恒例の民放連ドラの序盤ランキング。秋ドラマも、10月5日スタートの『親愛なる僕へ殺意をこめて』から10月24日スタートの『エルピス—希望、あるいは災い—』まで、開始時期に3週間近くブランクがあったため、取り上げるタイミングに迷ったが、『エルピス』がようやく第3話まで進んだこともあり、今期ドラマを振り返りたい(『霊媒探偵・城塚翡翠』は最終話手前となってしまったが……)。

 今回もまた序盤までの内容から、今後も楽しく観られそうな「期待作」と、期待に反して……な出来だった「ガッカリ作」を3作ずつピックアップする。なお、シリーズ物の新作(『相棒』『科捜研の女』など)は除外とする。

期待のドラマ3位 『silent』木曜22時~(フジテレビ系)

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『silent』(フジテレビ総合エンタメメディア「フジテレビュー!!」より

〈あらすじ〉
青羽紬(川口春奈)は高校2年の秋、たまたま朝礼で耳にした佐倉想(目黒蓮)の声に心を奪われる
。3年生で同じクラスとなった二人は、音楽好きという共通点で距離を縮め、交際することに。しかし卒業後のある日、想は突然、理由も言わずに別れを告げて姿を消してしまう。8年という時が過ぎ、紬は心残りはありながらも、今は大型CDショップで大好きな音楽に囲まれて働きながら、同窓会で再会した戸川湊斗(鈴鹿央士)と幸せな日々を送り、2人の将来を考えるようになっていた。しかし、そんなある日、駅で想の姿を偶然見かける。

思わず声をかける紬だったが、彼にはその声が届いていなかった。なぜなら、想は徐々に耳が聞こえにくくなる「若年発症型両側性感音難聴」を患い、聴力をほとんど失っていたのだった……。

 実にシンプルなラブストーリーだ。聴覚障がいを患った元恋人と偶然再会するという以外は特にドラマティックな出来事があるわけでなく、ただただ丁寧にそれぞれの心情を描いていく。TBS火曜ドラマあたりにありがちな、「なんでそうなんのよ!」とツッコみたくなるようなすれ違いは起こらないし、行き違いやちょっとした不和の種も、ほとんどはその回のうちに(あるいは次回すぐに)解決する。過剰に盛り上げることなく、雪が少しずつ降り積もっていくように意味を増していく言葉の数々と、彼らを映す映像のみで語るという、そのシンプルさは民放の連続ドラマにしては珍しい……というよりチャレンジングにすら感じられる。

第4話まできて、これだけ“ドラマ”の起こらないラブストーリーは一体ここからどうするのだろうかと思いきや、最後で湊斗が身を引くことを決める。そして第5話は、そんな別れた二人の“終わっていく”様子を1話かけて描いてみせた。

 どこかの街角で見かけそうな、我々の日常の延長線上にある恋愛を描くという意味で、(以前にも同様の指摘をしたが)坂元裕二の『花束みたいな恋をした』を感じさせるが、ここまで丁寧に描き、かつ飽きさせないのは本当に見事だと思う。たとえば、湊斗が悲しむ紬に、紬が欲しいというコーンポタージュ缶を言われてもないのに用意していたシーンは、そこだけ取ると湊斗の優しさがホラーのようでもあったが、なぜ湊斗がそんな行動が取れたかがちゃんと後でわかるようになっている。湊斗が別れを切り出すのも決して唐突ではなく、それまでのストーリーの中で彼の葛藤はしっかりと描かれていたし、だからといって簡単に割り切れるものではないということも第5話でじっくり見せる。音楽を始めとして細部にまでさまざまな設定・ストーリーが反映されており、そこからいろんなことを読み取る(あるいは想像する)おもしろさもある。

これほど緻密で丁寧な作品は連ドラだからなし得たとも言え、「元高校教師がアイドルの寮母になったら超イケメンの教え子がいて、応援しているうちに思いを寄せられる」といった話でなくても(≒でないからこそ)視聴者を熱中させられるということを証明したという意味で、日本の恋愛ドラマの転換点になってほしい作品だ。

川口春奈×目黒蓮『silent』、第5話で“『最愛』超え”確実か TVerでの「圧倒的な強さ」の理由とは さらなる新記録を生み出しそうだ。 川口春奈主演、目黒蓮(Snow Man)共演のフジテレビ系木曜劇場『silent』がTVerで無双状態となっている。 放送開始当...

