吉岡秀隆が名探偵・金田一耕助に初めて挑む話題作『悪魔が来りて笛を吹く』(NHK‐BSプレミアム/7月28日21時)。演出を手がけたのは『探偵はBARにいる』シリーズなどで知られ、吉岡とも2017年の『新春スペシャルドラマ 富士ファミリー』でタッグを組んだことのある吉田照幸だ。
現代に蘇る“金田一耕助”、その作品・キャラクターの魅力と、現場での奮闘について2人に語ってもらった。

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 吉田監督が横溝正史作品を手がけるのはこれで2作目。2016年に放送された長谷川博己主演の『獄門島』も、高い評価を得た作品だった。

 「僕が金田一耕助作品を手がけるにあたって、例えば映画『バットマン』から『ダークナイト』が生まれていったように、近代的といいますか、従来の市川崑さんの作品イメージから少し離れた金田一が描けないかと思いました。前作『獄門島』の題材が“狂気”なら、今作は“家族”の物語。しかも吉岡さんが金田一をやられるということで、人間の業や悲しさ、しさ…そういう血が通った金田一を作ってみたいなと」。

 そう語る吉田監督。一方の吉岡も、金田一作品には思い入れと“縁”があり。

 「僕の映画デビューは、尊敬する渥美清さんが金田一耕助を演じていた映画『八つ墓村』なんです。だから僕にとって金田一耕助というのは、胸のどこかにトゲのように刺さっている名前だった。なので今回のオファーを頂き、ついに金田一来た! と思いました」。

 しかしながら金田一耕助といえば、日本映画、そして推理小説における屈指の有名キャラクター。
その役柄をどう作り上げるかは、吉岡にとっても悩みどころだったようだ。

 「金田一耕助だからといって、髪が長くて汚くて…というのではなく、僕の一番のイメージは“野次馬の中の1人でいられる”というか、景色の一部になれるような人物。監督が最初『コスプレしたみたいになりたくない』と言ってくださった言葉が救いになりましたね」。

 この作品に全身全霊で向き合ったあまり、「(金田一の)頭をかくクセが、すっかり自分もクセになってしまって」と笑う吉岡。吉田監督は、金田一役が吉岡に決まってから脚本を書き直したのだとか。そんな“吉岡版”金田一のキャラクター像を吉田監督に伺うと。

 「優しい、ですね。情けない部分もありますけど、『人の命を救いたい』という部分がすごくある気がします。事件に関わり、自分が解明していくうちに抱く『これ以上は誰も死んでほしくない』という気持ちが一番にあるのかも」。
 吉岡にとって、吉田監督は「もっと一緒にいたいけど、1年に一回でいい、と思っていた」という存在らしい。

 「監督、NGがないんですよ。すべてOK、すべて1回撮り。
すごく緊張感はあるけど、いつも朗らかだし、どんな状況でも受け入れてくださる。それが逆に怖いんですよね(笑)。だから僕にとっては、吉田監督の作品は“修行の場”です」。

 今回の金田一役も、台本にして約30ページほどにわたり、金田一が謎解きを語っていくシーンがあり、またもや壮絶な“修行”となったようだ。吉岡は「台本が進むに連れてどんどん面白くなり、どんどんセリフが増えていく(笑)。これはいじめなのかな、と思うくらいよくしゃべる金田一です」というが、この長大なシーンにも吉田監督ならではのアクシデントが。

 吉田監督は「その長いシーンは、本当は2日間くらいに分けて撮るつもりだったんです。でもあまりにも良かったので、本当はカットを掛けなきゃいけないところでカットを掛けずにいたんですよね。そしたら先に記録メディアが終わるという(笑)」と振り返る。

 「(吉岡が)1日目のセリフだけでなく、その膨大な量をすべて覚えてくださったというのに驚きました」と監督は感嘆するも、吉岡は溜まったものではない。「僕、演じながら『カットいつ掛けてくれるんだろう』って思ってましたよ!? だってピーって音が鳴って、明らかにカメラ止まってるんですもん(笑)」と緊迫感あふれるシーンをユーモラスに振り返る。

 『金田一耕助シリーズ』というと片田舎が舞台のイメージが強いが、この『悪魔が来りて笛を吹く』の舞台は東京。
旧家族のドロドロとした人間関係やおごり、それらが生み出した怨念と悲劇を描いた物語だ。吉田監督が「今まで一番面白い金田一耕助作品になったんじゃないかな」と自ら太鼓判を押す今作、かつてない“金田一”を観ることができそうだ。(取材・文/川口有紀)

 『悪魔が来りて笛を吹く』はNHK‐BSプレミアムで7月28日21時より放送。
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