北朝鮮で違法薬物の蔓延がいっそう深刻化し、中産層の家庭が次々と崩壊している。かつて裕福だった家庭でも、薬物中毒により財産や家を失い、家族関係も破綻する事例が急増している。

韓国のサンド研究所が運営するサンドタイムズが報じた。

ソウル在住の脱北者リさん(仮名)は昨年、ブローカーを通じて北朝鮮・平安道に住む息子と連絡を取った。だが、息子はすでに覚せい剤中毒で服役歴があった。リさんは「最近も金の無心の電話があったが、『薬物をやるなら二度と会わない』と突き放した」と語った。

北朝鮮では、こうした家庭崩壊の話は珍しくない。脱北者Aさんは「薬物代のために家まで売り、貧困に陥った」という話を聞いたという。

2010年代以降、覚せい剤「ピンドゥ」やアヘンは北朝鮮全土に安価で出回り、住民の間で常用されている。中国からの原料輸入が減少し、一部農家は自らアヘン栽培を始めた。末端価格は、覚せい剤が1gあたり1万北朝鮮ウォン(約60円)、アヘンは3~5000北朝鮮ウォン(約18~30円)とされる。

「北韓人権情報センター」(NKDB)のイ・グァンヒョン研究員は、「少なくとも30%以上の住民(国民)が薬物を使用していると見てよい」と述べている。

薬物問題は家庭経済も直撃する。咸鏡北道出身の脱北者Bさんは「家族が薬物のため借金し、返済を求めて借金取りが私に電話してきた」と証言した。

地方党組織や保衛部の公務員が薬物流通に関与し、海外密輸で外貨を得ているとの情報もある。「取り締まりを公言しても、実態は幹部が流通網の一部を担っている」との声もある。

2021年、薬物犯罪に死刑を含む厳罰法が施行されたが、実効性は薄い。摘発された薬物が再流通する例もある。

背景には1990年代の大飢饉後、国家主導で始まった薬物栽培と輸出がある。輸出が困難になると国内消費が常態化し、医薬品不足も拡散を助長した。

専門家は、南北統一後の再社会化や保健政策の課題として、薬物問題が重くのしかかると警告している。NKDB関係者は「これは統一後に甚大な社会コストをもたらす保健危機だ。早期の実態把握と対策が不可欠だ」とサンドタイムズに語っている。

北朝鮮の薬物産業は、いまや住民の健康と社会の基盤を侵食している。

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