『この素晴らしき世界』ドラマ公式サイトより

 若村麻由美主演のフジテレビ系木曜劇場『この素晴らしき世界』が目下、大苦戦中だ。第4話の世帯平均視聴率3.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を叩き出し、この第4話からずっと3%台を連発。

第7話までの全話平均は3.94%と、今期の民放ゴールデン・プライム帯ドラマ唯一の3%台で圧倒的なワーストとなっている。

 この木曜劇場の枠は、昨年は『silent』、今年は『あなたがしてくれなくても』に代表されるように、世帯視聴率は低くても配信で爆発的なヒットを呼ぶ作品も生まれてはいるが……。

「TVerお気に入り登録者数は7日0時時点で29.2万人。昨今の人気の深夜ドラマは楽々と30万を超えており、関東地区ではド深夜の2:30に放送されている『around1/4 アラウンドクォーター』(朝日放送・テレビ朝日系)にも10万近く差をつけられています。実際、TVer再生数ランキングでは、もっともいい順位でも総合でトップ5に食い込めず、放送日から3日後くらいには総合トップ50圏外になるなど全然回ってません。コア視聴率は1%前後など、とにかく“観られていない”ドラマになってしまっています」(テレビ誌記者)

 いったい何が原因なのか。

「鈴木京香が主演する予定が、体調不良による降板により急きょ若村麻由美にバトンタッチしたという『元は鈴木京香が主演だった』という事前情報がまずハードルを高めてしまいました。平凡な主婦・妙子が、スキャンダルを起こして事務所に内緒で国外逃亡してしまった大女優・若菜絹代にたまたま顔も声も似ていることから、絹代になりすます……というストーリーで、女優になりきった主婦が芸能界でやらかすコメディかと思いきや、そうでもない。妙子の夫の職場、妙子の息子の恋愛、妙子のパート仲間の秘密、絹代の事務所内の問題、事務所社長の母子関係など、他のキャラクターのエピソードも織り交ぜられるので、どうにも焦点がぼやけてしまっている。一応、バラバラに思えた各要素がようやく結びつき始めていますが、驚きの伏線回収!というものでもなく、本当にただ“実はココとココがつながってました”というだけ。また、若村は妙子と絹代の一人二役を演じていますが、大女優の絹代のヘアメイクが合っていないと不評で、主婦の妙子のときのほうが綺麗という声が上がるなど、本末転倒になってしまってます。最初の1、2話で脱落した人は多かったでしょうね。

 さらに視聴者を呆れさせたのは、絹代の夫・夏雄の部屋に意味深にクーラーボックスが置かれ、夏雄が夜中に森の中で埋めようとするシーンが挟まれるという演出があり、この夫を怪しげに演じているのが沢村一樹ということもあり、ひょっとして絹代は夫に殺されていたというサスペンス展開になるのか?と思わせましたが、数話引っ張った末に腐った生ゴミを処分するだけというしょうもないオチがつきました。『一体なにを見せられているんだ』という感覚になってしまうんですよね……」(ドラマ・映画ライター)

 とはいえ、「第7話で本物の絹代が本格的に登場し、“ニセモノの絹代”とまるで違う芝居を見せた若村の演技はさすがでした」(同)との声も出るなど、脚本はともかく演技面では見どころもあるという本作。その第7話では、まるで現実と呼応するようなストーリー展開が一部で注目を集めたという。

「絹代が所属する芸能事務所『プロダクション曼珠沙華』は社員の櫻井(葉月ひとみ)が過重労働で自殺未遂を起こし、事務所の責任だと弁護士を立てて訴訟を起こそうとします。社長の莉湖(木村佳乃)ら事務所幹部はこの対応に頭を悩ませますが、実はこれが労働問題ではなく、別の理由で櫻井と事務所の関係がこじれていたことが徐々に明らかに。

 櫻井は帝都テレビのディレクター・沖野島(吉田宗洋)からセクハラを受けており、沖野島はその手の話で悪名高かったが、しかし事務所はテレビ局から仕事をもらう立場のため、抗議できない。

そして第7話では、沖野島の父親が帝都テレビに強い影響力を持つ存在であり、莉湖の父親である先代社長と親友だったこと、沖野島は薬物を使って女性を襲う常習であること、さらに6年前にある女性タレントが急死した事件が、実は沖野島が無理やり飲ませた薬物によって起きたもので、当時の曼珠沙華の社長だった莉湖の父親が“芸能界のドン”の國東(堺正章)に頼んで、親友の息子の関与を“なかったこと”にしていたことなどの事実が明らかになるんです。

 曼珠沙華の二代目社長である莉湖は、自分の父親が殺人事件のもみ消しに加担していた事実を知り、事務所を畳む覚悟で沖野島を訴える決意をするのですが……『二代目女社長が過去のセクハラ問題に悩む』『被害者は仕事をもらう側の立場のため、告発しづらい構造』『先代社長の関与を認めると、事務所そのものが危うい』『業界の有力者による事件のもみ消し』など、今まさに取り沙汰されているジャニーズ性加害問題を想起させるという声が視聴者から上がりました。ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長は加害者を訴えることなんてないでしょうが、ドラマの莉湖も、もとは幹部の言われるままになってしまう弱腰社長で、櫻井の件も当初は“仕方ない”というスタンスでした。莉湖が被害者のために立ち上がるのは、ドラマならではと言えるかもしれません」(芸能記者)

 はたしてこれはジャニーズ性加害問題を意識して作られたのだろうか?

「難しいところですね。脚本は『烏丸マル太』という変名で鈴木吉弘プロデューサー自らが書き下ろしたという珍しいケースで、30年ほど前からあったアイデアを今回実現させたといいます。キャスティングを始める前からすでにプロットは完成されており、今年2月の段階で脚本は最終回まで仕上がっていたとのことなので、普通に考えればただの“偶然”。

しかし、主演の鈴木京香が降板したのは今年5月で、若村に変更になってから脚本は書き直されています。言い回しなどを変えただけで物語自体に変更はないとのことですが、その頃はすでにジャニーズ性加害問題が世間の大きな関心ごとになっていましたから、影響を受けていないとも言い切れない。もっとも、ジャニーズとはまったく関係なかったとしても、90年代からテレビ業界にいるベテランプロデューサーが自ら書いた脚本なわけですから、芸能界ではこうしたセクハラ問題がずっと横行しているという現実が反映されていると考えると、また違う意味で暗い気持ちになりますね」(同)

 二代目社長を演じる木村佳乃の夫はジャニーズの東山紀之であり、木村が“この業界のルールは間違っている”と訴える場面も実に興味深いが、奇しくもジャニーズ事務所の新社長候補には東山の名前が取り沙汰されている。これは本当に偶然の産物なのか、それとも――。ドラマの内容そのものより、現実との奇妙なリンクのほうがよほどサスペンスに満ちているようだ。

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