芸能界に数ある肩書の中で、もっとも華やかな響きを持つ肩書は「女」ではないだろうか。昔、時代劇でおなじみのベテラン俳優を取材した際、芸能界におけるステータスの話題が出て、「おれたち男の役者が束になってかかっても、女優にはかなわん」と、真顔で答えられたことがあった。
そして、ただでさえ華やかなアイドル界でも、やはり「女優」は憧れであり、目標とされる仕事。ただ、アイドルから女優へのスイッチは、スムーズに行く場合もあれば、苦戦する場合もあるようだ。

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■橋本環奈、アイドルから女優へスムーズに転身

 実際にアイドル畑出身の女優を過去からあげつらえばキリがないが、この秋のドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系/毎週日曜22時30分)で活躍が期待される橋本環奈も、もともとはRev. from DVL(レブ・フロム・ディーブイエル、2017年解散)という福岡のご当地アイドルグループのメンバーだったが、いまやそのことを知らない人も少なくない。

 ファンがイベント時に撮影した1枚の写真の美少女ぶりが「奇跡の一枚」としてネットでブレーク。“1000年に1人の逸材”などと呼ばれ、全国に知られるようになった。

 「彼女の場合、在籍したグループが地元以外では知られていないローカルな存在だったので、ブレーク後の女優への移行もスムーズでしたね。アイドル活動の印象があまりにも強すぎると、アイドル時代のイメージから脱却できずに苦労するケースがあります」と、指摘するのはアイドル雑誌の40代男性編集者。

 橋本の場合、前述の「奇跡の一枚」を見て“一目惚れ”したKADOKAWA代表取締役・井上伸一郎氏が当時の所属事務所へ「彼女で映画を撮りたい」とメールを送ったことが、映画『セーラー服と機関銃‐卒業‐』主演につながった。同作で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、いまや女優業もすっかり板についた。

ハロプロ時代は地味目な存在だった真野恵里菜

 このところドラマ『KISSしたい睫毛』、『彼氏をローンで買いました』などで活躍が目立つ真野恵里菜はハロプロ出身者だが、やはりいまやすっかり女優のイメージが強い。

 「ハロプロでもソロ活動を中心にかなりプッシュされたメンバーで、人気もなかったわけではないのですが、松浦亜弥藤本美貴などと比べると、在籍時は地味目な存在でした。彼女もやはり、スムーズに女優へシフトした方だと思います」(前出・アイドル雑誌編集者)。


 今年7月にプロサッカー選手・柴崎岳(日本代表MF・ヘタフェCF所属)と結婚、先月には生活拠点をスペインへ移した。主婦業も忙しくなりそうだが、女優業の方はどうなっていくだろうか。

■意外と知られていない? 葵わかなもアイドル出身

 NHK連続テレビ小説『わろてんか』のヒロインで知名度を上げ、ドラマに映画に活躍の目立つ葵わかなも、アイドルユニットのメンバーだったというから驚きだ。

 「『乙女新党』のメンバーとして活動していましたが、並行して映画にも出演して女優活動を始め、そのうちに東京海上日動火災保険やヤマザキビスケットのCMで注目度を上げました。彼女の場合、芝居に専念したくてグループを早々と卒業したほど女優業への思い入れが強い。やる気と成長がともなったケースだと思います」と、話すのは地上波放送局の40代男性プロデューサーだ。

■国民的グループAKB48 イメージが重荷になる場合も

 一方で、アイドル時代の活躍の印象が強くてなかなか女優としてのイメージを確立できていないケースもあるという。 「AKB48グループは、国民的なアイドルグループと呼ばれるほどのグループですから、その看板の大きさが重荷になる場合もあります。在籍時はそれほどではなかった川栄李奈などは、48グループ出身者でもスムーズに女優として花開いたケースですが、逆に在籍時にアイドルとしてトップクラスの人気を誇った前田敦子大島優子板野友美らはしばらく苦戦が伝えられた時期もありました」とは、スポーツ紙の40代男性記者。

 前田は今年7月30日、俳優の勝地涼と結婚し、先月には第1子妊娠を発表した。

 「一児の母となったわけですが、かえって女優としてはできる役の幅が広がる。これからが期待できるのではないでしょうか」(前出・スポーツ紙記者)。


 筆者も以前、80年代に一世を風靡したおニャン子クラブの人気メンバーだった生稲晃子にインタビューしたことがあるのだが、やはりおニャン子という肩書があることによって多くの仕事がもらえる面もあれば、これといった演技経験がないことで味わう苦境と、その両面を体験したというような話をしていた。

 大事なのは、やはりアイドル時代のプライドに凝り固まったり、アイドル時代に所属したグループなどの看板に頼らず、何より女優になるという覚悟と、地道な努力ということになるだろうか。(文:志和浩司)
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