北朝鮮から韓国へ逃れてきた脱北者は、2024年3月時点で3万4352人に達している(統一省)。政府は昨年、7月14日を「北朝鮮脱出住民の日」に定めたが、社会の関心は薄く、貧困や孤独死のリスクが深刻だ。

野党・国民の力のキム・テホ議員室が公表した資料によれば、今年5月時点で脱北者のうち20.9%にあたる7200人が「高リスク層」に分類されている。このうち60歳以上は2174人、生活保護受給者は46.1%にとどまる。

「高リスク層」とは、電気・水道の停止、保険料や通信費の滞納、ローンの延滞など10項目以上に該当する状態を指す。家族の支えがなければ、制度の対象であっても実質的な保護は受けられず、孤独死に至るケースも多い。

ソウル近郊の賃貸マンションで一人暮らしをしていた70代のチョさんは、10年以上前に韓国にやってきて生活保護を受けて暮らしていた。脳腫瘍を患い手術の必要があったが、保護者の同意書を得るすべがなく、手術を受けられないまま昨年8月に亡くなり、無縁仏として処理された。

ソウル市陽川区の賃貸マンションでは2022年、40代女性のAさんが白骨化した状態で発見された。かつて「成功した脱北者」としてメディアで紹介されたこともある彼女だが、仕事を辞めた後、孤立した生活を送っていたと伝えられている。

過去10年で、死亡して無縁仏として処理された脱北者は83人に上る。

脱北者支援団体「脱北者同志会」のソ・ジェピョン会長はこう語っている。

「2010年以前に脱北した人の多くは日雇いなど不安定な仕事で生活を支えていた。その人たちが60~70代となり、老後の貧困に直面している」

こうした背景から、行政との連絡が取れない高リスク者も増加傾向にある。

連絡不能者は2024年4月時点で80人。住民票上の住所に実際に住んでいないケースも多く、支援の手が届かない状況が続く。

統一省の担当者は次のように述べている。

「55歳以上の独居世帯やひとり親世帯など約1200人には、週2~3回乳製品を配送しながら健康状態を確認している」
「警察庁や法務省と連携し、安否確認の取り組みも進めている」

しかしながら、高リスク層の中には住民票の住所に住んでいなかったり、家族との連絡手段がなかったりと、所在の把握が難しいケースも少なくない。また、40~50代の脱北者は「就労可能年齢」と見なされ支援が後回しになることもあるが、事故や病気によって急に経済的基盤を失うこともあり、支援の抜け落ちが指摘されている。

脱北者向け介護施設の関係者は、次のように訴える。

「自治体やハナセンター、福祉館、住民との連携が重要だ。医療費の自己負担分の減免拡大、事前の医療委任状の作成、惣菜支援など、生活に密着した福祉の充実が必要だ」

2024年7月14日は、2回目となる「北朝鮮脱出住民の日」だ。だが、記念日制定だけでなく、制度から漏れてしまう人々を救うための継続的な支援体制の整備が、いま強く求められている。

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