『週刊ダイヤモンド』7月20日号の第1特集は「三菱・三井・住友~財閥グループの真実~」です。戦後の経済復興の原動力となった財閥企業グループ。

とりわけ三菱は、三井・住友と比べても求心力が強いことで知られるが、近年、三菱中核企業である御三家を筆頭に、「鉄の結束」が崩れ始めている。

 今年2月、カルロス・ゴーン氏の後任としてジャンドミニク・スナール・ルノー会長が初来日した。

 ゴーン氏が逮捕されて以降、日産自動車とルノーの確執は深まるばかりで、権力闘争が収まる気配はない。そんな状況での来日だっただけに、スナール氏の一挙手一投足に注目が集まっていた。

 業界関係者の臆測を呼んだのは、日産、ルノーと提携関係にある三菱自動車の益子修会長とスナール氏との会談だ。グループ重鎮である「御三家」(三菱商事三菱重工業、三菱UFJ銀行)の首脳陣が同席していたからだ。

 日産とルノーのバトルに翻弄され続ける三菱自動車。過去には、2004年のリコール隠し発覚後に御三家から金融支援を受けた。今回の有事においても、三菱グループが何らかのサポートを買って出るのでは──。

 だが、実際には“御三家出動”は実現していない。それどころか、グループの問題事案の対応策では、ことごとく御三家の足並みが揃っていない。

 それが最も顕著に現れたと言えるのが、三菱スペースジェット、千代田化工建設、三菱自動車、三菱マテリアルの四大事案である(図版(1))。

事業のことは話さない
金曜会の議題とは

 三菱グループには、「組織の三菱」を支えてきたヒエラルキーと裏序列が存在する(図版(2))。

 三菱グループの頂点に立つ御三家、金曜会の上部組織の役割を果たす「世話人会」、グループの主要27社の会長、社長で構成される「金曜会」の順に暗黙の序列が定まっているのだ。

 これまで、グループの重要事案については、御三家を含む世話人会メンバーが事前協議で根回しを済ませた後に、金曜会で最終決定を行うこともあった。

 公式見解では「親睦団体」であるはずの金曜会が、「最高決定機関」と呼ばれるのはそのためだ。

 三菱ヒエラルキーの頂点に立つ御三家の不協和音は、「鉄の結束」を誇ってきた三菱グループの求心力をそぐことになりかねない。三菱グループは瓦解に向けて、歩を進めているようだ。

 6月14日金曜日正午。東京・丸の内にある三菱商事本社ビルの21階に、三菱グループ首脳が集結した。月に1回の定例の金曜会が開催されたのだ。

 最近は、どんな議題が提起されているのだろうか。金曜会に参加したある首脳に聞いてみた。

「事業のことはまったく話さないです。

ただし、中国で三菱のフェイク製品が大量に出回ったとか、三菱ブランドを毀損する商標に関わる話はしています」

 確かに、スリーダイヤのブランド維持は重要な議題ではあるが、最高決定機関と呼ばれる組織にしては、いささか議題が平和過ぎるだろう。

「英国のEU離脱など国際情勢については話します。それから、優秀な若手を発掘するとか、教育問題に関わる財団をつくる話をしていますね。要するに、カネ集めの話です」と首脳は続ける。

 実は、来年20年は岩崎弥太郎が海運事業を起こしてから150年という節目の年だ。創業150周年記念事業として、新たに教育財団をつくろうとしているのだ。

 かつて100周年を迎える前にも、学術研究や奨学金、社会福祉を目的とした三菱財団が設立されており、会員企業には相応の資金拠出が求められそうだ。

 いずれにせよ、昨今の金曜会は、名実共に「親睦団体」に成り下がってしまったのかもしれない。

重工失速で「商事1強」に
崩れた御三家の均衡

 なぜ、「鉄の結束」は崩れたのか。

 まず、業績の明暗が御三家の均衡を破ってしまった。実は、三菱グループのみならず、そのグループの中核をなす御三家にも序列が存在する。近代日本の発展を支えた三菱重工が「長兄」であり、「次兄」に三菱商事、「三男坊」に三菱UFJ銀行と続くというものだ。

「出来のいい次兄に、長兄はいつも少し嫉妬している。三男坊は、そんな二人をそつなく見守るしっかり者です」(三菱グループ幹部)

 しかし、世界に冠たる企業と切った張ったを繰り広げるグローバル企業の三菱商事の存在感が増すにつれて、御三家には微妙な隙間風が吹くようになった。

 業績低迷が続いた三菱重工は、三菱自動車が優先株を普通株へ転換したあたりから、ビジネスに関係のないグループ企業と距離を置き始めている。

 実際に、三菱自動車への出向者数(16年5月→19年6月)で比べると、三菱商事33人→25人、三菱重工15人→5人。三菱重工は本業と無関係の企業を支援することはなくなりつつある。一方、「商事1強」という圧倒的なポジションを生かし、三菱商事は事業投資経営にまい進している。

 また、グループ内の暗黙の序列と、グループ企業の実力に齟齬があり“下克上”が起きている。例えば、三菱ケミカルホールディングスや三菱電機、キリンホールディングスなどは、序列こそ高くないが産業界での地位は高い。グループ内のおきてに従わずとも、自立してビジネスを展開できるので、グループの結束力に救いを求める必要がないのだ。

 結束力に陰りが見えているのは三菱だけではなく、三井や住友も同様である。戦後の日本を形作った財閥系グループは、このまま衰退してしまうのだろうか。

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