広瀬アリス

 フジテレビの月9『366日』も第5話です。

 前回のレビューで、このドラマは人物をいい具合のところに配置して、その配置から導き出されるであろう最大公約数のテンプレート的な感情表現を当て込むことで何かを語っているような気になっている、その保守的な作劇が気に食わないといったことを書きましたが、今回もまあそんな感じ。

 振り返りましょう。

■ゴードン、目覚めるの巻

 第1話で頭を打って眠り続けていたハルト(眞栄田郷敦)でしたが、前回のラストで目を覚ましました。

 ところが、どうやら以前のハルトとは違うようです。聞けば右半身に麻痺があるのと、高次機能障害の症状があって、いわゆる記憶喪失の状態だという。ホントに今期のドラマは各局で、みなさん記憶を失っていて大変です。

 現カノであるアスカ(広瀬アリス)を中心に、同級生たちは元のハルト、元の関係性を求めて病室で思い出話を繰り広げます。例えば火曜日のめるる主演『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)では記憶喪失になった人物に改めて数多くの選択肢を与え、その人物に考えさせて選ばせるという作劇が行われているわけですが、『366日』では頑なに過去にこだわります。

あるべき自分ではなく、そうであった自分こそ美しい、高校時代のまんまでいようぜ、変わらない俺たち最高。そんな感じ。

 それがいいとか悪いとかいう話ではないけど、自分が誰だかわからないと言っている相手に「私、あなたの彼女です」って宣言するのはなかなか勇気のいることだと思うんですが、『366日』では、そこはためらわない。「だってそうだったんだから」の一点突破で認めさせようとする。怖いことだと思うんですけどね。

 そうやってお話としてはかなり乱暴なことをやりながら、一方で脚本や演出方面では、むちゃくちゃ丁寧に作っているのがこのドラマの特徴です。

 高次機能障害を負った患者が最初は無心にリハビリに励んでいたところ、その効果が出始めて情緒を取り戻し始めると、不安や絶望が募って希死念慮に苛まれることがある。このへんはちゃんと勉強して作っていることがうかがえるし、前回ちょっとだけ含みを持たせた看護師さんの正体を隠しておいて、高校時代にハルトが痴漢に遭っていた女の子を助けたことがあるというエピソードをサラッと差し込んでくる。

 ハルトが目覚めてから、徐々に心を揺らしていく心象表現の芝居も実に冴えています。ちゃんと顔が変わっていく、目が変わっていく。時おり差し込まれる高校時代のハルトに近づいていく。強いディレクションの効いた演技を要求されているし、ゴードンもよく応えています。

 身もふたもない言い方をしてしまえば、すげえつまんない話を、すげえちゃんとしたプロの仕事で撮ってる。

■キャッチボールのシーンは鬼門

 ああ、キャッチボールだ、と思ってしまうのです。キャッチボールのシーンって鬼門なんですよね。「野球上手い」設定の人物がキャッチボールをしてしまった瞬間に、画面がリアリティを失ってしまう。映画『深呼吸の必要』(04)で、高校野球のスター選手で甲子園でノーヒットノーランをやったことがあるという触れ込みで登場した成宮寛貴が、キャッチボールをした瞬間、とんでもないへっぴり腰で白けてしまったことがありました。

 キャッチボールって、だいたい1分間に6球くらい投げるんだそうです。

野球部は30分くらいキャッチボールしますので、1日に180球投げる。週5で練習するとしても1年で約5万球。10年で50万球。それだけ投げるわけですから投球フォームも定着しますし、その俳優が野球経験者かどうかはキャッチボール見ればだいたい判別できちゃうわけです。

 今回のハルトも、高校野球のスター選手でした。小学校から高校まで、10年以上野球に打ち込んでいたという。

 そのハルトが父親とキャッチボールするシーンがあるんですが、ゴードンあんまり上手くないわけです。広瀬アリスが「上手い!」とか言うけど、上手くないの。

 やっかいだったのが、ここでのキャッチボールの上手さは物語の意味を表現する部分だったんです。反復練習によって身体に染み付いた動作は記憶を失っても再現できるという、いわゆる「手続き記憶」について語る場面。

 ここでハルトのキャッチボールが上手くないと何が起こるかというと、今のハルトの状態について「完全に手続き記憶が回復して完璧にキャッチボールをしている」と言いたいのか、「手続き記憶の回復も完全ではなく、本来もっとスムーズに投げられるのに、ぎこちなくなってる」と言いたいのか、見ている側が判断できなくなる。直前にそこでキャッチボールをしていた小学生の子役が明らかに野球経験者の投げ方をしていたこともあって、悪目立ちしてましたね。

ハルトはボールを持った腕を上げる動作から投げ始めてましたけど、経験者なら絶対に初動は下半身なんです。そのほうがラクだから。

 まあでも、これはどうでもいいや。これでドラマの出来が云々って言うのは意地悪すぎるし、単なるお芝居あるあるです。はい。

(文=どらまっ子AKIちゃん)