全13回となった『六本木クラス』が最終回を迎え、ようやく民放ゴールデン・プライム帯の夏ドラマがすべて終了した。「ドラマ序盤ランキング」で取り上げた作品はどうだったか、今期ドラマを総括してみよう。
夏ドラマ、やっぱり良かったのは『石子と羽男』と『初恋の悪魔』
『石子と羽男』Paravi配信ページよりドラマファンの評価はほとんど『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系金曜ドラマ)か『初恋の悪魔』(日本テレビ系土曜ドラマ)の支持になるのではないだろうか。
仮に順位を付けるのであれば、『石子と羽男』が1位で『初恋の悪魔』が2位といったところ。このあたりは好み次第だろうとは思う(ちなみに序盤ランキングでは逆だった)。
『初恋の悪魔』はややエンジンがかかるのに時間がかかった印象だったが、坂元裕二らしいセリフに彩られた会話劇でありつつ、ミステリーとラブストーリー(+大人の友情?)という複数のレイヤーを行き交うような構造がおもしろく、自宅捜査会議の模型の世界に入り込むがごとく、さまざまな視点を介すことで物語のジャンルが違って見えるような作品だった。最後の星砂(松岡茉優)をどのように解釈するか、視聴者に委ねる形だったのもよかった。個人的には東野圭吾『秘密』のラストのように受け止めたのだが、まったくの少数派だったようで驚いた。
「ラーメンぐらい伸びたっていいんだよ。
『石子と羽男』は最初から最後まで完璧だった。石子(有村架純)と羽男(中村倫也)、それぞれのキャラクターの背景にあるものを示唆する伏線をそれとなく出しながら、ただ“伏線を出しました”ではなく、ちゃんとその回の事件ともつながっているシーンになっていること、社会的弱者などへの描き方が繊細で配慮があったこと、世間で話題になっている社会的問題を身近なトラブルとして描きつつ、説教臭くならないヒューマンドラマであったこと、メインのふたり(石子と羽男)が安直に恋愛的にくっつく展開ではなかったこと……このドラマの美点を挙げるとキリがないが、振り返ってみると、今期の“微妙”なドラマ群において特に目立った問題点はすべてこの部分にあったのではと思わされてしまう。そして何より、息の合った石子と羽男の掛け合いがドラマのリズムをつくり、そこに大庭(赤楚衛二)らが加わることでグルーヴが生まれ、全10回をあっという間に感じさせた。
夏ドラマでよかったものは?と問われると真っ先に浮かぶのがこの『石子と羽男』と『初恋の悪魔』だったが、次点で勧めるとすれば『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系水曜ドラマ)。正直、中盤までの家庭教師ストーリーは「破天荒な教師が荒唐無稽な指導で騒がせるが、実は生徒のためを思う行動で、結果的に生徒を(ときには親をも)成長させる」というよく見たようなもので退屈さは否めなかったが、第7話になってようやくトラコの目的という本筋の物語になって俄然、おもしろくなった。「正しいお金の使い方」のために社会を変えるというトラコの大義は、結局のところ自分が置かれた境遇に対する怒りや不満でしかなかったというのは、物語として納得感があったし、SNSで“正義”を振り回して憂さ晴らしをしている人たちが少なくない現代社会を映し出すようなテーマでもあった。
『となりのチカラ』同様になにか意味ありげな設定が大した意味もなく終わったり(たとえばトラコが生徒に披露していたコスプレは、それぞれの母親のペルソナを表したものだったように思えたのだが……)肩透かしの部分もないではなかったし、3人の母親たちとの関係性についてはご都合主義すぎる嫌いもあるが、遊川和彦脚本でたまにある、視聴者置いてけぼりの斜め上展開はなく、驚くほどにきれいなまとまり方で、爽やかな結末だった。主演の橋本愛はもちろん素晴らしかったが、鈴木保奈美も(『ちむどんどん』のしーちゃんとは違って)改めていい女優だなと思えた作品でもあった。(1/3 P2はこちら)
(2/3 P1はこちら)
