国内鉄鋼最大手の新日本製鐵と3位の住友金属工業が、2012年10月の合併に向けて動き始めた。成長著しい新興国の鉄鋼メーカーに押される国内鉄鋼業界だが、合併で世界トップグループ入りを目指す。
JFEホールディングスの統合発表から約10 年。グローバル競争を見据え、再び再編機運が高まり始めた。
「名実共に世界トップクラスの総合鉄鋼メーカーを目指す」(宗岡正二・新日本製鐵社長)
両社が合併を検討し始めたのは昨年末のこと。「どちらからともなく始まった」(両社長)という交渉は、わずか1ヵ月で合意に至った。
事前に情報が漏れることを恐れ、社内は箝口令が敷かれた。ある有力OBが合併計画を知ったのは、会見の前日のことだった。
それもそのはずである。後述するように、今回のような独占禁止法上の問題が生じうる大型合併のケースでは通常、公正取引委員会への事前相談を行うことが多い。そこで独禁法上の問題をクリアしたうえで、法定手続きによる合併審査の届け出を行う。
だが、そのためには多くの時間と労力が必要で、その揚げ句、承認されないケースも少なくない。新興国の鉄鋼メーカーが急成長するなか、スピードの遅れは命取りにもなりかねない。
それゆえ、両社は法定手続きの一本勝負でいくことを決めた。
その裏には、事前相談ではなく、平場の議論によって、合併の正当性を問うとの狙いが込められている。
会見同日、三村明夫・新日鉄会長と下妻博・住友金属工業会長は枝野幸男官房長官に趣旨を説明。翌4日には両社長が竹島一彦・公取委員長を訪れ、理解を求めた。
また、国内企業の再編・統合で国際競争力を強化したい経済産業省では、海江田万里大臣が「日本企業が国際競争にさらされるなか、公取のあり方を議論していきたい」と、“援護射撃”をした。
日本経済が閉塞するなか、「グローバル競争に挑むための合併」という“錦の御旗”に、政財界では歓迎する向きが多い。
両社が合併に踏み切った背景には、経営環境の大きな変化がある。
一つ目は新興国市場における競争の熾烈化だ。中国、韓国、インドなどの鉄鋼メーカーが急速に台頭しており、今では世界トップ10の半数を中国企業が占める(表参照)。また、円高の進展によって日本企業の輸出競争力は大きく低下している。
二つ目は主要顧客である自動車メーカーなどが生産拠点を海外にシフトしたことだ。鋼材も現地調達へ切り替えが進んでおり、国内鉄鋼需要はじり貧をたどっている。
三つ目は原料価格の高騰だ。
鉄鋼各社は鉱山権益を取得することで、価格が高騰しても鉱山からの配当益で相殺するというリスクヘッジができる。だが、権益取得には巨額の投資が必要となる。
今後、統合への第一関門は公取委の審査である。
合併の届け出が受理されれば、30日以内に審査の結論が出る。問題がある場合は追加資料の提出を求められ、その後、90日以内に再審査の結果が通知される。独禁法に抵触する場合、一部製品の事業譲渡などの対応を迫られる。
両社で粗鋼生産量の国内シェアは約4割に上る。なかでも、河川の護岸工事などに使う鋼矢板(こうやいた)のシェアは約7割に上るため、問題になる可能性がある。代替製品の有無、輸入製品が入る余地などを含めて公取委がどう判断するかがポイントとなる。
ちなみに、住金の持ち分法適用会社である電炉大手の共英製鋼は2009年3月、東京鐵鋼との経営統合の基本合意を発表したものの、一部建材の国内シェアが8割に達することがネックとなり、半年後には統合を断念している。
こうした公取委の対応に、鉄鋼業界では「公取委は木(国内シェア)を見て森(世界シェア)を見ない」(鉄鋼メーカー首脳)との不満もくすぶる。
(下)に続く
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