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日刊サイゾー2022.10.10

期待のドラマ2位 『PICU 小児集中治療室』月曜 21時~(フジテレビ系)

『silent』『エルピス』『PICU』…一番の期待作は? 秋ドラマ序盤ランキング
『PICU』(ドラマ公式ページより)

〈あらすじ〉
北海道で生まれ育った志子田武四郎(吉沢亮)は、丘珠病院に勤務する27歳の小児科医。ある日、武四郎は、丘珠病院に新設されたばかりのPICU(小児集中治療室)への異動を命じられる。そこで出会ったのが、日本各地でPICUの整備を推し進めてきた小児集中治療のパイオニア・植野元(安田顕)だった。

3年前、道内で起きた悲劇が大きな契機になり、北海道知事の鮫島立希(菊地凛子)が植野を訪ねてPICUの整備を依頼したのだ。その際、植野はある条件を提示し、鮫島は近い将来必ず実現させると約束した。3年を経てようやく設立されたPICUだが、集まったスタッフは、植野、武四郎のほか、植野と行動をともにしてきた優秀な看護師・羽生仁子(高梨臨)と、植野に誘われてやってきた救急救命医の綿貫りさ(木村文乃)の4人だけだった。その現状に、口が悪く横柄な態度のりさは、「初期研修を終えたばかりの未熟な小児科医は使い物にならない」と本人の目の前で武四郎を非難するようなありさまで……。

 『監察医 朝顔』チームが集結した医療ドラマ。今期はほかに『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』『ザ・トラベルナース』とあるし、「月9」は2019年から毎年1作は医療モノをやっているということもあって、正直そこまでは期待していなかったが、地域医療の抱える課題を背景に、小児治療にフォーカスし、絞られた、しかし実力派を揃えたキャストたちによる人間ドラマとして、非常に丁寧につくられている。

スーパードクターやスーパーナースなどは出てこず、医師ひとりひとりが悩みを抱え、葛藤し、すべての命を救えないことに絶望しながら、それでも前を進んでいく「人間ドラマ」なのだ。

 初回冒頭こそ、『青天を衝け』を意識したかのような大河ドラマ風のシーンから始まったのには面食らったが、その第1話からあっさりと患者の死が描かれるシビアさ。正直言えば月曜からかなり重い作品であり、よかった、あの人が助かった……と思いきや、今度は別のあの人に異変が……という展開には目が腫れて仕方ないが、それでも植野先生や、南ちゃん(大竹しのぶ)&桃子(生田絵梨花)の優しさや明るさに救われる。『しもべえ』『初恋の悪魔』などここのところクセの強すぎるキャラのインパクトが拭えなかった安田顕が演じる植野先生の穏やかな眼差しは、ただ優しいというだけでなく、多くの悲しみを乗り越えた過去の影と、だからこそ解決していきたいという強い意志ものぞかせるのが素晴らしい。そしてドラマはちゃんと「しこちゃん先生」の成長譚でもあり、未熟で、不器用で、母親や仲間思いの優しい青年を吉沢亮が演じることで説得力あるものにしている。後半に待ち受けていそうな悲しい展開には今から気が重くなるが、それでも目が離せない良質のドラマだ。

期待のドラマ1位 『エルピス—希望、あるいは災い—』月曜22時~(フジテレビ系)

『silent』『エルピス』『PICU』…一番の期待作は? 秋ドラマ序盤ランキング
『エルピス』(ドラマ公式サイトより)

