ドラマ公式サイトより

 8月27日に放送されたTBS系日曜劇場『VIVANT(ヴィヴァン)』の第7話は、主人公・乃木憂助(堺雅人)が突然「別班」を“裏切る”という展開を見せ、視聴者の考察をさらに搔き立てている。

 丸菱商事に勤める「冴えない商社マン」乃木の誤送金事件から始まった本作。

乃木は中央アジアの「バルカ共和国」に渡って誤送金“トラブル”の調査を始めるが、バルカのセドルで起きた自爆テロに巻き込まれてしまう。自爆テロの犯人と誤解された乃木は、警視庁公安部の捜査員・野崎守(阿部寛)に救出されて日本へ戻るが、実は乃木の真の姿は、自衛隊の陰の諜報部隊「別班」の一員で、誤送金事件の裏に潜む国際テロ組織「テント」こそが狙いだった。

 乃木は、テントの創設者でリーダーを務める日本人、ノゴーン・ベキ(役所広司)が幼い頃に死に別れたはずの実の父親・乃木卓(林遣都)であることを疑っていたが、その確信を得る。テントとの連絡用アプリに使われているサーバーのハッキングに成功した乃木たちは、別班司令の櫻井里美(キムラ緑子)の命で、黒須駿(松坂桃李)ら別班員6人で、ロシア国境付近を転々としているテントのアジト潜入を図る。テントと会合予定だったロシアの反政府武装組織「ヴォスタニア」のメンバーを襲い、彼らに成りすまして接触に成功した乃木は、ベキの息子である幹部ノコル(二宮和也)を人質にとる。別班がついにテントを攻略……と思いきや、乃木は別班員5人を銃撃。

銃をノコルに手渡すと、「僕は敵ではありません。ノゴーン・ベキに会わせてください」「僕はノゴーン・ベキの息子です!」といい、別班の情報と引き換えにベキと会わせろと頼むのだった――。

 乃木が別班を裏切るという衝撃の展開となった第7話。テントのアジトに潜入することは成功したが、牢に入れられる。黒須には否定していたが、裏切ったふりをしてテントに潜入するところまでが櫻井と乃木の”作戦”の可能性も十分ありえる。というより、テロリストのリーダーの実の息子である乃木を作戦のリーダーに据え、本当にただ乃木に裏切られただけとしたら“陰の諜報部隊”としてあまりに情けなさすぎるだろう。

 乃木が別班であると気づき、マークしていた警視庁公安部の捜査員・野崎守(阿部寛)は乃木の後を追って銃撃現場までたどり着く。第7話では乃木と野崎が直接顔を合わせる場面は少なかったものの、2人のやりとりは今後の鍵になりそうだ。日本で療養するバルカの少女・ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)を見舞いに来た野崎が、バルカへ向かう乃木に、なぜ今回は偽名ではなく本名で出国予定なのかと訊くと、乃木は「そのほうが野崎さんが動きやすいと思いましてね」と返していた。別班であることがすでにバレているからこその不敵な発言とも見ることができるが、乃木が公安の野崎の力を実は頼っているのであれば、このメッセージは乃木から野崎への“協力要請”かもしれない。

 バルカ空港に到着した際には、『ハリー・ポッター』シリーズが「超好きだ」という野崎にバルカでの要件を訊かれると、乃木は「スネイプ社と商談がある」と告げて去っている。スネイプは『ハリー・ポッター』の登場人物の名前で、“二重スパイ”という存在だ。

さらに、スネイプが寮監をしている寮のカラーは「緑」で、本人は「魔術師」。「緑の魔術師」という意味であるノゴーン・ベキとつながる。この「スネイプ社と商談がある」も野崎へのメッセージであると考えられるだろう。ここで乃木が野崎に伝えようとしたことは2とおり推測できる。ひとつは、スネイプ社と商談がある=ベキと会う予定があることを伝えたとみられること。ベキ=乃木卓は元公安であり、バルカでの諜報活動のため農業施設団を装って入国したものの、何らかの理由で死亡したと偽装し、テントのリーダーとなった。
いわば二重スパイ的な存在であり、そのことも野崎に伝えたということだ。もうひとつは、乃木自身が二重スパイであることを野崎に伝えた可能性だ。

