北朝鮮で、金正恩総書記に対する個人崇拝が一段と強化されている。2月に行われた朝鮮労働党第9回大会以降、祖父の金日成主席、父の金正日総書記の権威に依拠してきた旧来の統治スタイルからの脱却を加速し、自らを「現代の唯一の指導者」として前面に押し出す動きが鮮明になっているもようだ。
デイリーNKの咸鏡北道の消息筋によると、各地の機関や企業所、人民班では最近、「金正恩思想」とその指導業績を集中的に学習させる思想教育が相次いで実施されている。特徴的なのは、以前は絶対視されていた金日成・金正日の「教示」や「遺訓」を格下げし、金正恩氏自身の方針や指示を革命の基準として位置付ける内容が大幅に増えている点だ。
現場の講義では、「金日成と金正日は歴史的象徴にとどまる存在であり、現行政策はすべて金正恩の指示に基づくべきだ」とする趣旨が繰り返し強調されているという。長年「先代の遺訓こそ絶対」と教え込まれてきた住民にとっては大きな転換であり、現場では戸惑いの声も上がっている。
金正恩体制は近年、こうした「先代の相対化」ともいえる動きを段階的に進めてきた。金日成・金正日の肖像掲示や表現の簡略化、記念行事の扱いの変化などを通じ、象徴的地位は維持しつつも実質的な権威を徐々に後景へと退かせてきた。今回の思想教育の変化は、その流れを制度的に固定化するものとみられる。
さらに注目されるのは、後継体制を見据えた動きだ。
近年、公の場への登場が増えている娘のキム・ジュエ氏は、軍事行事や国家的重要イベントに同行するなど異例の露出を続けており、体制内部で象徴的存在として位置付けられつつあるとの見方が強い。専門家の間では、金正恩氏が自身の権威を絶対化することで、血統による正統性を娘へと円滑に継承させる布石との分析も出ている。
消息筋は「最近は『金正恩の命令に絶対服従せよ』という教育が強まり、過去の指導者の言葉は後回しにされている」と指摘。「住民の間では混乱と同時に、体制が新たな段階に入ったとの不安も広がっている」と語った。
こうした動きは、単なる個人崇拝の強化にとどまらず、権力継承を視野に入れた体制再編の一環である可能性があり、今後の北朝鮮の政治構造に大きな影響を及ぼすとみられる。








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