会社を食い物にする“闇落ち社員”は、もはや一部の特殊な人間ではない。都市部の会社員2000人調査では、職場で不正を目撃した人の証言から、ハラスメント、備品横領、リモートワーク悪用、機密情報の持ち出しまで、驚くほど身近で多様な実態が浮かび上がった。
なぜ今、会社への罪悪感なく不正に走る社員が増えているのか。リモート化で失われた職場の教育機能、低賃金と帰属意識の低下、そしてAI悪用の未来まで、“令和型不良社員”の生態を追った。

会社を食い物にする“闇落ち社員”が急増

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「自分さえ良ければいい」――。そんな利己的な思考でひそかに会社を食い物にし、内側から組織を蝕んでいく“闇落ち社員”が急増している。表向きは普通の会社員。しかしその裏では、巧妙な手口で自己利益を追求し続けている。いったい現場では何が起きているのか。SPA!は都市部在住の22~60歳の会社員、男女2000人に調査を実施。そこから見えてきたのは、驚くほど多様かつ身近な手口だった。

もっとも被害報告が多かったのが、「職権を利用したハラスメント・性的関係の強要」(24%)だ。「40代半ばの男性上司が会社のノートパソコンで卑猥なサイトを視聴。女性社員が後ろを通るたびに、わざとディスプレーを傾けて画面を見せていた」(36歳・教育)や、「30代の年下上司が深夜や休日にもメール返信を執拗に要求。同期はうつ病で休職中」(49歳・サービス)など、コンプライアンスを無視した“権力型”が目立った。


次いで多かったのが、「備品の私的流用や金銭の横領」(21%)。こちらは一転してあきれるほどセコい。「数年間にわたって会社の備品であるトイレットペーパーを大量に持ち帰って自宅で使用していたことが発覚した。犯人は、40代のパートのおばちゃん。あまりに情けなく、刑事告発する気もうせた」(58歳・製造)や、「災害時用の備蓄食料用品を無断で持ち出し、メルカリで転売。もはや会社を仕入れ先としか思っていない」(55歳・情報通信)といった証言が寄せられた。

なぜ不良社員は増殖しているのか?

こうした“セコすぎる泥棒型”とも言える不良社員の増殖を、ITジャーナリストの三上洋氏は次のように分析する。

「現金や商品券の横領など、キャッシュレス化で不正は減ると言われていました。ですが実際は逆。決済サービスが複雑化したことで、レシートのクーポンや割引のポイントを店員が着服し、現金払いの客に適用したことにして差額を抜くといった“新種”が誕生しています。管理対象が増えた結果、皮肉にも不正の間口は広がっています」

ITを企業運営の中核に据えたことで、不正はより巧妙で悪質になっている。今回の調査を見ても、ITインフラを悪用した手口は全体の40%以上に及んだ。なかでも「リモートワークを悪用したサボり・副業の無断実施」(17%)はすさまじい。


「深夜メンテを任された若手SEが、会社のサーバーを使って副業のAI学習にいそしんだ結果、パソコンのGPUは常に100%のフル稼働。おかげで社内は『サーバー重すぎてメールすら開かない』と阿鼻叫喚。発覚して問い詰めると『家のじゃ重くて』と、実家のPCを使っている感覚だった」(49歳・情報通信)

こうした不正が広がる背景にはコロナ禍以降の職場環境の変化がある。甲南大学文学部教授の阿部真大氏は、その要因として組織の“教育力”の低下を指摘した。

日本の企業から失われた教育機関としての役割り

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写真はイメージ(以下同)
「リモートワークの普及で、かつて自然に機能していた『職場の教育機能』が弱まっている点は否めません。以前なら、先輩や上司が雑談や飲み会といったインフォーマルな場において“暗黙のルール”として伝わっていた仕事上の常識の伝達の回路が途切れた今、社則に書かれていないことは『やっていい』と思う若手も見られます。彼らには悪意がない分、タチが悪い」

罪悪感が薄れた職場で、会社のリソースを“自分のもの”として使う行為は、もはや不正という意識すら伴わない。そこへ副業解禁の潮流が重なることで、企業資産の流出はさらに加速する。

「かつてはGPU負荷をサーバーの何パーセント以内と設定すれば発覚しにくかったので、就業中にビットコインのマイニングで小銭を稼ぐケースがあった。近年はさらに進んで、AI学習に置き換わりつつあります。副業で使う知識やスキルも大半は、在籍企業で培われたもの。本人に悪意がなくても、会社が育てた人材と知見が外に流れていくことは、企業資産の流出にほかなりません」(三上氏)

