女性アイドルを応援する女性に比べ、男性アイドルを応援する男性はレアという印象がある。実際、数は少ないが、男性アイドルを応援する男性は確かに存在している。

一体、どのような気持ちで応援するのか。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)

同性アイドルを応援する心理
「いいものはいい」という姿勢

 アイドルにつくのは基本的に異性のファンである。これは“一般常識”と呼ぶまでもない事実であるが、中には同性のアイドルを応援するファンももちろん存在する。AKBグループやハロープロジェクト(ハロプロ)に女性ファンが多いのは周知の事実だろう。だが一方で、男性アイドルを応援する男性の存在は、あまり知られていない。

 筆者の知り合いの、ある男性アイドルグループの追っかけをしているAさん(30歳女性・既婚)に聞けば「ライブ会場で男性のファンも結構見かける」そうである。男性が男性のアイドルを応援するその心理とはなんなのか。

 そもそも男性が男性アイドルを応援しない理由を推察すれば、それらしい理由がいくつか容易に浮かんでくる。

 まず「女性が好きなのに、男性アイドルをなぜわざわざ好きにならなければならないのか」というもの。次に「たくさんの女性にちやほやされやがって、気に入らねえ。金輪際応援なんかしたくない」という嫉妬。他には「男は硬派なのがかっこいい。

アイドルってなんか軟派っぽい」といった理由も考えられる。

 しかしこれらの理由を押して男性アイドルを男性が応援することは当然あり得るわけで、Aさんの目撃情報がその事実を物語っている。

 面白い現象というかムーブメントがあって、ネットニュースに詳しい方ならご存じかもしれない。

 人気男性アイドルグループ「DA PUMP」が「U.S.A.」という楽曲をリリースしてヒットとなった。この曲はストレートにかっこいいのではなく、全てにわたってものすごく“ダサい”のだが、そのダサさが振り切っていて潔く、インパクト甚だしく、1周回って非常に“かっこいい”のである。筆者も街中でこの曲を初めて聴いた時は大変な衝撃を受けた。

 面白いのは、この曲を気に入ったハロプロファンが独自にコール(オタ芸の一種で、曲中にそろった掛け声を絶叫すること)を考えて、DA PUMPのライブに参加し会場を盛り上げたことだ。

 ハロプロといえば「モーニング娘。」に代表される、女性アイドルの一群である。当然男性ファンが多く、普段は男性アイドルに見向きもしないはずであった。しかし楽曲「U.S.A.」が持つエネルギーや、曲調がハロプロのある曲に似ていたこともあったようだが、いくつかの点がハロプロファンに刺さって、上記のムーブメントにつながったのであった。

「いいものはいい」と性別に関係なく認める姿勢があれば、たとえ女性アイドルのファンであっても、「男性アイドルを好きにならない理由」を考える前に、男性アイドルを応援しうるのであることが「U.S.A.」の一件からうかがえる。

 本稿では男性アイドルを応援する男性たちの声を紹介したい。

妻の影響でファンになった夫
推しメンが「かわいい」

 男性アイドルのライブ会場の様子を伝えてくれたAさんだが、彼女が“同好の士”として仲良くなったBさん(33歳女性・既婚)は「夫が大ファンになってくれた」と語る。

「夫は私が昔からそのグループのファンだったのは知っていて、特に話題にもしませんでした。私が『ライブに行く』というと『楽しんできて』と言うくらいで。

 結婚して一緒に住むようになり、よく私がライブ映像を見ていると夫は『また見てるの?』と苦笑していて、せっかくだから共有できたら楽しいと思って、初めて『一緒に見よう』とせがんだんです。断られましたがしつこく頼むと、『仕方ない』と折れてくれました。

 一通り見終わって感想を聞くと『想像していたより全然悪くなかった』と言っていました。

 それから一緒にライブ映像を見るようになって、どんどんハマって、今では私と一緒にライブに足を運ぶくらいの立派なファンに成長しました(笑)」(Bさん)

 この話を聞いてAさんは「うちも夫に試みたけど全然だめだった」とうらやましがった。

 Bさんの夫は男性アイドルのどこがよかったのであろうか。

「あとで話を聞くと、初めて見たライブ映像の中に気に入った曲があったみたいです。きっかけはそれですが、今は推しメンがいて『顔と動きがかわいい』と言っています。同性愛的な意味ではなくて、愛玩動物に向けるような?ニュアンスというか。年下のがんばってる男の子を応援したい気持ちが強いみたいです」

 AさんはBさんをうらやんでいる。

「私も夫を巻き込もうと思って試みたんですけど、『なんで俺が男性アイドルの映像なんか見なきゃいけないの』と拒否されました。夫は、私がファンとして応援している分には『好きなだけ楽しんで』というスタンスですが、自分が巻き込まれるのは嫌みたいです」(Aさん)

>>(下)に続く

編集部おすすめ