『魔法のリノベ』(フジテレビ/カンテレ月曜ドラマ)は、RPG風の夢や、「心の街」のシーンなど、一部演出が個人的には最後までなじめなかったが、ドラマオリジナルのストーリーや、原作の脚色の具合、毎話エンディングでリノベ後の生活を見せる仕掛けはおもしろかったし、なによりキャストの和気あいあいとした雰囲気がドラマのいいムードを築いていて、今期意外と少なかったほっこりドラマとしても光っていただろう(原田泰造のパワハラ上司が苦手という人も少なくなかったようだが)。
『六本木クラス』は、最終回の日本版独自の脚色がうまかった点や、早乙女太一らの熱演には見るべきものがあったが、オリジナルに基本的に忠実という意味で、なんとも評価しがたい。60~90分ほどある内容×16話のオリジナルを、正味40~50分×13話で描くだけに、どうしてもダイジェスト感が否めず、それがテンポのよさにもつながっていたが、キャラクターの設定などが見えづらい形になってしまったのは残念な点だ。
竹内涼真『六本木クラス』有終の美…“成功”の理由は「若手キャスト×大映ドラマ」? 竹内涼真が主演するテレビ朝日系木曜ドラマ『六本木クラス』が29日に最終回を迎え、世帯視聴率は10.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録。『ユニコーンに乗って』(TBS系火曜ドラマ)は途中の迷走がノイズになってしまったが、最終的には「大人の青春」を描くドラマとしてはまずまずの終わり方だった。ラブストーリー的な“ざわつかせ”として、小鳥(西島秀俊)への感情に佐奈(永野芽郁)が悩むというミスリードは特に不要だっただろう。ところどころ火曜ドラマの悪いクセが出ていたように感じられたのが残念だった。
結局ガッカリさせられた『純愛ディソナンス』
今期もっとも噴飯モノだったのは『テッパチ!』(フジテレビ系水曜ドラマ)だが、初回からアレだったので「ガッカリ作品」には含めない。詳しくは最終回直前の下記の記事に述べたのでこれを代わりにしたい。第二章が始まった第7話では、災害事故の現場で自衛隊員としての責任の重さと苦悩がようやく真面目に描かれるかと一瞬だけ期待したのだが……。
およそ2カ月前の「ドラマ序盤ランキング」記事で「期待のドラマ3位」に選んでしまった責任として『純愛ディソナンス』(フジテレビ系水曜ドラマ)についてはちゃんと書いておこう。
「令和の新・純愛×ドロドロエンターテインメント」という謳い文句をいい意味で裏切ったミステリー色の強い第1部で「これはダークホースでは」と期待してしまったドラマファンも少なくなかったように思えるが(それこそ『週刊フジテレビ批評』の夏ドラマ放談でもまったく同じ話になっていたが)、「第2部で失敗した」というより、いろんな悲劇的・不条理要素を足していく中で、見かけ上はサスペンス的な導入になっただけということだろう。
すべての元凶は愛菜美(比嘉愛未)と加賀美(眞島秀和)および晴翔(藤原大祐)にあるはずだが、なぜか、毒親に囚われ、人生に絶望していた中で知り合っただけの正樹(中島裕翔)と冴(吉川愛)が「歪み」を生み続けているとして責められ続ける。愛菜美は反省もそこそこに気持ちをあっさりと切り替え、加賀美と晴翔が向き合うことで本来の「歪み」は解消されているはずなのだが、正樹と冴がそれぞれの親を許すことで一歩を踏み出したような話になったのも腑に落ちない。いや、ストーリーの根底に「親子」のテーマがあるのはわかるのだが……。
ただ主人公カップルが苦しむためだけに悲劇と不条理が次々と降りかかり、しかしその連鎖から生まれた業はまるでなかったかのように、「歪み」を解消した途端すべてが好転。かつての路加(佐藤隆太)のように、碓井(や正樹ら)率いるモノリスエステートに踏みにじられた名もなき人々は大勢いるはずなのだが。過去の因縁を解決すれば何もかもうまくいきます……という宗教じみたメッセージにすら感じられる最終回だった。富田靖子の毒親っぷり、翌日の『六本木クラス』とは真逆の光石研の芝居がよかったぶん、ダークで不気味な役どころが新鮮だった比嘉愛未にはもっと暴れてほしかった。(2/3 P3はこちら)
(3/3 P2はこちら)
『オールドルーキー』(TBS系日曜劇場)は基本的にはよくできてはいた。各話のストーリーには熱いものを感じさせるものもあり、塔子(芳根京子)や城(中川大志)、梅屋敷(増田貴久/NEWS)らにフォーカスした話もあったりと、福田靖らしい、バランスのいい手慣れたストーリー展開は安心して見られたが、ややワンパターン気味にも感じられた。