〈あらすじ〉
大洋テレビのアナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)は、かつてゴールデンタイムのニュース番組でサブキャスターを務め、人気、実力ともに兼ね備えた女子アナだったが、週刊誌に路上キスを撮られて番組を降板。現在は、社内で“制作者の墓場”とやゆされる深夜の情報番組『フライデーボンボン』でコーナーMCを担当している。そんなある日、番組で芸能ニュースを担当する新米ディレクターの岸本拓朗(眞栄田郷敦)に呼び止められた恵那は、ある連続殺人事件の犯人とされる死刑囚が、実は冤罪かもしれないと相談される。とある理由で報道、ましてや冤罪事件とはもう関わりたくないと思っている恵那の気持ちなどお構いなしに、事件の真相を追うために力を貸してほしいと頭を下げる。しかし、拓朗がそこまで躍起になるのには、ある事情があって……。

 正直、今期のトップ3は順不同と言っていい。ランキングの手前、個人的な好みによって順位を決めはしたが、いずれも非常に練られ、丁寧につくられているドラマであり、人によって1位が違ってもおかしくはないと思う。『エルピス』を1位としたのは、その(日本の民放ドラマにおいては残念ながら)挑戦的と言える題材はもちろんのこと、シリアス一辺倒にはならない、クスっとさせる部分の絶妙な塩梅が、エンタメ作品として非常に優れていると感じたからだ。

 大洋テレビという架空のテレビ局を舞台に、連続婦女殺人事件の冤罪疑惑を追うというストーリーの中で、現実のニュースと交差しながらテレビの報道加害について描いている。政権批判的な面にアレルギー反応を起こしている人も一定数いるようだが、こうしたドラマがつくられ、問題なく放送されること自体に意味があり、内容の是非はその後に問うべきだろう。

 第3話で浅川が強行突破するシーンは、視聴者のこちらもハラハラさせられた。サプライズ登場となった永山瑛太の意味深な存在感といい、この物語がどこへ連れて行ってくれるのかはまったく見えないが、その先行きの不透明さは、浅川が対峙している状況ともリンクする。「正しいこと」をしたいというテレビマンの抱える葛藤を描いているようで、第3話のあの描写からすると、“正義の暴走”の危険性も伝えていくのだろうか。我々が生きる社会の問題をただ愚直に描こうとするのではなく、エンターテインメント作品として魅せながら、さまざまな形に乗せて伝えていく。主演をオファーされた長澤まさみ自身がこの作品は放送されるべきと言い切ったという座長の覚悟も含め、最後まで見届けたい。

長澤まさみ『エルピス』を「放送」で観るべき理由 TVerで変更された“あのシーン” 長澤まさみ主演のフジテレビ系月曜ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』が話題となっている。出演者の鈴木亮平が「テレビを知り尽くした人たちがつくるテレビの裏側の話」と...
『silent』『エルピス』『PICU』…一番の期待作は? 秋ドラマ序盤ランキング
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日刊サイゾー2022.11.02

期待のドラマ次点(4位)『霊媒探偵・城塚翡翠』日曜22:30~(日本テレビ系)

 4位は『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』と迷ったが、第5話で早くも最終回となる清原果耶主演のこちらを。

 第20回本格ミステリ大賞受賞などに輝いた「特殊設定ミステリー」の小説『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の実写化作品であり、あまり多くは語れないが、ミステリーとしてソツなく出来ている……と思わせておいて、「伏線回収」の第5話で作品の見方が一変するのではないかと思う。第5話で終わってしまうのは驚きだが、直近でいうところの『元彼の遺言状』や『競争の番人』のように、原作消化後にドラマオリジナルストーリーを加えて1クールもたせるというやり方を選ばない(と期待したい)のは英断。作品の仕掛け上、連ドラではなく映画などで一気に見せるやり方のほうがよかった気もするが……。「これまでのテレビドラマの常識を覆す、前代未聞の仕掛け」とまで煽ってしまっていいのかとも不安になるが、最後まで観て評価されるべき作品ということで、4位に推しておきたい。

