北朝鮮の国営両替所の「協同貨幣取引所」が機能不全に陥りつつある。トンデコ(ヤミ両替業者)や自国内での外貨使用を取り締まり、通貨主権を回復させるのが目的だったが、最近になって閉店する店舗が続出し、当局の思惑とは裏腹に、通貨管理システムは事実上崩壊しつつある。
デイリーNKの平壌の情報筋によると、昨年から数を増やしていた協同貨幣取引所が、最近になって他の店舗と統合されたり、上位組織である国家外貨奉仕所に吸収されたりして閉店するケースが続出している。
市場レート(闇レート)で北朝鮮ウォンの価値が昨年と比べて3分の1以下に暴落したため、国がそれに近いレートでの両替をするほど財政的余裕がなくなったためだ。
平壌や国内主要都市にある協同貨幣取引所では、今年5月までユーロ、円、ルーブルなどを取り扱っていたが、今では銀行でしか両替できなくなっている。中央から今月初め、各種が以下の取り扱いを中止せよとの指示が下された、というのが情報筋の話だ。
デイリーNKの定期市場価格調査によると、昨年1月時点で平壌の対ドル為替レートは8300北朝鮮ウォンだったが、今月初めには3万700ウォンにまで上昇した。
昨年上半期に1ドル(約147円)が1万2000ウォンに達した際にも、北朝鮮当局は「1ドル=8900ウォンの協同貨幣取引所レートを厳守せよ」と政治教育資料を通じて命令していた。しかし、それを守れば、利用客がいなくなってしまうため、協同貨幣取引所はレートを日々変動制に切り替え、市場レートより5~30%低いレートで対応していた。
当局は、個人が1日最大300ドル(約4万4230円)まで外貨を購入できるようにしていたが、平壌市中区域の協同貨幣取引所では現在、1人あたり20ドル(約2950円)までしか両替できず、在庫のドルがなくなったという理由で両替を拒否される日も多いという。
一方で、個人がドルや人民元を北朝鮮ウォンに両替する場合には、制限なく行えるとのことだ。これは、北朝鮮当局が保有する外貨が枯渇していることを意味していると考えられる。
当局はこうした中、個人の「トンデコ」への取り締まりも強化している。その影響で、市場に姿を見せる末端のトンデコを見つけるのは難しくなっているが、大口の資金を扱うトンデコは、信頼のおける顧客を対象に、自宅や第三の場所での取引を継続している。
情報筋は「2009年の貨幣改革(デノミネーション)のときのように、誰もがドルを溜め込もうとしている」と語り、「トンデコのところに行っても、北朝鮮ウォンでドルを買うのは難しい。最近ではドルを貸して利子もドルで受け取る“ドル高利貸し”が増えている」と明かした。
金正恩政権の目指す、市場経済化の抑制、中央集権的計画経済システムの復活の一環として行われている外為市場の掌握だが、充分な資金のないままにマーケットの力に抗おうとしたため、失敗したとの見方も広がりつつある。