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ヒロイン(能年玲奈)も、ヒロインの母・春子(小泉今日子)も祖母(宮本信子)も、海女さん仲間たちもみんな元気な中で、注目するのは「父親不在」感である。
戦争を描くことが多かったかつての朝ドラでは、戦争によって男性たちが家庭にいない状況が定番だった。また、『あまちゃん』と同じ東北を舞台とした作品『私の青空』(2000年)では、ヒロイン(田畑智子)が夫に結婚式で逃げられ、シングルマザーとなって、夫であり息子の父親を捜しに上京するというストーリーが展開された。
ところが、今回、ヒロイン・アキの父であり、春子の夫・正宗(尾美としのり)は、個人タクシーを営み、「毎日きまった時間にまっすぐ家に帰って来る、仕事よりも家庭を優先してきた」人である。なのに、一方的に離婚届を郵送し、そこから逃げ出した妻。また、会いに来てくれた父が東京に戻るためにお別れを言おうとすると、「まだいたんだ」と素っ気なく言う娘。「パパがいなくて寂しくないのか」と聞かれても、「ママがいるから平気」と本当に素っ気ない。
こうした父親像は、これまでの朝ドラにはない、衝撃的な描き方だと思う。借金もなく、ギャンブルも浮気もするわけではなく、暴力をふるうわけでも家庭から逃げ出すわけでもない、いたって真面目な父親に、「何の不満があるのだろう」と思う視聴者もいるだろう。実際、「不満」の理由を聞かれた妻・春子は「手紙に書いて郵送した」と言うが、夫の名前が一度も出てこない…。
そこには、春子自身、父親が遠洋漁業でほとんど家にいない「父親不在」の家庭で育った影響はあるのだろう。
ヒロイン・アキは「海女ちゃん」であり、あらゆる意味で「あまちゃん(人生の甘えん坊)」なわけだが、母・春子もまた、「あまちゃん」のままだ。だからこそ、自分が捨てた故郷に戻り、時間が止まったままの自分の青春時代と向き合い、今の自分と向き合うことで、「あまちゃん」から「大人」になろうとしているのだと思う。
これは、ヒロイン・アキの成長物語であるとともに、母親・春子が「妻」になり、「母」になるための「あまちゃん」の卒業と新たなスタートへの物語なのではないだろうか。今後の展開が注目される。(文・田幸和歌子)
朝の連続テレビ小説『あまちゃん』は、NHK総合にて月~土 8時から8時15分ほか放送。