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『ファーストペンギン!』(ドラマ公式サイトより)

〈あらすじ〉
家なし、金なし、仕事なし……。人生崖っぷちの若きシングルマザー・岩崎和佳(奈緒)は5才の一人息子・進(石塚陸翔)を連れて、寂れた港町・汐ヶ崎に移り住んできたばかり。地元のホテルで仲居として働いていたある日、漁船団「さんし船団丸」の社長である漁師の片岡洋(堤真一)と出会う。彼女の機転と働きぶりに感心した片岡は、和佳に1万円で「浜の立て直し」を頼み込む。未知なる“漁業の世界”に飛び込むことに尻込みする和佳だが、魚嫌いのはずの進が喜んで魚を食べている様子に驚き、自身も魚の美味しさに感動。依頼を引き受け、真面目に漁業について学び、魚の直販ビジネス「お魚ボックス」を提案するが、片岡たちは渋い顔。漁協や仲買をすっ飛ばすため、彼らを怒らせてしまうと、このアイデアは猛反対を受けてしまうのだが……。

 森下佳子の「オリジナル脚本」だが、坪内知佳『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)を原作としており、山口県の萩大島で実際に漁獲した魚を直接消費者に届ける自家出荷をスタートさせた実在のシングルマザー社長の自伝が元となっている。ヒットメーカーの森下佳子脚本に、奈緒と堤真一の共演ということで期待したのだが……。

 実話を元にしているので、いずれ成功することはわかっており、その過程をどうドラマとして描くかということだと思うが、毎話かならず最後に解決するのはわかっていても、その過程が非常にイライラさせられるのだ。最後の爽快感よりも途中までのイライラの分量が多すぎて、後味がよくない。特に、堤真一演じる片岡が、毎回のように和佳の提案に乗っては手のひら返しをし……という展開は、最終的に和解するのだろうとわかっていても(いや、むしろわかっているからこそ)苛立ちが募る。「ウソみたいに爽快」という宣伝文句に偽りあり。

 頑固で、女性を馬鹿にしていて、旧来の慣習に疑問を持たず、自分たちから何かを変えようともしないが不満は抱えている……そういう漁師たちを相手に苦戦の連続だったことは事実なのだろうが、これはドキュメンタリーではなく、フィクションの連続ドラマなのだ。コメディ的演出もいまひとつ噛み合っていない印象だが、主人に降りかかる「理不尽」の量のあまりの多さ(そしてそれがほとんど実話だろうということ)に対する暗澹とした気持ちとの相性が悪いのかもしれない。原作をうまくエンタメとして昇華しきれていないのではというのが第5話までを観た率直な感想だ。主人公の知佳――というより、おそらくモデルとなった坪内知佳氏のバイタリティやアイデアには素直に感心させられるし、そうした基本の部分は十分におもしろいのだが……。日曜劇場的な作風のほうがマッチしていたのかもしれない。

 あと、おそらくドラマオリジナルなのだろうが、「先生」(渡辺大知)の同性愛者設定は必要だったのだろうか。セクシャルマイノリティのキャラクターが当たり前のように登場することはいいのだが、どうにもこの物語では「田舎」を強調するための装置として使われているだけに感じられた。たった1話の中で(一定の)理解を得られ、和解できるぐらいなら、特になくてもいい設定だったのではと思う。この設定が今後ちゃんと生かされると共に、大団円において最高の「ウソみたい」な爽快感が打ち出されることを期待したい。

 なお、ガッカリ3位は本田翼主演『君の花になる』(TBS系)と迷った。『チェリまほ』や『恋せぬふたり』の吉田恵里香の脚本とはとても信じられない出来で、ここからとても挽回していくようにも思えないのだが、吉田恵里香脚本という以外はもともと期待できる要素が薄かったため、次点とした。吉田氏は売れっ子になって忙しすぎるのだろうか……当て書きらしき宮野真守のキャラクターはいきいきとしているのだが。

