買収額は約1000億円の見通し。
しかし、ヤフーにとって今回のディールは、“おいしい”話だ。
まず、宿泊予約サイト「ヤフートラベル」は、「楽天トラベル」や「じゃらん」の後塵を拝している。一休は、こうした大衆向けサイトとは一線を画し、高級なホテルや旅館に特化して4期連続の増収増益と絶好調だ。
現在は1600軒の宿を掲載、会員数もプレミアム志向の顧客を中心に400万人を突破しているほどで、ヤフーにすれば喉から手が出るほど欲しい案件だった。
さらに、成長が期待されている飲食店予約サイトにも強みがある。
今、世界では飲食店のネット予約ビジネスが急成長しており、今後、日本でも本格化するとみられている。こうした分野でも一休は、「ぐるなび」「ホットペッパー」のような大人数の宴会向けではなく、記念日や接待などで使う高級店に特化し、差別化に成功している。
こうした伸びしろの多い一休を傘下に収めることで、「高級から一般向けまで、全てのセグメントで品ぞろえを充実させる」(宮坂学・ヤフー社長)。
そのためブランドは統合せず、それぞれのサイトは独立させたまま運営。ヤフーはビッグデータを駆使して一休の見込み客を見つけ出し、送客することでシナジーを高めていくとしている。
一休創業社長「男の引き際」だが、これほどの好調にもかかわらず、一休はなぜ今回の決断に至ったのか。
創業者で41%の株を保有する森正文社長は、「独自性を保ちながら、株式と経営、社員をヤフーという大きなフィールドに託せるなら、さらに大きく成長させられる。宮坂社長と何度も話すうちに、そう判断した」と語る。
森社長は、まだ宿泊予約サイトの黎明期だった2000年に一休を立ち上げ、外資系高級ホテルが次々と上陸した波に乗って事業を拡大。飲食店サイトもいち早く展開してきた先駆者だ。
そんな森社長は、TOB成立後に退任。その後も顧問や相談役など一切の役職に就かないという。
「ワンマンで有名な森社長が、こうした決断を下すなんて」(同業他社の幹部)。今回の買収劇に、業界関係者は皆一様に驚いている。
しかし、森社長は変化の激しいネットビジネスで勝ち抜いてきたからこそ、「自身の引き際にも敏感になれた」との見方がある。
「若い人材がスピード感を持ってやらないと駄目」と語る森社長。今回の買収劇は、創業者の事業継承と、世代交代の意味も大きかったようだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)