今回から登場していただくのは、スポーツ小売業国内最大手のゼビオ株式会社代表取締役の諸橋友良氏だ。ゼビオ株式会社は、スポーツ小売業のスーパースポーツゼビオ(SSX)、ゴルフのヴィクトリアを中心に、M&Aや新業態を手掛けながら順調に事業拡大を続けている。

創業から50年を超え国内最大手に躍り出た。諸橋社長の考える「ビジネスモデル」とは何かについて話を聞いた。

スポーツを軸にして様々な業種や業務に参入する
それがスポーツコングロマリット構想

川上:ゼビオは、「スポーツコングロマリット構想」を掲げています。コングロマリットの本来の意味は、複合企業です。直接の関係を持たない多岐にわたる業種や業務に参入する企業体を意味しますが、諸橋さんの考える“スポーツコングロマリット”とは、どんな構想ですか?

諸橋:我々の事業は、スポーツ小売業にとどまらず、スポーツスクール、アイスホッケーのプロスポーツチーム運営、ドラッグストア、カジュアル衣料など多岐に渡ります。スポーツを軸にして、それに関する様々な業種や業務に参入する。

それを「スポーツコングロマリット」という言葉で表現しています。

スポーツ関連商品だけでは
スポーツの良さを価値提案できない

川上:連結売上高2000億円を達成し、まさに破竹の勢いで成長しています。なぜここまで事業拡大を図っているのですか?

諸橋:ゼビオの経営理念は、「こころを動かすスポーツ」です。単にモノを売る商売にとどまらず、「お客様の心を動かすために、スポーツの魅力と可能性を最大限に引き出すにはどうすればいいか」を考えたとき、その最適な方法が事業拡大でした。事業を拡大して、スポーツの価値をもっと提案していきたいと思ったんです。

川上:小売業だけで完結させず、その周辺事業も巻き込んで事業拡大を図っていますね。

グループ全体でスポーツを盛り上げようというお考えは、他の小売業にはない独自の事業スタイルだと思います。

諸橋:そうですね。こちらからスポーツの価値をお客様に提案するとき、スポーツ用具やウェアを売るだけでは、やっぱり不十分なんですよ。お客様はスポーツを「する」だけではなく、健康維持のためにドラッグストアでプロテインを「買う」こともあるし、好きなスポーツを「観戦する」こともあります。
 例えば「観る」に焦点を当てたら、アリーナの運営やスポーツチームのスポンサーなどでもスポーツの価値提案ができるはずです。こんなふうに考えて、事業を拡大してきました。

川上:なるほど。そのあたりは「ビジネスモデル」に通じる話だと思います。

日本のスポーツ業界は
お客様を楽しませようという発想が乏しい

川上:僕が考えるビジネスモデルの定義は「顧客に満足を、企業に利益をもたらす仕組み」ですが、それをゼビオに当てはめるとどうなりますか?

諸橋:そうですね…。「組織がベクトルを合わせてスポーツを産業化し、お客様に感動を与えていく仕組み」という感じになると思います。

川上:グループが同じ方向を向いて、初めてお客様を満足させられるということですか?

諸橋:そうですね。もう少し言えば、小売業を軸にその周辺事業も手がけていけば、スポーツが育ち、その定義を変えることができるかなと期待しているんです。


 例えば、日本ではアリーナ(競技場)1つ、スポーツチームの運営1つとってみても、観客を楽しませようというエンタメ性が低いと思います。日本のスポーツでは、選手と観客が一体となって楽しむ、共感するということが少ないのではないでしょうか。要は今のスポーツは、あらゆる側面で、まだまだお客様目線が乏しいのです。いまだに観客の飲食を禁ずるアリーナがたくさんあることが、それを物語っていますよね。

ゼビオの顧客価値とは、
お客様の「感動価値」

川上:今までのお話を聞いていて、ゼビオさんのハイブリッド・フレームについて考えてみました。ハイブリッド・フレームは、ビジネスモデルのキモとなる「儲かる仕組み」を「顧客価値」と「利益」の両方から思考していきます。

ゼビオの「顧客価値」と「利益」は図のようになります。

諸橋:誰に(上)、何を(中)、どのように提供するのか(下)という3つを、「顧客価値」と「利益」のそれぞれに対して投げかけるということですね。

川上:はい。たしかゼビオのミッションは「感動価値」でしたね。そうすると会社として考える「顧客価値」は、「お客様に感動を与えること」になりますね。スポーツをする側、観る側、あるいはスポーツ初心者に対して、スポーツのある生活をサポートし、従業員一人ひとりがお客様の感動価値を創造できるようなお手伝いをしていくということかと思います。


 一方、ビジネスモデルの場合は「顧客満足」だけでなく、きちんと「利益」も確保する必要があります。ゼビオの場合、「利益」の源泉は小売業です。その利益を元手に、スポーツチームの運営費などの資金に充てて、スポーツ産業全体を盛り上げていこうと考えていますよね。こう解釈しましたがどうですか?

お客様にとって最適な1品を提案したい

諸橋:合っていますよ。少し補足するなら、「利益」の源泉となる小売業にしても、単なるモノ売りに終始せず、お客様と長期的な関係性を築きながらスポーツ関連の商品やサービスを提供していきたいという思いがあるということです。

川上:そうですよね。だからゼビオの従業員は全員「スポーツナビゲーター」と呼ばれているんですよね。

諸橋:はい。この商品が安いから、流行っているからと安易にすすめるのではだめ。お客様のお話をお伺いした上で、その方にとって最適な1品を提案したいと思っているんです。お客様の人生の中のスポーツに関わる場面で、私たちがそっとプロデュースする。そんな感覚で従業員がお客様に向き合っています。

川上:小売業を軸にその周辺事業も手がけていると、お客様との接点が増えますね。ゼビオのドラッグストアでその存在を知り、その後、何か運動を始めようと思ったときにスポーツ用品店でウェアを揃え、スポーツスクールに通う……といった関わり方もできますね。

諸橋:そうなんです。知っていただく入口はどこでも構いません。大事なのは、お客様がゼビオを知ることで、よりスポーツを好きになってくれて、スポーツを楽しむ人が増えて、ひいてはスポーツ産業全体に活気が出ること。ゼビオはそこを目指しているし、それがお客様の感動にも結びついていくと思っています。(続く)

※次回は、12月1日(月)に掲載します。