ガッカリドラマ2位 『ザ・トラベルナース』木曜21時~(テレビ朝日系)

『silent』『エルピス』『PICU』…一番の期待作は? 秋ドラマ序盤ランキング
『ザ・トラベルナース』(TELASA配信ページより)

〈あらすじ〉
術場で医師を補助し、一定の医療行為を実施できる「NP(=ナース・プラクティショナー)」の看護資格を持つトラベルナースの那須田歩(岡田将生)は、“ある人物”からの要請で日本へ帰国し、看護師が次々と辞めて慢性的な人手不足が深刻な問題となっている民間病院「天乃総合メディカルセンター」で働くことに。だが、同じ日から働くことになっている“院長お墨付きのベテラン看護師”は姿を見せず、院内のヒエラルキーなどお構いなしの歩の態度は、外科部長・神崎弘行(柳葉敏郎)らを憮然とさせる。そしてスター外科医の神崎が執刀医を務める手術で、患者の異変を察知した歩は手術の中止を主張し、神崎を怒らせて手術室から追い出されてしまう。そこにミステリアスな男・九鬼静(中井貴一)が白衣を着て現れ……。

 『ドクターX ~外科医・大門未知子~』『七人の秘書』の中園ミホによるオリジナル新作。岡田将生との「W主演」のクレジットでないことが不思議に感じられる中井貴一を始め、俳優陣の演技は見応えがあり、非常に安定感のある作品だ。そういう意味では安心して見ていられるが、しかし“スーパーナースが病院内の問題を型破りな手法で解決していく”というストーリーはかなり手垢にまみれており、特に第1話は、セルフオマージュのセリフも始め、『ドクターX』の看護師版という印象を超えるものではなかった。また、主人公が「医師ではなく看護師」という設定は軸として機能しているが、今のところ「トラベルナース」という立場であることがほとんど生かされておらず、ただ大病院に能力は高いがクセのある看護師が他所からやってきただけ(要は「どこの医局にも属さないフリーランス、すなわち一匹狼のドクター」の代替)という印象でもある。

 さらに言えば、看護師の病院内での待遇の悪さや、女性の医師・看護師へのセクハラ等を取り上げながらも、「医者か金持ちの患者との結婚ばかりを狙う腰掛けナース」のキャラクターに弘中スミレという、あからさまに弘中綾香を彷彿とさせる名前を付け、「また弘中が……」と批判的に描いているのは、一体どういうつもりなのだろうか。仮に弘中アナ本人の了承を得ていたとしても(役者本人は弘中アナを意識して演じているという)、自局の大ヒットコンテンツ『ドクターX』シリーズを生んだ人気脚本家の新作に対して、一社員がNOと言えるだろうか。ジョークのつもりなのだろうが、少々意地が悪すぎるように感じるし、今のところただのノイズにしかなっていない。このあたりも残念ポイントだ。

ガッカリドラマ1位 『アトムの童(こ)』日曜21時~(TBS系)

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『アトムの童』(Paravi配信ページ)より

〈あらすじ〉
安積那由他(山﨑賢人)は、かつて「ジョン・ドゥ」という名前で活動し、インディゲームの名作『ダウンウェル』を生んだ天才ゲーム開発者。素性不明なことから「ゲーム業界のバンクシー」とも称されていたが、現在は自動車整備工場で働き、ゲーム開発からは離れていた。 そんな中、老舗玩具メーカーの「アトム玩具」は海外との価格競争などの影響で、廃業の危機を迎えていた。そこで一発逆転の経営再建をはかり、ゲーム制作へ参入すべく、アトム玩具の一人娘である富永海(岸井ゆきの)はジョン・ドゥを探し始める。資金もノウハウも持たないアトムは、藁にも縋る思いでジョン・ドゥとコンタクトを取ろうと奔走するが……。

