造船業は、高度経済成長期の日本を支えた一大産業だった。1950年代には欧州勢を退けて建造量世界一に躍り出ると、80年代まで約5割のシェアを握り続けていた。

ところが90年代には韓国、2010年ごろには中国勢が台頭、日本の造船業はかつての存在感を失ってしまった。そして今、国内首位の今治造船すら、赤字に転落する厳しい環境にさらされている。果たして国内造船各社はどのように生き残るのか。ジャパン・マリン・ユナイテッドの千葉光太郎社長に話を聞いた。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 新井美江子)

――日本鋼管(現JFEホールディングス)と日立造船の船舶部門を源流とするユニバーサル造船と、IHIの船舶部門と住友重機械工業の艦艇部門を源流とするアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド(IHI MU)が経営統合し、ジャパン マリンユナイテッド(JMU)が誕生して今年で6年目に突入しました。千葉社長は4月に造船界の実力者である三島愼次郎氏から社長のバトンをわたされ、JMUとしての“第2ステップ”を任されましたが、第1ステップの最終年度である2017年度は、慣れないLNG船の工事に建造現場が混乱し、694億円もの最終赤字を計上しました。出だしから躓いている格好ですが……。

 第1ステップでは、まずはとにかく、社員にどうやって同じ方向を向かせ、力を発揮させるかが問題でした。

 でも、ベクトル合わせは割と速く進んだんですよ。13年の統合当時は今ほど市況が悪くなかったのですが、その後船価が落ち、為替も円高に振れて非常に不安定な環境に身を置くことになりましたから。もう団結するしかなかった。

――なるほど。

もめてる場合じゃなかったんですね。

 一方でJMUが成長戦略として掲げたのが、商品のラインアップの拡充でした。

 ユニバーサル造船は、バルカー(ばら積み貨物船)とタンカーに注力して、コストをいかに下げるかってことを中心に動いていた会社です。この戦略はいい面もあったんですが、バルカーとタンカーの市況が悪くなると会社全体の業績も落ち込んでしまう。

 他方でIHI MUは艦艇やコンテナ船も造っており、「高い技術力でいかにいい船を造るか」ということを標榜していました。

 両社の統合によって商品のラインアップが増えましたし、1000人規模の設計部隊や、それぞれにコスト競争力や技術力を持つ特徴のある5つの事業所も手に入れた。

 JMUは、これらの経営資源や船の建造ノウハウを生かしながら、商品のラインアップをさらに広げていこうとしたわけです。バルカーの市況が悪くても、コンテナ船で収益を確保する。コンテナ船が悪くても、自動車運搬船で確保する、といった具合にリスクヘッジを行うためです。

 これで、少なくとも日中韓で5本の指に入る造船会社になろうと。

 もちろん、ラインアップの拡大に向かった背景にはいろんな事情も絡んでいます。本当は事業所が得意とする船だけ造れればいいんですが、(船腹過剰で発注量が減るなど、ここ数年は)それだけじゃ船台が埋まらなかったとか。

日本を代表する造船会社としてこの船は造れるようにしておくべきだ、という意識が働いたとか。

 そういう事情にも鑑みて、この戦略でいこうと決めた。

現場の力が100%出せているか?
まだまだ、本当にまだまだです

――商品ラインアップを拡大するというのは具体的にどういうことですか?

 バルカーとタンカーとコンテナ船をベースにして、SPB(自立角型)タンク方式の液化天然ガス(LNG)船や自動車運搬船、カーフェリー、イージス艦などにトライしていくということです。

 ただ、新たに挑戦した船種には、うまくいったものもあれば、うまくいかなかったものもありました。

――その、うまくいかなかった代表例がLNG船だったと。

 非常に苦しい思いをして造った船も含めて、見えざる財産は蓄積されたと思っています。でも、(うまくいかなかったという)結果が出ているわけですから、第2ステップでは船種を絞り込んでいくっていう方向に行かざるを得ないですよね。

 人に関して言えば、例えば現場に目を向けると、造船ってチームプレーというより一人作業が多いんですよ。一つの船を造るのに200~300人が関わるのですが、一人作業が多いということは、一人ひとりが100%の力を出して課された作業に取り組んでくれないと、想定するコストでは仕上がらない。

