おっさんレンタル」「レンタル彼女」……と物に限らずありとあらゆる体験が“レンタル”できるようになった昨今、インターネットやSNSを介して、自らの時間のレンタルを受け付ける人たちが出てきた。1日50円という労基署も真っ青な金額で、レンタルを受け付ける男がいる。

なぜ、彼はフルタイムで働いても月給にして1,500円にしかならないこの生活を始めたのか? そんな「1日を50円で販売する」生活の中で出会った、さまざまな人々との交流をまとめたを上梓した、著者の高野りょーすけ氏に話を聞いた。

――1日を50円で売るきっかけは、そもそもどういった経緯だったんですか?

高野りょーすけ(以下、高野) 大学で留年してしまって、どうしようかなって思っていたら、「おっさんレンタル」とか「レンタル彼女」とか、自分の時間を売る方々を見つけたんですよ。自分もいろんな依頼に応えていけば、長所が見つかるのかもなって思ったんです。「おっさんレンタル」が1時間1,000円とか……「レンタル彼女」は、8,000円でしたかね。それで、この金額で売ったとしても、買ってくれるのかなって不安になっていたところ、その中で最安値だった50円で、やってみようかなというのが始まりです。

――本書にも書いてありますけど、勉強が自分の長所だったけど東大に入ったらそうでもない。
落胆した気持ちが強かったですか?

高野 勉強で1番にならなきゃってずっとやってきて、合格したんですけど入ってみたら周りもみんな勉強できる。その中で医者を目指す人だったり、弁護士になりたい人だったり、官僚になるぞ、みたいな人がうじゃうじゃいて、その人たちと比べて自分は取りえがあるわけでもないですし、将来これで食っていこうみたいなのもなくて。ある種のコンプレックスはありましたね。完全に埋もれて、やばいなって思いました。

――1日って、24時間を50円で売っているんですか?

高野 泊りがけもありますけど、ほとんどが数時間ですね。午前中は、この人、午後はこの人って場合もあります。
1日に3件と4件入る日とかもありますね。月給にすると1,500円、今月末に控えているのが、お話してください1件、仕事の相談1件、一緒にご飯食べてください1件とラジオ出演で1日に4件入っている日があります。

――出会った人で、印象に残っている人っています?

高野 最近だと、不登校の小学生がいましたね。いじめで、小4から小6の2年間、学校に行けてなくて、お母様から「うちの子と遊んでほしい」って依頼。なんだろうな……まさに勉強が通じない世界というか、勉強がまったく役に立たないんですよ、その子と話していると。僕は東大入試をひいひい言いながら突破したけど、その能力じゃこの子を救ってあげることができないんだなって心の底から感じました。
結局、その依頼は、2~3時間カードゲームとかして遊んで、話せば学校に行くきっかけの一つになるかなって思っていたんですけど、まだ学校に行けてないみたいで、役に立てたのかどうか。

――依頼は、全部受けているんですか? それとも選んでいますか?

高野 基本的には受けます。だけど、「宿題をやってください」っていうのは、ちょっと無理だと。僕は全然やってもいいんですけど、それが大学にバレたらその頼んだ人も一緒に世間にさらされるかもしれないから、断っていますね。あとは、地方に住むお母様からご依頼がありまして、地方で情報もないから、勉強のコツとか、これから1年間どうやって計画を立てたらいいか、来年受験の息子のために教えてくださいって依頼がありました。それで「それって、息子さんは知っているんですか?」って聞いたんですよ。
お母さんが僕のアドバイスを聞いて、それを息子さんに伝えたところで“やらせている感”が出るから、結局は息子さんにとってはいい選択なのかな? と思いまして。そしたら承諾しているけど、直接僕に聞くのが恥ずかしいから、お母様伝いで依頼してきたそうなんです。その後「いつでも相談にのるんで、その気になったら息子さんから連絡ください」ってLINE教えたんですけど、全然連絡ないですね。結構、悲しくなりました。

――依頼を受けてきた中で、「これはいいことができたな」というのと「もうちょっと力になれたのかな」では、どちらが多いですか?

高野 それを聞かれると、すごく不安ですね。依頼が終わった後もTwitterやフェイスブックでつながっている人が多いです。
この前、大学進学の相談の依頼を受けた女子高生から「あの後、第一志望が決まって、無事に合格しました」って連絡がきて、やっていてよかったと思いましたね。

――外の世界を見てからだと、東大はどのように映りますか?

高野 よく、東大生は変わり種として紹介されますけど、どの大学にもそういう方っているじゃないですか。それに50円でお会いした方々も、良い意味でみなさん変わっていらっしゃいますし。東大だから〇〇っていうのは、思っているよりは少ないのかな、と。

――あとがきで「東大生に50円の価値もない」という言葉が出てきますけど。

高野 すごく納得しました。
もう終わったレースなので、そこで胸を張ってもしょうがないぞと。でも、なんだかんだこんなに依頼が来るのも東大生だから、というのもあると思うんです。東大なんて、とまでは言うつもりはないですし、東大に恩は感じています。

――50円活動をする中で、自分の長所って見えてきました?

高野 僕の中には、特長みたいなものがないんだなって実感しましたね。当初は、依頼を受けていく中で自分に共通するものがあれば、それが自分の長所だろうって思っていたんですけど、ご依頼ごとに会う人も境遇も悩みも違う。この方には、自分はこういったことができる、あの人にはこういうことができるというふうに、その人との関係の中で、ようやく自分の長所ができるんだなと感じたんです。本書にも出てきますけど、発達障害の人には数学の話、不登校の小学生だったらカードゲームで遊んであげられるなという、依頼してくれた人と接する中で、出てくる。

――50円活動を始めてから、社会に対するイメージって変わりました?

高野 変わりましたね。やっぱり、今まで接してきたタイプとは全く違う人たちで、本当に想像できないほどの数の人たちが社会をつくっているんだなと。

――50円でいつまで売り続けるんですか?

高野 昨年も同じご質問をいただいて、そのときは100件越えたらやめますって言った気がします。今、200件くらいなので、わからないですけど、今年1年は頑張ろうって思っています。
(取材・文=編集部)

●高野りょーすけ(たかのりょーすけ)
1995年、茨城県生まれ。私立の中高一貫校に通うも部活に入らず、ゲームで知り合ったニートの人と遊びすぎて、成績が急降下。親の放任主義に見かねた兄にブチ切れられ、勉強を開始。成績が良ければモテるかなと思い、さらに勉強を積み重ねて学年1位をとるも、まったくモテず、せめて勉強だけはと、なんとか東京大学理科2類に現役合格。しかし、自分の取り柄がないことと将来に不安を覚えて、自主留年。留年が決まった翌年の2016年1月1日にブログを立ち上げ、同年3月から「東大生の1日を50円で買ってくれませんか」企画を始める。