退職代行サービス最大手「モームリ」をめぐる弁護士法違反事件で、東京地裁は6月5日、弁護士法人「オーシャン」の代表弁護士に懲役1年6か月・執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。法人にも求刑通り罰金150万円が科された。

退職代行サービスそのものが違法と判断されたわけではない。しかし、モームリと継続的に提携していた弁護士が有罪となったことで、業界最大手の信用に傷がついたことは避けられない。この判決はどう評価されるべきか。モームリはどうなるのか。そして、利用者は何を気をつければいいのか。アディーレ法律事務所の南澤毅吾弁護士に聞いた。

退職代行「モームリ」提携弁護士に懲役1年6か月の有罪判決。他...の画像はこちら >>

「量刑は妥当」1年6か月という刑期をどう見るか

今回の判決について、南澤弁護士はまず量刑の妥当性を指摘する。

「非弁提携は犯罪ではありますが、弁護士法上の法定刑は『2年以下の懲役(拘禁刑)又は300万円以下の罰金』と定められており、その範囲内では、1年6か月という判決は標準的な刑期といえます」

判決の背景にある事実はこうだ。代表弁護士は2023年から2025年にかけて、モームリの運営会社「アルバトロス」側から退職希望者85人の紹介を受け、虚偽の名目で計約110万円の報酬を支払っていたという。

執行猶予がついた点についても、南澤弁護士は「妥当」とみる。

「近年の弁護士の不祥事では、顧客の金銭を横領するような悪質なケースも見られますが、今回の件は顧客への直接的な損害はありません。逮捕報道によって社会的な制裁も十分に受けていると考えられます」

他業界では普通の「紹介料」が、なぜ弁護士だと違法なのか

今回の事件の核心は「非弁提携」と呼ばれる行為だ。モームリ側が退職希望者を提携弁護士に紹介し、弁護士側はその見返りとして金銭を受け取っていた。弁護士を紹介すること自体は違法ではないが、そこに対価が伴うことで弁護士法27条違反となる。
南澤弁護士はこの規制の趣旨をこう説明する。

「紹介料を払うこと自体は、他の業界では慣行的に行われていることです。しかし弁護士については、他業種への支払いが特に規制されています。その理由は、弁護士の判断よりも提携先の会社が力を持ってしまうこと、紹介料目当てに不必要な弁護士への誘導が行われることを予防するためです」

つまり、弁護士が金銭的な利害関係によって独立性を損なうことを防ぐための規制である。本来、弁護士は依頼者の利益を最優先に判断しなければならない。しかし紹介元の業者に経済的に依存する構造になれば、その独立性が揺らぐ。それが法律によって特に禁じられている理由だ。

提携弁護士の有罪判決が、モームリの信用を直撃する理由

刑事処罰とは別に、弁護士には弁護士会による懲戒制度がある。南澤弁護士はその行方についても厳しい見通しを示す。

「弁護士会の懲戒には、軽いものは戒告という注意のみで済む反面、業務停止や退会処分など、弁護士の活動を中止しなければならない処分もあります」

今回の件については、その悪質性が問われると南澤弁護士は言う。

「モームリという有名企業と継続的に提携していたということで、世間に与えた影響は大きいです。単に違法行為に加担しただけでなく、それをカモフラージュするようなスキームを自ら提案していたのであれば、悪質性も高い」

そのうえで、こう結論づける。「刑罰は執行猶予であっても、法律を遵守すべき弁護士という職業を継続できるかは別問題です。
十分な反省を示していたとしても、少なくとも一定期間の業務停止処分は免れないのではないかと考えられます」

モームリへの打撃はどこまで及ぶか――信頼回復のカギ

6月5日の弁護士側への判決と同日、アルバトロス元社長らの公判も行われた。検察側は元社長に懲役2年、元幹部だった妻に懲役1年6か月、同社には罰金200万円を求刑。判決は8月28日に言い渡される予定だ。

モームリの今後をどう見るか。南澤弁護士は楽観と悲観の両面を示す。

「今回モームリが罪に問われたのは弁護士法という業界内のルールに違反した点です。詐欺的な契約を結ぶ、ずさんな業務処理をするなど、直接的な消費者被害を生じたわけではありません。弁護士の紹介についても、顧客によっては『紹介してもらえて助かった』と感じた人もいると思われます」

消費者被害という観点では限定的とみる一方、風評面での打撃は軽くない。

「退職したい人からすると、『モームリの名前では会社に舐められてしまうのでは』『円満退職できるか不安』という懸念を持つことも十分に考えられます。後腐れなく退職したい人にとっては、過去に不祥事のあったいわくつきの会社は利用したくない、という声もあるでしょう。慈善活動やボランティアなど適切な社会貢献を行い、クリーンなイメージを作り上げていくことが求められていると感じます」

「弁護士提携」でも安心とは限らない

今回の事件が示したように、退職代行業界には「非弁行為」の問題が付き物だ。南澤弁護士はその構造をこう整理する。

「非弁行為には、今回問題となったような『非弁提携』の問題もあるほか、業者自身が法律上の交渉を行ってしまうケースも含まれます」

さらに、法律事務所であれば安心かといえば、そうとも限らないと釘を刺す。


「弁護士が名義貸しのような立場となっており、弁護士と話す機会を一切与えられず、弁護士資格を持たないスタッフが事件処理をするような事務所があることも事実です」

こうした問題を避けるために、南澤弁護士は以下の点を重視するよう促す。

・弁護士がきちんと事案を把握しているか
・弁護士に直接相談できる機会があるか
・業務内容や料金体系が透明かどうか

退職代行は、労働者にとって切実な選択肢となりうるサービスだ。だからこそ、その利用にあたっては、業者の法的な適正を見極める目が求められる。

<構成・文/日刊SPA!取材班>

【南澤毅吾】
アディーレ法律事務所。「パチスロで学費を稼ぎ、弁護士になった男」という異色の経歴を持つ。司法修習時代は、精神医療センターにて、ギャンブルを含む依存症問題について研修を受けた経験があり、一般市民の悩みに寄り添った、庶民派の弁護士を志す。アディーレ法律事務所・北千住支店長として対応した法律相談数は、累計数千件に及び、多様な一般民事分野の処理経験を経て、現在は交通事故部門の責任者となる。
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