【写真】『SUITS/スーツ』小手伸也インタビューフォト
「急に引っ越すとか、車を買うとか、そういったこともなく、粛々と、今までと同じような地味で華のない日常を送っています。この前、電車の中でスマホでエゴサーチしてたら、明らかに前に座っている人が『小手伸也が前にいる』ってツイートしていて非常に気まずかったです。むしろ声をかけてもらいたいですよ、握手とか応じますので」。
そうチャーミングな笑みを浮かべる小手にとって初の月9は2001年の『HERO』にさかのぼるが、役名もなく1シーンだけの出演だった。今回の『SUITS/スーツ』では主人公・甲斐正午(織田)のライバル役で堂々、レギュラー出演。“影の主役”との声も聞こえてくる。
「蟹江はかなりの劣等感の塊で、自分をデカく見せたい、他人に負けたくない、でも実態が追いつかずいつも空回りしてる。その悲哀が同情を誘うけど、実際そばにいたらかなりウザったい、そんな複雑な魅力のキャラです」。
アメリカ版ではリック・ホフマンが演じて人気の、エキセントリックだが憎めないルイス・リット役に当たる。
「ルイスは偉大なお手本、行く手を遮る巨大な壁。原作ファンを裏切りたくないので、日本版ならではというものを逃げ口上にせず、体の動かし方とか、できるだけルイスのイメージを生かしたい。
仕草だけをまねると違和感しか生まれない。
「なぜ芝居がかった口調になるのか、蟹江にとってあの身振り手振りはどんな意味があるのか、そのリアリティーを掘るべきだと。きっと虚勢やプライド、憧れが表出した結果で、それが蟹江にとってのスーツ、勝負服や鎧になっている。自信満々で小首を傾げたりするけど、本性は意外と小心者? って、いろんな側面が見え隠れする形にしたいですね」。
緻密な演技プランを練って、毎回の収録に臨んでいるようだ。意気込みが伝わる。
自らinnerchildという劇団を主宰するが、学生時代にさまざまな経験をする中から芝居を見出してきた。
「高校のとき、いろんな部活に助っ人として顔を出す変なヤツでした。コンピューター研究同好会という少々オタク気質のところに在籍しつつ、高1ではバスケもやったし、コーラス部で低音パートが足りないってときは助っ人で合唱コンクールに参加したり。山岳部が人数不足のときは槍ヶ岳や谷川岳に荷物を背負って山に登り、生徒会にも参加しました。
そんな中、高校2年の文化祭で演劇部に助っ人参加したことが転機になった。
「当時は小劇場ブームという、鴻上尚史さんの第三舞台、野田秀樹さんの夢の遊眠社、三谷幸喜さんの東京サンシャインボーイズなんかが大注目されていた時期で、そこに学生劇団サークルの『早稲田大学演劇倶楽部』からウチの演劇部に公演のダイレクトメールがきて、八嶋智人さんが看板俳優を務める同サークルの劇団『カムカムミニキーナ』の公演を何となく観に行って、まだ八嶋さんが有名になる前からあの人のすごさみたいなものに触れて、気がついたら早稲田の同じサークルで演劇を学びたいと思うように。と言いつつ大学に入った後も、実はアイスホッケーやったりテニサーに1年所属したり、結局広く浅くのクセは治りませんでしたね」。
そんな引き出しの多さと器用なところを見せつけたのが、第3話のジムでの格闘技シーン。中島裕翔を相手に繰り出すサブミッション(関節技)は流れるようで、経験者? と思ってしまう説得力があった。
「まったくの初めてでした。格闘技自体、『マウントポジション』を知っている程度だし、1日だけしか練習していない。僕多分そういう“なんちゃって”が得意で、無茶ぶりに対しそれっぽく応えられる技術と舞台度胸だけは積み重ねてきた自信があります」。
12月にかけて、ドラマ後半の展開も小手の演技とともに楽しみだ。
この勢いで来年は、「NHK朝ドラに」と豪快に笑うが、もちろん冗談ではなく本気だ。
「僕を必要としてくれるところには、はせ参じたいんです。ただ、その必要に際しても、役のインパクトが時として障壁になることもある。『蟹江』である今でさえ『五十嵐』がハードルになってますしね。だからこそ自分が積み上げてきたものに常に打ち勝つような挑戦をしていきたいんです」。(取材・文・写真:志和浩司)
『SUITS/スーツ』は、フジテレビ系にて毎週月曜21時放送。