朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の女性兵士に対する性暴力被害の深刻さが明らかになった。証言によれば、北朝鮮において女性兵士は性暴力を受けても訴える場所がなく、むしろ加害者の顔色をうかがわなければならないという非人道的な状況に置かれている。

韓国の統一研究院がこのほど発表した報告書『北朝鮮住民の軍隊生活』では、朝鮮人民軍で中隊長を務めていた脱北女性のA氏が、軍内の性暴力問題について証言している。

A氏は、「女性の意思ではなく、男性が自らの権力を用いて行うことである」「北朝鮮軍では上官に呼ばれたら拒否できるような状況ではない」と述べた。

閉鎖的で厳しい上下関係が存在する北朝鮮軍内では、上官による性暴行が頻繁に発生している。A氏によれば、上官の要求を拒否すれば不利益を被り、被害を誰かに訴えることもできなかったという。

「私の部隊にも、そういう連隊長がいた。公然と部隊内を歩き回り、『おい、入ってこい』と言って呼びつけ触ってきた。韓国であれば大問題になっていただろう。しかし、被害に遭っても声を上げられなかった。」

A氏は、自らも上官から性暴行を受けそうになった経験を明かした。

「私が必死に拒否してからは、公然と罵倒されるようになった。部隊では、ミスがなくても兵士たちの前で公然と非難され、本当に死にたくなるほど辛かった。」

自分が被害者でありながらも、上官の機嫌を取るためにタバコを贈ったと語った。

「私は被害者だった。しかし、彼に良い印象を持たれなければならない。

当然、体を差し出すわけにはいかない。彼が私を狙っていたので、これはまずいと思いタバコ一箱を買って渡した。(中略)すると少し怒りが収まったようだった。」

A氏は、部隊内で自分の代わりに犠牲になる存在がいたことが「不幸中の幸いだった」と率直な心情を吐露した。彼女は、部隊内の政治指導員に自分の部下が被害を受けた事実を知らせたが、黙殺されたと述べた。

「副小隊長を務めていた部下がいた。私が中隊長だった時、その子が豚舎で被害に遭った。その事実を知っていたが、報告できなかった。上級部隊に伝えることもできず、大隊の政治指導員に『政治指導員同志、どうすればよいでしょうか』と相談したが、『おい、中隊長、口を閉じて知らないふりをしろ。見逃してやれ。われわれにはどうすることもできない』と言われた。そのことを話しても、誰も聞いてはくれない状況だった。韓国ならば、メディアで報じられ、性暴行事件として扱われる。

しかし、北朝鮮では被害者の女性の方が悪いとされる。指揮官は『お前たちが自分の体を管理できなかったからこうなったのだ』と言うから、口外してはいけないのだ。自分の体の管理ができなかったせいだとされてしまうのだ。」

また、他の女性兵士たちが被害を「仕方のないこと」として自己合理化している実態も明らかにされた。

「幹部たちには力があるので皆が見て見ぬふりをする。もし妊娠すれば、中絶手術を受けるように手配し、(朝鮮労働)党への入党を早め、大学推薦などを受けさせ、将来が開けるようにしてくれる。そのため、ある意味で悪くないと考える者もいたかもしれない。」

報告書は、このような状況について「軍隊内で性暴行を受けた被害者は生き延びなければならないため、『自分がかわいいからこういう目に遭うのだ』といった形で苦痛を和らげようとする」「誰にも話すことも告発することもできない状況で、性暴行に対する被害者の受動的な自己合理化のメカニズムが働いている」と説明した。

さらに、軍内部での被害報告や問題提起が事実上不可能であることが、性暴力の根絶を困難にしている。被害者が声を上げれば、加害者からさらなる報復を受ける危険性が高く、上官や政治指導員も体制維持のために事件を隠蔽する傾向がある。

証言者A氏は、「軍の序列では、性暴行も命令の一部とみなされているかのようだった。拒否する自由もなければ、逃れる場所もなかった」と語っている。

北朝鮮軍の性暴力問題は、単なる軍内部の倫理や規律の問題にとどまらず、体制そのものが生み出した構造的な人権侵害である。報告書は、この問題を放置することは被害者にさらなる沈黙と苦痛を強いるだけでなく、社会全体の人権意識の麻痺を助長する結果を招いていると警鐘を鳴らしている。

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