大ヒットVシネマ『難波金融伝 ミナミの帝王』などで知られる個性派俳優・竹内力が製作総指揮および主演を務めた映画『バトル・オブ・ヒロミくん!~The High School SAMURAI BOY~』。長ランファッションに身を包み、日本一の番長になるために喧嘩旅を続ける謎の16歳高校生・ヒロミを、来年の正月で50歳を迎える竹内が変顔を駆使しながら熱演している。


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 明らかに無理のあるキャラ設定もさることながら、ヒロミのツチノコ探しから始まり、心温まる家族愛にヤクザとの義理・人情、そしてプラトニックラブを通過しての邪教集団とのバトルで大団円を迎えるストーリーは、まさに荒唐無稽。しかしこれが文句なしに面白い。竹内が持つお笑いポテンシャルの高さと、野獣のようなヒロミの見た目や性格を伏線にした展開、個性的なエピソードのさばき方など、演技・演出・脚本が驚異的な化学反応を起こしている。

 “ヒロミくん”が生まれたのは2010年のVシネマ『ヒロミくん!全国総番長への道』。その続編となる今回で“ヒロミくん”はスクリーンに進出するのだが、笑いの面ではまさに“倍返し”。赤ちゃんのように半分寝ながら白目を向いてどんぶり飯を食べる竹内の姿は抱腹絶倒。椅子からずり落ちそうになるほどの衝撃度である。竹内は「子供のころから人を笑わせるのが好きなんですよ。監督からは『作品的にはありがたいんですが、力さんの芸能界的な部分は大丈夫でしょうか?』と言われたけれど、お構いなしで今まで出していない部分を出しました。特にあのシーンでは、本物の赤ちゃんに負けたくなかったからね」と並々ならぬ情熱を滲ませる。

 ただ今回の役柄を特別視しているわけではない。竹内は「色々な役柄を演じるのが俳優という仕事だから、自分にとっては二枚目も三枚目も、演じるという意味では同じ。
観客の予想をどれだけ超えられるかが重要なんです」と説明する。しかしその一方で「バラエティのテレビ番組とは違って、今回は映画です。だからどんなに変わったことをやっても、観客の皆さんは俺が演じているものだと思う。誰も俺の素だとは気付かないはずだから、セーフ」と不敵な笑み。 そのパブリックイメージとは裏腹に、普段はかなりひょうきんな様子で「オヤジギャグが大好きで、最近はアントニオ猪木さんの真似をしながら『元気があっても……何もしない』というギャグを考えました」と胸を張る。「元気があれば何でもできる、のは当たり前ですよね? そこをあえてひねって、何もしないんです。そのヒモのような考え方が面白いと俺は思う。でもこうやってギャグを説明する時点でダメ、作り手として負けですね」とにこやかだ。

 それでも本作で見せるボディアクションを駆使しての笑いは冴え渡っている。ヒロミくんが喫茶店の入り口にある果物を野獣のように口に含んで吐き出しながら相手に迫るという神がかり的行動は、竹内による完全なるアドリブだ。「現場では常に人間観察。色々な役者さんと喋ったり、イタズラを仕掛けたりして反応を探るんです。
そこで面白そうな人がいると、テストとまったく違うアドリブを本番で仕掛ける。するとリアルな反応をカメラで捉えることができるから」と狙いを明かす。

 演じながらも、全体を把握し、作品から予定調和を追い出していく。「俺の視点は常にカメラの向こう側、つまり観客側にある。アクション場面ではもう1人の自分が空から俯瞰で全体をチェックしていますからね」と客観性を常に同居させているのだ。粗暴ながらも情熱的で、人情に厚いヒロミくん。周囲の人間たちはそんな異質人物に振り回されながらも、その存在に触発される。そんな姿は映画『男はつらいよ』の寅さん、そしてあのNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のヒロイン・天野アキにもダブる。

 竹内は、演じたヒロミくんについて「ペットみたいに思われて、子供の心を捉えたい。ご両親にも映画を観てもらって、さらにお子さんもファンになる。理想は『クレヨンしんちゃん』。子供たちから『あれやってよ』とか言われたら超嬉しい」と相好を崩す。
続編制作は現在のところ未定だが「ヒロミくんをまるでアニメのキャラクターのように捉えてもらって、漫画だと思ってもらえれば。娯楽作品なので、楽しんでもらえるかどうかが勝負ですから。笑いや感動が色々な方々に伝われば嬉しい」と広く公開されることを願っている。

 映画『バトル・オブ・ヒロミくん!~The High School SAMURAI BOY~』は10月5日よりキネカ大森、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
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