日本で15年間の編集者生活を送った後、ベトナムに渡って起業した中安さん。今回はバイク社会ベトナムでの、中安さんの免許証取得体験記です。
長らくベトナムで無免許運転状態が続いていた私も、実は去年、ようやく運転免許を手にした。
それ以前にも、免許を取ろうとしたことは、何度もある。旅行者として通っていたときはともかく、2002年、ホーチミン市に移住してきたときは、さすがに免許を取らないとマズイだろうと思った。
ところが、同じ職場で働くベトナム人に、相談したところ、いきなり、
「どうして免許が欲しいんですか?」
という答が返って来た。
「どうしてって、こちらでバイクに乗るから、免許が必要だろうと思って……」
「そんなの、要らないですよ。僕だって持っていません」
と言われたのである。
このとき、周囲にいたベトナム人にも聞いてみた。すると、彼以外にもバイクをいつも運転しているのに、免許を持っていない人が何人かいたのだ。
「そういうものなのか」
と出鼻をくじかれた感じだった。
しばらくして「やっぱり免許を持とう」と思ったときは、日本の運転免許が失効していることに気がついた。仕事では、年に何回も東京に出張するのだが、私の実家は大阪。ついでにちょっと寄れる距離ではない。
私用で帰国するという機会は、3年に1回程度である。そんなこんなで、延び延びになってしまっていた。すべては「言い訳」に過ぎないのだが。ステップ1:運転免許試験場で申請用紙をもらう
しかし「それではいかん」と、日本での免許を更新後、手続きをすることにした。
私は日本でも自動車と自動二輪の免許を持っており、それがあれば、ベトナムで運転免許試験を受けずとも、ベトナムの免許は簡単に取得できるのだ。手続きは、いろんな出版物やウェブサイトに掲載されている。それに従えば問題ない、はずである。
まず、ホーチミン市3区リーチンタン通り252番地にある運転免許試験場に申請用紙をもらいに行った。ちなみに2013年12月2日以降規則が変わり、、外国人の運転免許の書き換えができるのは、ホーチミン市内ではここのみである。
英語の案内はほとんどなく、入口付近でうろうろしていると、赤いアオババ(パジャマのような普段着)を来たおばちゃんが近づいて来た。小さな手押し車には、何種類かの書類が載せてある。
「これが欲しいんだろう?」
と手渡された書類には、「Application form for exchanging of driving licence」と英文で書いてある。
「そうそう、これが欲しいんです。ありがとう!」
と言ってその場を離れようとすると、
「ちょっと、お兄さん、2000ドン(約10円)だよ!」
と呼び止められた。
申請書は無料でもらえるはず。せっかくもらった申請書をおばちゃんに返して、建物の中に入り、事務机に座っているおじさんに、日本の免許証を見せる。意味が通じたらしく、すぐに申請書を出してくれた。こちらは無料。
申請書は、ベトナム語と英語併記で、そこには必要な書類の一覧も書いてある。以下の通りだ。
・3センチ×4センチのカラー写真が3枚
・現在所持している外国の運転免許証のコピー
・上記、運転免許証の公証された翻訳
・パスポートのコピー1通。滞在ヴィザと姓名が記載されているページ
ところで、無料の申請書を2000ドン(約10円)で売っていたあのおばちゃん、「あれで商売になるのだろうか」と思ったが、後で考えてみると、もしかしたら需要があるのかもしれない。
というのも、おばちゃんは建物の外にいるので、申請書をもらうだけなら、いちいちバイクを駐輪場に停めることなく、バイクに乗ったまま、おばちゃんに2000ドン(約10円)払って受け取ることができる。バイクの駐輪場代は4000ドン(約20円)。
ここで出てくる「公証」というのは、多くの人にとっては聞き慣れない言葉だろう。「公証」の法律上の定義について、正確に知りたい方は各自調べていただくとして、私は国際結婚の書類を公証してもらうときに、以下のような説明を担当の方から聞いた。
「日本政府が発行した書類は、そのままでは、ベトナム国内では法的効力を有しません。その書類が、ベトナムでも法律的効力を持つようにするのが、公証なんですよ」
私にとっては、非常に分かりやすい説明だった。
そんな理屈は分からなくても、運転免許取得に支障はない。翻訳と公証は、ホーチミン市1区の人民委員会に行けばすべて一度にやってくれるからだ。「人民委員会」は、区役所みたいなものだと思えばいい。場所はレユアン通り47番地。聖母マリア大聖堂のすぐ近くだ。
人民委員会の1階のいちばん奥にある9番の窓口が翻訳受付だった。日本の免許証は、両面のコピーが3通必要。
公証翻訳の受付窓口にいるハノイ方言の女性は、片言の英語を話せた。外国人との対応が多いからだろう。免許証のコピーを渡し、公証翻訳の代金11万ドン(約550円)を払うと引換券をくれる。そこには5日後の日付が書かれていた。
運転免許の書き換え手続きの中で、唯一、ちょっとだけ面倒だったのが、この公証翻訳のプロセスだった。ステップ3:お金を払い写真を撮って、あとは待つだけ
指定された日時に区役所で公証翻訳を受け取ると、その足で運転免許試験場に向かった。前回、無料で申請書をくれたオジサンに書類を見せると、階段を指差しながら「窓口は2階だよ。メガネをかけた男の人がいるから、その人に渡すといいよ」と教えてくれた。
2階に行くと窓口がずらっと並んでいる。
後は彼に指示されるままに、動けば良かった。いちばん奥の窓口に行って13万5000ドン(約700円)を支払う。これが書き換え手数料らしい。続いて写真撮影。このあたりは日本と同じだ。撮影が終わると、メガネのオジサンから日時が記載された引換券を渡される。10日後、再び運転免許試験場におもむき、1階の窓口に引換券を出すと、その場ですぐに免許証を渡してくれた。
日本人の免許の書き換え手続きを代行する業者もいて、私も試験場で代行業者さんを2社見かけた。試験場の係の人はベトナム語しか話さなかったが、そんなに複雑なことをするわけではない。ベトナム語が分からなくても、何も問題はないだろう。意外と愛想がよく親切だ。
こうして晴れて私も運転免許証を取得することができた。ベトナムの免許は、主要なものとしては、4つの種別がある。
A1 :175ccまでのバイクが運転できる。
A2 :排気量に制限がなくバイクの運転ができる。
B1 :普通自動車(乗車定員9人、3500kgまで)が運転できる。
B2 :B1の車種を業務として運転できる。
A2は日本でいうところの「限定解除」で、これまで警察や軍隊の人間にしか発給されていなかった。しかし2013年12月27日、一般人向けとしては初めてのA2免許試験が実施され、250人が受験し220人が合格したそうだ。B2は日本の二種免許に相当するものだろう。私が今回受け取った免許は、「A1、B2」という種別のものだ。
今回の免許証の書き換えにかかった費用は、公証翻訳代を入れて24万7000ドン(約1200円)。交通警察に検問で止められ、免許証を持っていないと、10万ドン(約500円)か20万ドン(約1000円)要求される。この金額でそれを払わなくて済むようになるのだから、お得だ。もちろん損得の問題ではないのだが。
免許証を取った直後は、交通警察官の前を通るときには、「止めてくれないかなあ」と思ったこともあるが、残念ながら一度も止められずに今まで来た。日本ではゴールド免許保持者だったので、ベトナムでも優良運転者を目指したいものである。
(文・撮影/中安昭人)