その保険商品とは、「逆養老保険(逆ハーフタックス)」と呼ばれるもの。通常、会社が役員や従業員の福利厚生を目的として加入する養老保険は、死亡保険金の受取人を役員や従業員の遺族、満期保険金の受取人を会社にする。すると、会社が支払った保険料の半分が経費となり、損金計上できる。
逆ハーフタックスとは、まさに通常とは逆の掛け方をした保険で、死亡保険金の受取人を会社にし、満期保険金の受取人を役員や従業員にするというものだ。メリットは、保険料の全額を経費として損金計上できることにある。
ただし、あくまでこの手法は、税務上の規定がないということに依拠しているだけで、グレーゾーンとされている。
もっとも、今回の名古屋地検の告発は、このスキームにメスが入ったわけではない。契約者名義を社長に変更した後、解約返戻金を受け取るために保険を解約したにもかかわらず、所得として計上しなかったため脱税とされた格好だ。
プルデンシャルが注力ならば、逆ハーフタックスは安泰かというと、そうではない。
というのも、税務上の規定がないことから実務上は、「保険税務に精通した税理士などが関与しなければ、後に否認されることもある」(保険関係者)からだ。
ところが、だ。こうした法人向けの節税保険は過去に、商品を入れ替えながら中小企業に売りまくられてきたが、下の表にある通り、ことごとく税務当局に否認されてきた。
売っていたのは、日本生命保険やソニー生命保険、アイエヌジー生命保険、プルデンシャル生命保険といった、法人営業に力を入れている生保など。中でも、「このところ新契約の獲得が厳しいプルデンシャル生命が注力していた」と別の関係者は明かす。
問題なのは、きちんとした税務処理を行わないままに販売されてきたケースがあること。だが、この保険をめぐって複数の裁判が行われた上、2013年秋に名古屋の案件に強制捜査の手が伸び、各社は及び腰になった。ソニー生命は14年7月末で取り扱いをストップ、アイエヌジー生命も14年末に停止と続き、「ほとんどの生保が取り扱いをやめた」(同)という。
それだけではない。さらに法人向けの節税保険にとどめを刺す事態が同じ14日に起こった。「税制改正大綱」の閣議決定がそれで、要約すると、「保険契約の契約者変更があった場合、払込保険料等を記載すること」である。
これは、会社が保険料を払ってきた保険契約を社長名義に変更するというスキームに、メスが入ることを意味する。
というのも、名義変更してから受け取る解約返戻金は一時所得となり、これまで支払ってきた保険料は経費として差し引ける。だが、中には、会社が支払ってきた保険料を経費に含める事例が少なくないのだ。
今回の税制改正では、この名義変更にメスが入り、逆ハーフタックスと併せて、グレーゾーンが跋扈していた節税保険は、風前のともしびだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)