 じゃあ今、そうやって100%の力を出せているのかというと、まだまだ。本当にまだまだです。

――でも現場からも経営陣に不満があると思います。

オーナー系の造船専業会社のように造る船の種類を絞ってくれれば、習熟度が上がるし、もっと効率的に作業できるのにとぼやきたくなりそうです。

 確かに大島造船所のように、バルカーに特化して徹底的に生産効率を上げるという戦略もあるんですけど、それは今のわれわれの体制には適していない。

 有明事業所ならVLCC(主に石油を運ぶ大型のタンカー)、呉事業所なら大型のコンテナ船というように、それぞれの事業所で造ってきた得意な船種っていうのがあるわけですから。その流れをある程度維持していかないと、統合した意味もないですよね。

――成り立ちからして極端な船種の絞り込みは無理だということですね。

 無理というか、われわれ総合重工系出身の造船会社が目指す道ではない。やっぱり技術力を生かして最先端の船まで幅広く造っていくのが総合重工系の使命です。

――そもそも、JFEとIHIという2大株主の手前もあり、オーナー系のように、ときにグループ会社に船を発注させて同型の船を確保するというハイリスクな“荒業”も使えませんしね。

 つまり、われわれは一人ひとりに頭を使って造ってもらうしかないんですよ。それが戦略的に間違ってるんじゃないのって言われりゃもう、それまでなんだけども!

――今の低船価では、重工系の品質の高さが受注額には反映されていない。これもまた厳しいところですよね。

 だからこの4月に海上物流イノベーション推進部を新設しました。

計画段階からお客さまに提案をさせていただく体制を整えることで、営業力も強化しています。

 最後は価格の勝負になるんですよ、もちろん。だけどわれわれの船の価値を理解してもらわなければ、全てが値段の問題になって発注先の候補にも入れてもらえませんから。

今のところ再編について
拒否も受諾もしません

――事業所の統廃合は行いませんか? これまでは地域の雇用を守るためにも造船所は閉めないという方針を貫いていました。しかし昨年度の大赤字を受け、株主からは「当然検討すべきだ」との声も上がっています。

 事業所の数が多いことは、強みにもなるし弱みにもなる。事業所の統廃合の是非は、マーケットの状況にもよっても変わります。発注が増えれば、連続建造できる規模を持っていた方が有利ですし。

 いずれにしても事業所の統廃合は、事業所単位で収益管理を徹底してから考えるべきことだと思っています。結局、何年分の手持ち工事量を持つことが適正なのか、得手不得手とはいったい何なのかといった、根本的な事業所の在り方から検討し直す必要がある。

 事業所によってモチベーションも仕事の仕方も体力も違うんですよ。そりゃ、全ての事業所が同じ設備を持っていて、一つの設計図面で同じ船が造れれば苦労はしないですよ。

でもそうはいかないじゃないですか。

――いっそ、思い切って設備を整えてみては?

 そんな金、どこにあるんですか。昨年度の業績見ればお分かりでしょ。だからこそ私は、各事業所に自分のところの特徴をきちんと把握してもらい、どうレベルアップできるか考えてもらいたいんです。そうすれば、会社全体としてどれだけ、どんな船を受注すべきかもっと明確になる。

 私も、6月から各事業所を1~2泊で回り始めています。パイプ職など、各事業所にある30~40の職区を全部回り、1つの職区に30~40分をかけて話を聞いている。一番重点的に聞いているのは班長の話です。それぞれ意識の持ち方も部下への指示の出し方も、まぁバラバラ。横展開すべきことは共有しています。

 「古い設備を何とかしてくれ」とか、いろいろ文句も言われますよ(笑)。要望を聞けるところは聞いて、こっちから鼓舞もして、とにかく「一緒にやっていこうぜ」と激励している。

――逆に、より規模を大きくするという選択肢はないですか? 三島前社長はよく、最低でも5000億円の事業規模がほしいとおっしゃっていました。

 ここ数年は三菱重工業三井造船(現三井E&Sホールディングス)から話を持ち掛けられたといわれていますが。

 私はまだ社長ではありませんでしたから、そんな話があったのかどうかも含めて詳しい話は知らないけれども。私は今のところ、再編について拒否も受諾もしません。もしそういう話があれば、その段階できちんと検討して判断します。

 だけどね、今JMUの中で一生懸命、何が最適かを考えてるわけですよ。再編したら、必死に探ったバランスがいったん崩れますからね。またそこでバランスを取らなきゃいけなくなる。再編に相当なエネルギーを費やすことは経験済みです。その苦労を覚悟するだけのメリットが「再々編」にあるとは現時点では思いません。

――JMUでバランスを取る前に規模を追って再編を決めるという手がありますよ?

 規模を取るかといわれると、「う~ん」と考えたくなるね。

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