国家とは領土と国民があって成るもの。われわれ日本人の感覚からすれば、いかに窮すれどそう簡単にあげられるものではありません。

しかしながら、世界とは広いもので「カネさえ払えば市民権を交付する」としている国もあります。その国とは、セントクリストファー・ネイビス。かのコロンブスが1493年に発見し、自らの名に由来する「St.Christpher」と名付けたカリブ海の島国です。忙しい御仁はわざわざ同国に赴かなくとも、現地コンサルタント会社を通じて手続きできるということなのですが、はたして実態はどうなっているのか!? 海外投資の第一人者・木村昭二が現地へ飛んだ!

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基幹産業だった砂糖が儲からず撤退。
観光もパッとせず、残された道は…

 セントクリストファー・ネイビスは、西インド諸島の北部に位置しています。プエルトリコから362キロ、マイアミから1931キロも離れているので、行くのも大変。日本からだと米国へ飛んで、ニューヨークでまず一泊。そこからプエルトリコのサンフアンを経由して、6時間ほどかかりました。

 人口は5万2402人(2010年統計)、セントクリストファー島とネイビス島を合わせた面積262平方キロメートルは、沖縄県西表島と同程度です。長らく英国とフランスが奪い合い、英国の植民地統治下でしたが1983年に独立。

 伝統的に砂糖を柱とした農業国だったのですが、利益が出なくなって、2005年に生産を停止しました。その後は観光に生き残りをかけますが、地理的な限界もあり、どんどん債務が膨らんでいったようです。

 2009年にはついに国家債務がジンバブエ、日本に次ぐ世界3位となり、ますます先が見えなくなりました。そんな中、同国が期待を掛けたのが1984年から30年近くにわたって実施している「投資による市民権付与制度」でした。

 通常、国の市民権を得るには、所得やら滞在期間に条件があり、さらに煩雑な手続きや役人による面接など、実にうるさいあれやこれやをクリアしなければならないものです。

 しかし、同国の市民権を得るのは実に簡単。政府公認の不動産(40万ドル以上)を購入するか、砂糖産業多様化基金(SIDF)に申請者1人なら25万ドル、家族割(配偶者と子ども2人)なら30万ドルを寄付すればOKというものです。

 不動産投資より10万~15万ドル安いとは言え、まるまる「砂糖なんちゃら基金」(終わった砂糖から他産業への移行を模索するための基金)に寄付するよりは、コンドミニアム購入を選ぶ人が圧倒的に多いとのこと。そりゃ、そうですよね。

市民権を得るには不動産を買うこと
ただし“ぼったくり物件”多し!

 現地不動産会社で調べると、単身者向きのコンドミニアムが1ベッドルーム(面積74平方メートル)で、39万50000ドル(約3240万円)。小家族向けの2ベッドルーム(面積146平方メートル)で、74万5000ドル(約6120万円)など。

 このような僻地で、世界的相場感覚からするとかなりのぼったくりですが、価格設定から明らかに「市民権取得用物件」とわかります。政府にしてみれば市民権をエサに、割高の不動産をどんどん外国人に買ってもらいたいのでしょう。

 海は綺麗で治安もよいのですが、数日も滞在したら飽きてしまいそうです。

釣りとダイビング以外にさしたる娯楽があるわけでもなく、メインストリートには昼間から職にあぶれた現地人がビール片手に行ったり来たりしているばかり。「ほんとにこんなとこに喜んで移住する人がいるんかいな」という印象です。

セントクリストファー・ネイビスの
市民権を得るメリットは何か?

 もちろん、多くの移住者には他の目当てがあります。本連載読者なら薄々勘付いておられるかもしれませんが、セントクリストファー・ネイビスは、所得税や相続税がない「完全無税タックスヘイブン」に該当するのです。1年以内の国内資産の売却を除けば譲渡税もなく、法人税も国内法人に対しては35%と低め(輸入税、印紙税、源泉税はあります)です。

 さらに、同国のパスポートを所有していれば、世界125 カ国以上の国々にビザなしで渡航でき、カリブ共同体CARICOM加盟国に無制限に滞在することも可能になります(ちなみに、日本のパスポートでビザなしで渡航できる国は、世界154カ国です)。そのため、出身国によっては、同国の市民権を得ることにメリットを感じる人もいるようです。

 現地コンサルタント会社によると、同プログラムで国籍を取得しようとするのは、米国人、英国人、中国人が多いとのこと。「日本人もいる」と言っていましたが、真偽のほどは定かではありません。

 それにしても30万ドルといえば、約2470万円です。老後資金がいかほどあるかにもよりますが、ややお高いと言わざるを得ません。え? もっと安く国籍が買える国はないのかって?

 実は、あります。

申請者本人が現地に行っていただく必要はありますが、同じカリブ海の某小国なら、XX万ドルから市民権が買えてしまいます。が、そろそろ字数が尽きそうです。某国の調査結果はまた次の機会に。お楽しみに!!

(構成/渡辺一朗)


<取材・執筆>
木村昭二(きむら・しょうじ)
慶應義塾大学卒業。複数の金融機関、シンクタンク等を経て現在はPT(終身旅行者)研究家、フロンティアマーケット(新興国市場)研究家として調査・研究業務に従事。日本におけるPT研究の第一人者。最新刊『終身旅行者PT資産運用、ビジネス、居住国分散―国家の歩き方 徹底ガイド』(パンローリング)好評発売中!

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