さらに深刻なのが、企業の存在そのものを揺るがす「機密情報の漏洩・データ改ざん」(1%)だ。

「信頼していた上司が退職直前、顧客名簿をUSBにコピー。
そのままライバル関係にある転職先へ持っていき、顧客から『お宅の元上司から営業電話が来た』と連絡があったことで発覚。会社への恩義より、次の職場での評価を優先する冷徹さにあきれた」(38歳・広告)

三上氏は現場の闇を明かす。

「最も不正が発生しやすいのは転職・離職など会社を離れるタイミング。ある調査では、機密情報を持ち出した犯人の約45%が転職者というデータもある。彼らにとって機密情報は次の会社での地位を確約させる『手土産』にすぎないのです」

モラル崩壊が進んだ背景は…

なぜ、ここまでモラル崩壊が進んだのか。その背景には、歪な労働構造があると三上氏。

「賃金と裁量が見合っていないことが根本的な問題です。スキルへの対価を支払う意識が薄い日本では、成果報酬制も実態はコストカットの隠れ蓑。派遣社員や外部委託に会社の中枢業務を任せながら、報酬は据え置きというケースも珍しくない。低賃金で酷使される日々を送るなかで、目の前に『宝の山(データ)』が転がっていれば、不正がなくなるわけがありません」

そして近い将来、不良社員たちは“最強の共犯者”を手に入れようとしている。三上氏が警鐘を鳴らすのが、AIエージェントの悪用だ。

「劇的に人間の能力が向上する半面、リスクも甚大になる。AIエージェントが分身として動くということは、与えられた個人情報やパスワード・アクセス権限がそのまま悪用される可能性を意味します。
会社のサーバーやクレカ情報をひも付けることで、深夜に全自動で社内情報を抜き取ったり、面接ですらリモートで行われる今はAIエージェントを社員として競合他社に潜り込ませたりすることも起こるかもしれません」

冷めた合理主義と、最新テクノロジーの悪魔的合体を止めることは、もはや不可能だ。

職場で遭遇した闇落ち社員は?

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都市部在住22~60歳の会社員2000人のうち社内で不正行為を見た人342人への調査(3月28日~4月3日)。

職権を利用したハラスメント・性的関係の強要 24%

備品の私的流用や金銭の横領(カラ出張、備品の転売など) 21%

リモートワークを悪用したサボり・副業の無断実施 18%

データの改ざん・捏造(納期やノルマ達成のための虚偽報告など) 14%

顧客や取引先への詐欺的行為(保険金水増し、架空請求など) 11%

SNSの不適切投稿・機密情報の漏洩(承認欲求からのバイトテロ・社内暴露など) 11%

その他 1%

闇落ちした理由は?

「このくらいみんなやっている」という歪んだ感覚 137pt

個人的な金銭事情や依存症 95pt

自分の能力の誇示や承認欲求(SNSでの“いいね”稼ぎなど) 94pt

会社への帰属意識の低さ(「どうせ会社は守ってくれない」という割り切り) 78pt

「会社のためなら仕方ない」という正当化 47pt

会社からの異常なノルマや納期へのプレッシャー 46pt

職場で孤立しており、周囲に相談できない環境 39pt

その他(自分は平気という傲慢さ、育ちが悪いなど) 21pt

【ITジャーナリスト 三上洋氏】
文教大学情報学部非常勤講師。著書に『深掘り! IT時事ニュース ──読み方・基本が面白いほどよくわかる本』(技術評論社)など
トイレットペーパー大量持ち帰り、顧客名簿を転職先に持ち出し…会社員2000人に聞いた“闇落ち社員”急増の実態
ITジャーナリストの三上洋氏
【甲南大学文学部教授 阿部真大氏】
専門は労働社会学、家族社会学。『会社のなかの「仕事」社会のなかの「仕事」』(光文社新書)ほか著書多数。メディア出演多数
トイレットペーパー大量持ち帰り、顧客名簿を転職先に持ち出し…会社員2000人に聞いた“闇落ち社員”急増の実態
甲南大学文学部教授の阿部真大氏
※2026年4月21日号より

取材・文/週刊SPA!編集部 イラスト/藤波俊

―[[闇落ち社員]の生態]―
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