さらに、『未来への10カウント』の時と同様、最終回に向けた“ひと捻り”の展開で急に雑になってしまうというか、終わり方がどうにもスッキリしない。特に反町隆史演じる高柳のキャラクターのブレ方が気になった。大体、「自分の会社を辞めるならスポーツマネージメントの世界に関わるな」というのは法律に触れないのだろうか。そして自分でクビにしておいて、最後の最後で「業界を去るか、うちに戻るか」と提案する神経も理解できず、とても感動はできなかった。
主人公の新町(綾野剛)がクビにされる経緯についても不自然さが多い。所属アスリートにかけられたドーピング疑惑を晴らすために奔走した新町の動きが独断的だったことは確かだが、晴れて無実が証明されたところで大して報じられず、イメージが悪いままという理由だけで「会社の被った損害のほうが大きい」というのは意味不明だし、所属アスリート自ら、マネージメント会社の人間への感謝を会見で発信したことは、むしろ会社にとってこれ以上ない広告効果があったはすだ。
加えて、妻が再ブレイク中の元アナウンサーで、自身も元プロサッカー選手ということで新町自身が脚光を浴びていることが劇中で触れられていたが、その新町をクビにし、さらにはそれに追随して他の有能な社員までも辞めてしまったのだから、普通は週刊誌などで「●●が所属する事務所の内部崩壊」とかなんとか報じられてしまうだろう。妻がネットであれこれ書かれているという描写だってあったのだから、なおさら高柳社長の判断は不自然に感じられた。敵らしい敵がいないという意味で「日曜劇場らしくない」作風だったが、最後の盛り上がりのために高柳を敵役にしようとして無理な展開になったのではないだろうか。
そして『競争の番人』(フジテレビ系月9ドラマ)。「ドラマ序盤ランキング」記事でガッカリドラマ1位にしたが、最後まで見届けて、やはりガッカリの印象は変わらなかった。東海林かなさんのレビューでも触れているが、とにかくドラマオリジナルとなったメインのストーリーにツッコミどころが多すぎる。
坂口健太郎×杏『競争の番人』ツッコミどころ多い“最終章”終了も…「あと1話ある!?」 坂口健太郎と杏がダブル主演を務めるフジテレビ系月9ドラマ『競争の番人』。9月12日に放送された第10話は、ついに”ラスボス”である国土交通省・事務次官の藤堂清正(小...また、坂口健太郎と杏のW主演に加え、脇を固めるダイロクのメンバーに小池栄子、大倉孝二、加藤清史郎(と寺島しのぶ)と豪華メンバーを取り揃えたにもかかわらず、チームワークが発揮される展開に乏しく、大体は小勝負(坂口健太郎)の目にしたものをすべて記憶できる特殊能力か、その並外れた洞察力によって解決の糸口を見出し、ヒントはご都合主義的にこぼれ落ちてくるのも残念だった。杏は騒ぎ立てるだけの役回りが多く、実質「坂口ドラマ」だったと言えるだろう。
せっかくの公正取引委員会というおもしろい題材なのに、泣き落としで“自首”させたり、尾行したりと、人情刑事モノのようなパターンが頻繁だったのもガッカリだった。主人公の記憶能力、正義を執行する側が弱い立場であることなど『石子と羽男』に共通する部分も多かったが、「ファスト映画」「電動キックボード」「トー横キッズ」「食べログ問題」「投資詐欺」など話題の時事ネタをうまく絡めていた『石子と羽男』に対し、『競争の番人』は第1話~第3話の原作小説のストーリーを反復するような案件が目立った。大半がドラマオリジナルなら、公取が絡んだ実在の話をベースにつくるような挑戦もあってもよかったのではないだろうか。ジャニーズ事務所の「アクスタ戦争」で期間限定販売とした商品を再販とすることが景品表示法に引っかかるのではとの指摘も話題になったが、景表法は公取が関わることもあり、こういった題材も扱っていたらもっと盛り上がったかもしれない……と言うのはすべて後出しジャンケンだが、キャスト、設定などを考えるといろいろともったいない作品だったという意味で、改めて今期ガッカリ1位としたい。
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