 日曜劇場の今度の舞台は(インディ)ゲーム業界。しかしストーリーは少年マンガか韓国ドラマのようで、玩具メーカーが何のあてもなく事業転換して一発当てようとするあたり、リアリティはまったくない。リアリティがないドラマはあっていいが、それが日曜劇場にふさわしいのかというと少々疑問だ。

 「ゲーム業界を舞台に、若き天才ゲーム開発者が大資本の企業に立ち向かう姿と、周囲の人たちとの関わりによって成長していく姿を描く」という物語。その敵対する企業「SAGAS(サガス)」は、SEGAみたいな社名だが、ロゴといい、検索サービス大手でオンラインゲーム事業に乗り出す「ゲーム業界の黒船」という設定といい、Googleみたいな会社だ。主人公側のアトム玩具は、老舗玩具メーカーというところは任天堂っぽいが、カプセルトイが主力商品で、人気マスコットキャラはなぜか「ファミ通」のネッキーという謎すぎる世界線(ちなみに「協力」欄にあるのはPlayStation)。かと思うと、ジョン・ドゥが制作したとされる『ダウンウェル』は実在のゲームである。たとえば任天堂とソニーの確執をフィクションとして描くというのであればわかるが、どうもそうではなさそうだし、中途半端に現実の要素が混じり、そこがどうにも腑に落ちないというか引っ掛かりを生んでいる。なぜネッキーなのだ。ゲーム業界を描こうといろんなところに協力を依頼していくうちに、見返りとして劇中に登場させなければならないものがアレコレと増えた……と思わず想像してしまう。それにしてもネッキー?

 そもそもこの手のドラマで不思議なのは、ネガティブな要素ではマスコミ報道が使われるのに、主人公側がマスコミを利用しようという発想に乏しいところだ。主人公の那由多たちは、SAGAS創業者の興津(オダギリジョー)に騙されるようなかたちで自分たちが開発したゲーム『スマッシュスライド』の権利を奪われるという過去があるのだが、仮に当時の興津がまだ無名で、ジョン・ドゥも知る人ぞ知る存在だったとしても、今や興津は日本最大のIT企業を生んだ実業家であり、ゲーム事業に乗り出している。契約書の写しと共に『スマッシュスライド』をだまし取られたと週刊誌に訴える手だってあるだろう。

 あるいはアトム玩具の社屋全焼の件。ガチャガチャの前には那由多を始め、多くの人が並んでいるシーンがあり、アトム玩具のカプセルトイには熱心なファンがついていることがわかる。であれば、いくら南が元銀行員とはいえ、いきなり銀行に相談するとか投資家向けのプレゼン大会に出場するとかではなく、クラウドファンディングで廃業寸前であることを訴えて資金集めをするという発想は出てこないものだろうか。それこそ那由多は社屋全焼のニュースを見て駆けつけたぐらいだ。クラウドファンディングはゲームにおいても珍しくない手法だし、「ゲーム業界のバンクシー」ことジョン・ドゥが制作する新規ゲーム開発の費用という名目なら、多額の資金が集まるだろう。普通に融資をしたいと申し出る企業が出てくることだって期待できる。ゲーム開発をしているのにバックアップを取っていない点もしかり、いちいち展開と設定が雑なのだ。

 ちなみに『君の花になる』の主人公もそうだが、“話を展開させるために強引な行動を取るお節介女子”というキャラクターは誰が演じてもうるさいだけだな……とも感じた。『君の花になる』は火曜22時枠のTBSドラマだが、この『アトムの童』は日曜劇場というより、どちらかといえば、エドテックでユニコーン企業を目指す“お仕事風”ドラマの『ユニコーンに乗って』寄りであり、つまり火曜22時枠っぽい。日曜劇場にするならば、もう少しだけゲーム開発やビジネス面についてしっかり描いてほしかったところだ。

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日刊サイゾー2022.10.27