すでに「墓じまい」した人は、墓地継承者の5%を占める――。
墓じまいの実態について、初めて具体的な数値が明らかになった。
本調査報告書は日本人の弔いや葬送の実態、寺院環境などについて、詳細に明らかにしたものだ。全国の6192人を対象に、「菩提寺との関わり」「葬儀・法要」「お墓・納骨・移動」などのカテゴリごとに聞いている。調査母数の規模が大きく、「菩提寺のあり・なし」や「年代」に分けて分析しているため、より客観的で正確なデータが集まり、未来予測にも役立てることができる。
本稿では「葬儀」と「墓」についての調査結果を分析してみようと思う。
まず、希望する葬儀の規模感について。意外な結果がみられた。調査では主に「(友人・知人を含めた)一般葬」「(家族・親族のみの)家族葬」「一日葬」「直葬(火葬のみ)」の4つの葬儀形態のうち、どの葬儀を希望するかについて聞いている。(※註1)
※註1 本調査での設問「執り行いたい葬儀形式」では、回答のカテゴリを①「普通の葬式」②「一日の葬式」③「火葬のみ」の3つに分けている。①②はさらに「家族のみ」「家族・親族」「家族・親族・友人・知人」の3種類に分けた。
ここでは「家族の葬儀」の規模をどれくらいにしたいか、の結果を分析する。(※註2)
※註2 設問では「ご自身の葬儀」と「ご家族の葬儀」の2つに分けている。「自分の葬儀」は実際に自分自身で執り行うことができない上に、残された家族への配慮で、葬儀規模を縮小する傾向がみられるため、本稿では「ご家族の葬儀」のみ分析した。
全体では希望の多い順に、「家族葬」46.5%、「一日葬」26.2%、「直葬」15.3%、そして旧来からの方法である「一般葬」11.2%となった。このデータからは、依然として葬儀が縮小化傾向にあることを示している。
特筆すべきはコロナ禍前までは、ほとんど見られなかった「一日葬」の希望が、全葬儀の4分の1まで拡大していること。一日葬とは、本来、死後すぐに枕元で読経する「枕経」、さらに「通夜」、その翌日の「葬儀」、さらに「初七日」も含めて1日で済ませる簡素な葬式のことである。
また、「直葬」を希望する人の内訳としては「お坊さんを呼ばない直葬」が23.2%と、「お坊さんを呼ぶ直葬」4.3%を大きく上回っていた。
「一日葬」と、「僧侶を呼ばない直葬」の拡大は何を示唆しているか。これまで、葬儀では日本人の大多数が菩提寺の僧侶が導師を務め、「戒名」を授与し、「引導」を渡すなどの宗教儀式を重視していた。それが、形骸化し、「儀式は不要」と考える遺族が一定数、現れ始めたということだろう。
このように葬送は確実に希薄化しているが、調査結果には意外なものがあった。しっかりと故人を送りたいと考える人も一定数がおり、それが「若者」であったことだ。
■第3次ベビーブームの不発と墓じまいの関係
たとえば、祖父母や両親といった家族の葬儀の規模感について、「一般葬」あるいは「家族葬」を希望する割合は「菩提寺がない60代以上」は40.2%、「菩提寺がない40~50代」は50.1%だったのに対して、「菩提寺がない20~30代」では66.2%と、世代間でかなりの差が生まれていることがわかった。
世代が若くなるほど、祖父母や両親を丁寧に弔いたいという思いが強いことの表れであろう。逆に、高齢層ほど現実的・簡素な選択を志向する傾向が見られる。
この傾向は、葬儀後の四十九日、一周忌や七回忌といった法要についても同様の傾向がみられる。
「法要は必要ないと思うか」という選択肢に対し、肯定する傾向が高齢層になるほど高くなっている。「はい」と答えた割合が、「菩提寺がない60代以上」は38.4%、「菩提寺がない40~50代」は36.0%、「菩提寺がない20~30代」は31.9%となった。
ただ、現時点における若年世代の供養心の篤さが、彼らが中高年になっても維持されていく保証はない。家族関係が変化し、自身も年を重ねていく中で、弔いへのこだわりは徐々に薄れていくことが多いからだ。
