「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。

<今回の番組>
『ワイドナショー』(フジテレビ系/4月30日10時~)ほか

<今回の疑問>
10年以上前のDV被害を訴えられるのか?

 タレントの泰葉が、4月24日に更新したブログで、元夫の春風亭小朝から過去の結婚生活でDV被害を受けていたことを発表し、『ワイドナショー』(フジテレビ系)で松本人志が泰葉に苦言を呈すなど、話題を呼んでいる。

泰葉はブログを通し、「長かった髪を引きづり回され水風呂に投げ込まれました」「階段から突き落とされ肋骨にヒビが入る怪我をした」「三木助と楽しく話をして電話を切ったら嫉妬した小朝が私をかけ布団でぐるぐる巻きにして二階から突き落としました」「私の双極性障害の原因はこの虐待によるもの」と、DVの内容を訴えている。

 泰葉と小朝は2007年に離婚が成立しているが、そもそも過去のDV被害について、数年後に提訴することは可能なのだろうか? アディーレ法律事務所の鳴海裕子弁護士に聞いた。

「まず、泰葉さんのブログの内容から、『暴行・傷害罪』ということを前提にお話しします。ブログのタイトルが『告発』であることから、小朝さんから受けたとされているDVについて、刑事責任を問うべく告訴・告発(刑法208条、204条、刑訴法230条、239条)できるのかという点ですが、DVの典型例である暴行罪の公訴時効期間は3年(刑訴法250条2項6号)、傷害罪は10年です(同条2項3号)ので、この期間内に告訴・告発しなければ刑事責任を問うことはできません。なお、暴行罪や傷害罪は親告罪ではありませんので、告訴がなくても起訴される可能性はあります」

 なお、暴行罪の公訴時効については、「基本的に暴行を受けた時、怪我をした時から進行する」と鳴海弁護士は述べる。

「泰葉さんは、小朝さんのDVのせいで双極性障害という鬱病を発症した(DVによる傷害)と訴えていますが、小朝さんのDVと双極性障害の発症の因果関係が極めて不確かで、証明するのは難しいので、やはり、実際の暴行を受けた時からとなるでしょう。
すると、離婚したのが07年ですでに10年前であり、DVは離婚より前に行われていたものと考えるのが自然であるため、すでに公訴時効が完成している、もしくはギリギリ、といえます」

 もし、泰葉が提訴した場合、損害賠償請求(慰謝料請求)は可能なのだろうか?

「泰葉さんが小朝さんから受けたDV被害は、不法行為(民法709条)に該当し、その消滅時効は、損害(怪我)と加害者を知った時から3年とされています(民法724条前段)ので、これも実際の暴行を受けた時から3年で消滅時効が完成してしまいます。よって、泰葉さんは慰謝料も請求できない(正確にいえば、請求しても消滅時効を主張されて消えてしまう)ということになります」

 泰葉は離婚後、小朝に対し「金髪豚野郎」などといった内容の脅迫メールを数百通送っている。今回のブログの件と合わせ、小朝のほうが泰葉に対し、脅迫罪や名誉棄損などで訴えられるのだろうか?

「脅迫罪(刑法222条)・名誉棄損罪(230条)の公訴時効はいずれも3年で(刑訴法250条2項6号)、名誉棄損罪は親告罪であり、犯人を知った日から6か月以内に告訴する必要があります。泰葉さんが小朝さんに数百通のメールを送ったのは離婚から間もなくの時期とのことなので、告訴期間は経過し、公訴時効も完成しています。また、小朝さんが泰葉さんを脅迫や名誉棄損の不法行為で損害賠償請求(慰謝料請求)することも考えられますが、過去の脅迫メール等については3年の消滅時効により請求できなくなってしまっていると思われます。ただ、今回のブログについては、名誉棄損罪に該当する可能性があり、小朝さんが告訴することは可能と思われます。
慰謝料請求の余地はあるでしょう」

 泰葉は、小朝からのDVが原因で、双極性障害(鬱病)を発症したと訴えているが、もし、小朝が泰葉を提訴したとして、泰葉に責任能力を問うことはできるのだろうか?

「刑事責任を問うためには責任能力が必要です。刑事責任能力について、刑法は、心神喪失者の行為は罰しないとし、心神耗弱者の行為は減軽するとしています(刑法39条)が、心神喪失や心神耗弱と認定されるケースは非常に稀です。仮に泰葉さんが刑事責任に問われたとしても、泰葉さんの双極性障害は、いわゆる『躁うつ病』と同様の状態を指すようですので、心神喪失や心神耗弱を理由に刑事責任が減免されるというものではありません」

 過去のDV問題を「告発」という形で訴えてきた泰葉だが、逆に泰葉自身が名誉棄損で訴えられてしまう可能性もあるということだ。この騒動に小朝側は沈黙を続けているが、過去の騒動の件からも、関わりたくないのかもしれない。

アディーレ法律事務所

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