 バルカに向かう機内で、乃木は野崎の手を握り「あなたは鶏群の一鶴。眼光紙背に徹す」とつぶやく。「鶏群の一鶴」とは、多くの凡人の中に1人だけ極めて優れた人物がいることのたとえで、「眼光紙背に徹す」は、表面だけでなく、その背後にある真意を読み取ることを表している。野崎の有能さを理解している乃木は、野崎なら自分の真意を察してくれる、と考えているのではないか。

乃木の狙いがどこにあるのかは読めないが、乃木が野崎を頼りにしていることは伝わる。バルカで張った「共同戦線」はまだ有効だと伝えようとしているのではないか。

 気になるのは、乃木が交際することになった医師の柚木薫(二階堂ふみ)もだ。2人で迎えた朝、乃木は薫に目玉焼きの美味しい焼き方を教え、それを動画で撮影する。愛を知らずに育った乃木の想いが通じた幸せなシーンに一見映るが、不自然さもチラつく。たとえばご飯をよそうときの乃木の、妙に厳しい表情。

はたしてあれはただの、死を覚悟する任務を前にした男の表情に過ぎないのだろうか。

 本作は、以前から「色」の要素が指摘されている。たとえば黄色。第6話冒頭、周囲をだまして私腹を肥やしていたテント幹部が粛清されるシーンがあったが、この幹部が着ていたのは黄色の衣服だった。テントのモニター(協力者)だった山本巧(迫田孝也)も黄色のネクタイを着用していたなど、黄色は「裏切り者」の色ではないかとの推測がある。TBSが今年2月に公開した『VIVANT』のティザー動画では、乃木を演じる堺雅人の顔の一部がモザイクになったり、黄色になったり、青色になったりと変化する。これは乃木の謎めいた一面を示しているとみられるが、第7話ラストの“裏切り”とティザー動画の黄色が呼応する。

 そしてこのティザー動画で、薫を演じる二階堂ふみのバックの色が黄色なのだ。さらに言うと、ベキを演じる役所広司の部分では「正義」という文字が赤で表現されている。そして同じく「愛」という文字が赤で表現されるのが二階堂。赤は本ドラマで象徴的に使われている色でもあり、これがテントを意味するカラーなのであれば、薫は実はテントに通じている存在……というヒントの可能性があるのだ。実際、第1話ラストでベキは、ジャミーンについて「退院後は我々で面倒を見る」と宣言していたが、実際にジャミーンの面倒をずっと見ているのは薫だ。ジャミーンとテントの関係性も謎に包まれているが、「我々」の意味するところに薫も含まれているのであれば、薫はテントの一員としてジャミーンをずっと保護してきたのだと見ることができる。薫に想いを告げた夜、乃木は台所で崩れ落ちるように号泣していた。初めての愛を知った美しいシーンのようだが、実は乃木が薫がテントの人間だと気づき、愕然としたのだとしたら。だからこそ翌朝、乃木は薫のなにげない場面をなぜか動画に収めていたのではないだろうか。しかし、たとえ薫がテントの一員であっても、乃木にとっては愛を教えてくれた大切な存在。乃木の薫への想いはどこに向かうのだろうか。そして乃木に近づいた薫の愛の言葉はどこまでが真実なのか。

 9月3日に放送されるのは第8話。ストーリーは終盤に近付いているはずだが、ベキ=乃木卓に何が起こったのか、そして何を狙っているのかという最大の謎は厚いベールに包まれたままで、ジャミーンが「奇跡の少女」と呼ばれる所以や、第1話でテント幹部が自爆を図るほど「ヴィヴァン」の乃木を恐れていた理由、公安の新庄浩太郎(竜星涼)が乃木を別班だと決めつけた際に公安部部長・佐野雄太郎(坂東彌十郎)が「乃木憂助は別班ではないだろう」となぜか否定していた点など、まだまだ残された謎は多い。予測不能な物語はどんなクライマックスへと進んでゆくのか。まずは第8話で何が明らかにされるのか、楽しみに待ちたい。

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日刊サイゾー2023.08.06

■番組情報
日曜劇場『VIVANT
TBS系毎週日曜21時~
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、二宮和也、井上順、林遣都、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司 ほか
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
公式サイト:tbs.co.jp/VIVANT_tbs