フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さん。
「あせらない」「あきらめない」「あたまにこない」「あてにしない」「あまやかさない」はフィリピン人と付き合っていく上で大切なのは五つの「あ…ない」だ。
これは先達の名言だが、ここではそれに加えて、さらに五つの「あ……」を紹介したい。
なにか頼むといつでも答えは「あとで(ママヤ)」。忙しいわけでもないのになぜ「あと回し」なのか理解に苦しむ。
いつやるのかと思ってみていると、いつまでもやらない。それで催促すると、また「あとで(ママヤ)」と同じ答が返ってくる。「なぜやらないのか」と責めると、「しつこい(マコリット・カ)」と逆襲される。
期限ぎりぎりになってあわてて始めるが、もはや手遅れとなっていることが多々ある。あるいは、いつまでもやらないので、しかたがないからこっちが自分でやってしまう。敵はきっと、「はじめから自分でやればいいのに」と思っているのだろう。
遅れてきたり、忘れたり、何か失敗をしでかしても、それがはじめから必然であって自分に責任はない、という「あと訳(あとからするとってつけたような言い訳)」をする。
書類を日本に送ってもらおうと、タイプした日本の住所を渡して郵便局に行かせたら、戻って来た伝票の住所が違う。町名が抜けていたのだ。こんなときも、「住所が長すぎるので落ちてしまった、郵便番号があるから問題ない」と、それがミスだとはけっして認めようとしない。
たしかに書類は届いたからよかったものの、送り先不明で戻ってきたらとんでもない費用と時間のロスだ。ちなみに日本へのEMS(国際スピード郵便)の料金は717ペソ(約1800円)で、彼らの2日分の給与に匹敵するのだ。3.あと払い(ウタン)
サリサリ(ストア)やトロトロ(食堂)では「付け売り」が一般的だが、個人間の取引も、その場で現金で支払うことはほとんどなく「あと払い(ウタン)」が当たり前だ。
お金を貸したらまず戻ってこないと思ったほうがよいが、この「あと払い」も踏み倒されてしまうことが多い。
「こんな商売をやったら儲かる」「農地を買ってこんな作物をつくると儲かるから、まず金を出してくれ」などと、儲けは「あとで払う」と、数万円から数十万円の出資を持ちかけられた経験をお持ちの方も多いと思う。実際に出資金の配当あるいは返済をしてもらった人は果たして何人いるだろう。
「くれ」というのは恥ずかしいから「貸してくれ」あるいは「出資してくれ」というが、実際はもらったものと思っていて、それによって自分たちの生活の足しにしようとしているだけなのだ。彼らにしてみれば、「本当に戻ると思っていたのか」と心の中で呆れているのだろうが。
フィリピン人の時間のルーズさにほとんどの人は頭に来た経験があるだろう。
そしてすぐ近くに来ているはずなのにさらに30分も現われない。歩いても10~20分くらいのところを、なぜ30分もかかるのだ。
この「あと少し」をけっして信じてはいけない。いつかそのうち来るだろうと、マイペースで他の事をしながら気長に待つか、自分も遅れていくことだ。5.あと片付けをしない
事務所や部屋をフィリピーノが使ったらすぐにわかる。なぜなら、パソコンを使っても「あと片付けをしない」ので、いろいろな設定を自分でやり直さなければならないのだ。
他人のものを使ったのだから「元に戻しておこう」とはけっして思わない。「やったらやりっぱなし」が、フィリピン流だ。
これを責めると、やはり「マコリット・カ(しつこ)」と逆襲される。「お前は親切心で貸してくれたんだろ。だったらついでに、元へ戻すくらいのことは自分でやれよ」と。
フィリピン人の心は奥が深くて理解するまで数十年の月日を要するようだが、われわれ日本人にとってネガティブな面ばかりではない。愛すべきフィリピーノをだいぶこき下ろしたので、最後に、フィリピーノの心に宿る、日本人にはもはや失われた「五つの愛」を紹介する。
1) 切っても切れない家族の深い絆、家族愛
2) お年寄りと赤ちゃんを心から愛し、大事にする、弱者への愛
3) 自分の食べ物がなくてもご馳走で人をもてなす心、隣人への愛
4) その日、家族一同が食事をできたというだけで幸せを感じる感謝の気持ち、神への愛
5) 男女の愛に年齢は関係ないという、純粋な愛(ただし、女性が大幅に年上の場合は道徳に反するとされる)
(文・撮影/志賀和民)