現在、MCクラスから超若手まで、あらゆるお笑い芸人がYouTube公式チャンネルを運営し、それぞれの持ち味を生かした企画を行っている。そんな中、一向に参加してこないのが、現在もっとも勢いのあるコンビ・千鳥だ。
在京テレビバラエティが今、千鳥とかまいたちを中心に回っていることは間違いないだろう。そのかまいたちが自らのYouTubeチャンネルを隔日で更新し、200万人を超える登録者を集める一方、背を向け続ける千鳥の姿勢は、頑なにも見えるほどだ。
各メディアのインタビューやトーク番組に千鳥が出演すると、頻繁に聞かれていることがある。
「どうしてYouTubeをやらないんですか?」
その質問には常に、言外に「みんなやってるのに」「儲かるのに」「好きなことができるのに」というニュアンスが含まれている。
そんなとき、千鳥の2人は決まってこう答えるのだ。
「テレビで好きなことができているから、YouTubeで何をしたらいいかわからない」
そしてときには具体的な番組名を挙げて「テレビ千鳥があるから」と。
『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)は、2019年に同局の『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』で知られる加地倫三プロデューサーの主導で始まり、加地氏が収録にも頻繁に顔を出す数少ない肝いり番組だ。毎回「大悟がやりたいことをやる」という体裁を取っており、その企画は多岐にわたる。
だが、一貫しているのはその企画の「ゆるさ」だ。ゆるく始まり、結局、当初の目的を達成できずに番組が終わることもある。直近でいえば、9月8日放送の「マリオのクッパに会って倒したいんじゃ!!」ではクッパを倒せずに終わり、翌週15日の「宮迫さんのラヴ・イズ・オーヴァーをちゃんと聴きたいんじゃ!!」でも、最後はルールを捻じ曲げてグダグダのままエンドロールが流れた(最高だった)。
そんな『テレビ千鳥』の真骨頂が見られたのが、29日に放送された「緊急!!面白キャラを作ろう!!」だった。
当初、「鯛を釣りたいんじゃ!!」という釣りロケの予定だったというが、この日は「人生で一番雨が降ってる」(ノブ)というほどの荒天で中止に。急遽、差し替えられたのが、過去に何度も放送されている「面白キャラを作ろう!!」という企画だった。
スタジオ裏に、局内にある衣装や小道具をかき集め、ゲストの芸人がそれらを使って「面白キャラ」に扮し、質問に答えるというもの。ゲストに笑い飯・西田幸治、相席スタート・山添寛、ランジャタイ・国崎和也を迎え、この日は大悟もプレイヤーとして参加した。
『テレビ千鳥』ではしばしば、このように「始まる時点で、どうなるかわからない」企画が行われる。局側からすれば、どうあれ30分の枠を埋めるだけの撮れ高を作らなければならない。だが、『テレビ千鳥』はまるで保険を打っているように見えないのだ。
「これだけの芸人を集めれば、どうにかなるだろう」という信頼と遊び心、それを許され、託される環境が千鳥という芸人に与えられているということだ。当然、若手スタッフではなく加地氏が直接かかわっているという事実も、この自由度に寄与しているに違いない。
かくして始まった「緊急!!面白キャラを作ろう!!」のお題は「子どもに人気が出る面白ヒーロー」。そこには、大喜利の魅力がすべて詰まっていた。
参加メンバーはまず、赤い幕の裏で数十分をかけて衣装ボケ&モノボケを練って出オチを狙う。
さらに、ひと通りの質問が終わると、参加者は自分の大喜利を説明させられることになる。そのヒーローに至った思考の発端や、ボケの成り立ちの経緯、裏設定、質問に回答したときの心境など、お笑いファンの大好物である「笑いの裏側」が存分に披露されるのである。
30分の放送枠に対して、おおまかに4人で4ボケしかない番組は、そうして終始、面白いまま終わっていく。
自由を与えられることは、責任を負うことだ。
その緊張感や達成感が、千鳥は好きなのだろう。「好きなことができるのに、どうしてYouTubeをやらないの?」そんな質問は、この2人の前では、まるで無意味になる。
(文=新越谷ノリヲ)