と思うくらい(笑)、その空気感がリアルでした。あれだけの緊張感のあるシーンを成立させられるのは、本当に皆さんのお芝居の力だと思いますし、そこはぜひ注目していただきたいポイントですね。
――そして、テレビシリーズの「離の薬売り」が、今作に“助っ人”として登場しました。そのシーンの印象も伺えますか?
神谷:『モノノ怪』というタイトルである以上、テレビシリーズとの関連性は皆さん当然気になるところだと思うんです。「どういう形で繋がっているんだろう」って。その答えのひとつが、今回の劇場版でしっかり描かれていると感じます。なので、テレビシリーズからずっと追いかけてくださっていた方には「追いかけ続けてよかった」と思ってもらえるんじゃないかなと。逆に「劇場版はまあいいかな」と離れてしまっていた方には、「そんなことになってたの!? ちゃんと観ておけばよかった」と思ってもらえるような内容になっていると思います。
今回は、本当に“すべての『モノノ怪』ファン”に向けた作品になっているんですよ。もともと存在していた“64人の薬売り”という設定も今回しっかり物語に活かされていますし、新しい物語を描きながら、同時にテレビシリーズとのリンクも成立させている。その両方を、この三部作でちゃんとお見せできているんじゃないかなと。
だからこそ、一度でも『モノノ怪』という作品に触れて「面白いな」と感じてくれた方には、きっと納得してもらえる。そんなエンターテインメント作品になっているはずだと、僕は思っています。
(取材・文:米田果織 写真:吉野庫之介)
『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』は、全国公開中。
![【Amazon.co.jp限定】ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~ *Blu-ray(特典:主要キャストL判ブロマイド10枚セット *Amazon限定絵柄) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Nen9ZSvML._SL500_.jpg)
![【Amazon.co.jp限定】鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 豪華版Blu-ray(描き下ろしアクリルジオラマスタンド&描き下ろしマイクロファイバーミニハンカチ&メーカー特典:谷田部透湖描き下ろしビジュアルカード(A6サイズ)付) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Y3-bul73L._SL500_.jpg)








