ひと頃「草食系男子」という言葉がはやっていたが、最近の若者は昔に比べ、物欲、性欲に乏しいと言われている。特に、20代男子の性欲の低下は著しいと言われているが、本当だろうか。

(フリーライター 武藤弘樹)

世代ごとの“欲”のグラデーション
現代に近いほど欲が弱い?

「近年の若者は欲に乏しい」という言説をちまたでよく耳にする。確かににそういった印象はあり、筆者が個人的に親しい10代、20代の若者たちも丸く、“草食”的な人が多い。

 筆者は1980年生まれの38歳だが、同世代の男性にはギラギラした連中がそこそこ散見される。彼らは物欲や性欲、「金持ちになってやろう」という野心を四方に放出しながら生きている。もちろん個人の性格のことなので人それぞれには違いないのだが、その割合が現在の20代に比べて多いように感じるのである。

 しかし、筆者の世代もおそらくさらに上の世代から見ると欲が少ないのかもしれない。例えば、筆者が20代の頃、周りの連中はあまりクルマを欲しがらなかった。クルマといえば80年代や90年代には若い男性の大きなステータスシンボルとされていたアイテムだが、筆者が20代を送った2000年代に入ってからは、あまり強いシンボルにはなっていなかった印象がある。

 こうした“若者の欲”は世代ごとにグラデーションになっていると見ていいかもしれない。では2018年の20代の若者、その中でも特に筆者が個人的に感じている彼らの性欲の低下について、生の声を参考に洞察を深めていきたい。

自称「モテない」
イケメンジャズマンの性欲

 さて、再び筆者の話で恐縮だが、知り合いの男性を見渡すと「女性に疎い」タイプはいても、女性に「興味がない」タイプはいなかったように思う。女性に疎く、自分からアプローチできない男性の場合、「プロ」の女性を専門にして憂さを晴らしている友人もいた。

また、「女性に疎い」度合いと、「ファッションに興味がない」度合いは、ある程度比例していたように思う。

 しかし、現在の20代の若者にはこのかつての“常識”が適用できなくなってきている。最初に紹介するのは「ファッションに造詣が深い」が「女性に興味がない(薄い)」男性である。ファッションと女性への興味は関係ないだろうと若者は思うかもしれないが、筆者からすると、それが意外に感じるのである。

 Aさん(26歳男性)は駆け出しのジャズミュージシャンである。マーケットが小さいので商業的に大もうけが狙えるジャンルではないが、多くのジャズミュージシャン同様、Aさんもそこに重きは置いていない。ただジャズが好きだからジャズを続けているのであった。

 このAさんが同性の筆者から見てもほれぼれするほどのしゃれ者である。顔かたちがそこまで秀でているわけではないのだが、服装が非常に洗練されていて、自分の素材の良さを120%引き出して伝えることに成功している。身につけるものはどれも流行に流されすぎず、個性が奇抜にならない形で主張されている。要するに「かっこいい男」なのである。

 さぞかしAさんはモテるのであろうと下世話な質問をすると、返事は「全然そんなことない」だった。

 そう答えることもこちらは織り込み済みである。「モテるでしょう?」と聞かれて「モテます」と宣言する人はよほどの自信家か、一周回って「事実モテるのだから今さら謙遜するのもなんだかいやらしい」いう考えに至った人で、どちらもかなりまれである。Aさんはモテる男の多くの例に漏れず謙遜をしているのだろうと思われた。

 しかし、Aさんと話していくうちにどうやらそれが謙遜ではなく、真実を伝えているらしいことがわかってきた。女性との交際経験は17歳、21歳のときにそれぞれ1回ずつ。女性経験は21歳の彼女のみであった。

“モテる=経験人数が多い”では必ずしもないので、筆者は「それでも言い寄ってくる女性は多いのではないか」と食い下がった。しかし「本当にそんなことないですよ」とAさん。

 その後Aさんをしばらく観察しているうちに1つのことに思い当たった。Aさんは女性に対してかなり強烈な「壁」を作って接しているのだった。Aさんがいかにイケメンであろうと、これでは並大抵の女性は近づけまいということが察せられた。

 そんな自分をAさんはやや歯がゆく、同時に仕方なく思っているようである。

「前に付き合っていた彼女との思い出があまりよくなくて、それ以来女性不信気味です。付き合ったり関係を持ったりするといろいろ面倒出てきますし、自分の生活で手いっぱいですから女性は後回しでいいかなと」(Aさん)

 性欲はどうなっているのか。

「あまりないですねー。ないこともないけど、普通に我慢できるレベルです」

 性に奔放な男性は、女性と関係を持つことに付随する煩わしさを「おおむね無視することができる」タイプか「煩わしさを上回る性欲に突き動かされている」タイプの2パターンに分けられる。異性に対して真摯な男性は「煩わしさを上回るリターンが相手から得られる」ことを知っている。人間関係は得てして煩わしくも同時に希求されるものだからである。

 Aさんのような厭世(えんせい)の気がある人はとにかく煩わしさを敬遠したい。性欲や寂しさへの焦燥感が煩わしさを上回ることはなく、Aさんの場合は結果として粛々と、ジャズの道を極めんとする年頃の青年たらしめているのであった。

人生の目標は「円満な家庭」
波乱の要素は必要なし

 Bさん(25歳男性)は22歳で初めて彼女ができた。その彼女と2年の交際を経て結婚。結婚前はお決まりのマリッジブルーに悩まされ、「まだ一人としか付き合ってない。女性もよく知らないのに本当にここで人生を決めてしまっていいのか」と懊悩したが、現在は夫婦仲よろしくやっているそうである。

 晩婚化が進み初婚平均年齢が男女ともに30歳近くとなっている現代日本ではかなり若くしての結婚である。Bさんが当時悩んだのもうなずける。まだ結婚を焦らなくても猶予はたっぷり残されていたのかもしれない。

 実際に結婚生活がスタートしてBさんのマリッジブルーは収まった。覚悟が決まったからだが、Bさんは以下のように考えたそうである。

「自分の人生の最大の目標を考えた時、それが『円満な家庭を築く』だった。結婚を悩んだのは『もっと遊んでいたい』というよりか、『他の女性との相性も試してみたい』という気持ちが強かったから。

 けれども今の妻と“結婚”という話まで進んだのだから結局相性はよかったのだろうと思い直した」(Bさん)

>>(下)に続く

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