次に「墓の移動について」をみていこう。つまりは、「墓じまい」に関する調査である。
墓を所有する人の中で「すでに墓じまいした」が5.3%という割合になった。また、今後墓じまいを視野に入れている割合(「移したい」「どちらかといえば移したい」の合計)は、16.0%となった。つまり、将来的に最大21.3%の墓が、消滅もしくは永代供養などに移動する可能性があるということになる。
「すでに墓じまいした」比率で最も高かったのが、「菩提寺がない、地方に居住の60代以上」で9.6%で、1割近くとなった。
一方で「墓じまいは考えていない(「移したくない」「どちらかといえば移したくない」の合計)」は47.5%だった。墓じまいをしたくない比率が高いのは、「菩提寺があり、都心に居住の60代以上」42.8%と「菩提寺があり、地方に居住の60代以上」47.5%、「菩提寺がない、地方に居住の60代以上」44.6%となった。
調査からは、高齢者ほど伝統への執着が強い一方、若年層や都市部居住者は利便性やアクセスを重視し、移動に積極的であることがわかった。
人口減少時代とはいえ、「墓じまい」を視野に入れている割合の多さには、率直に驚いた。かつて墓の建立数は、人口動態と連動してきた。兄弟の数に応じて、分家が生じるからだ。二男三男……がそれぞれのイエをもち、新しい墓を次々と建立していったのが高度成長期からバブル期にかけてである。
今ごろ、本来は第2次ベビーブーム(50代前半)世代による墓地建立ラッシュが置いていても不思議ではないが、あまりそういう話は聞かない。第3次ベビーブームが起こらず、仮に墓を建てたとしても、後世に継承できないからである。
■「千の風になる」風景が、今後全国に急拡大する可能性
5人に1人の割合で墓じまいを敢行すれば、葬送に関わる宗教界や墓石業、葬祭業などへの影響は必至である。特に墓檀家を抱える寺院は、墓地の管理費や法事の収入が大幅に減少するであろう。墓石業界では、旧来の家墓はすでに売れない時代に入っている。
鎌倉新書「お墓の消費者全国実態調査(2023年)」によれば、新たに購入した一般墓の割合は19.1%で、墓石をあまり必要としない樹木葬(永代供養)が51.8%と大きく水を開けられている。すでに現在、墓石店の多くで新規墓石建立の需要よりも、墓じまいの需要のほうが多くなる逆転現象がおきつつある。つまり、墓石店が実質「墓じまい店」になっているのだ。
寺院の場合、仮に檀家が墓じまいをしても、同じ寺院や霊園の中の永代供養に遺骨を移してもらえれば、経営面での影響は小さくて済む。だが、今回の調査では18.2%が「お墓は不要」と回答し、また、「散骨・海洋散骨など」を希望する割合も5.0%に及んでいる。
「墓はいらない」という意識の高まりは今後、火葬のあり方にも影響するであろう。多死社会による「火葬ラッシュ」が始まっている中、ゼロ葬(火葬場から遺骨を持って帰らない)の増加が想定される。また、一部で始まっている遺骨まで含めてすべてを焼き切ってしまう新たな火葬サービス「焼き切り」が一般化していく可能性すらありそうだ。焼き切りは、火葬炉の温度を高温に上げて遺骨として残さず、灰にすることだ。現在、ごく一部の火葬場で請け負っている。
かつて新井満氏が訳詩したヒット曲「千の風になって」は、死者が遺された人に語りかける形で、自分は墓の中ではなく、風や光、星、鳥などになって、大空から見守っているというメッセージが込められた。
遺骨を残さない時代――。まさにそんな「千の風になる」風景が、今後全国に急拡大するかもしれない。
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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)