『週刊ダイヤモンド』6月25日号の第1特集は、「創価学会と共産党 激変する巨大組織のカネ・人・出世」です。与野党それぞれのキャスティングボートを握る二大組織として、創価学会と日本共産党にスポットライトが当たっています。

片や永田町で隠然たる影響力を発揮し、片や参院選での躍進が期待される。いずれも存在感を増しているようだが、組織内部に目を向けると、さまざまな“病魔”にむしばまれていました。二つの巨大組織の知られざる内幕を重層解剖しました。

 手元に1枚の資料がある。創価学会本部の事務組織が記されている。学会が公表している組織図は、「男子部」「婦人部」といった一般の学会員が属する組織の位置付けを示したもので、本部の事務組織図が表に出ることはない。学会ウォッチャーでも事務組織図を知る人は少ない。

 その事務組織図には、企業のそれではあまり見ることのない部署名が並んでいた。

 名誉会長の黒子役として動くエリート側近部隊の「第1庶務局」、学会員向けに名誉会長のメッセージを伝える「会員奉仕局」、日蓮正宗など他宗教との闘争を指揮する「広宣局」──。そのいずれもが、公称827万世帯という巨大組織のかじ取りを担う中枢部門だ。

 最近、この本部中枢に異変があった。

「国際局」「国際広報局」「翻訳局」を統括していた「国際室」が「国際総局」に改称されたのだ。

傘下には新たに「平和運動局」などの部署も増え、事実上の国際部門の格上げといえる。

 こうした国際部門の組織拡充は、谷川佳樹事務総長ら執行部主流派が進めようとしている、「歴史的転換」の布石として読み解けばふに落ちる。この意味を理解するには、まずは学会を取り巻く環境変化を理解する必要があろう。

国内低迷と海外躍進
学会のジレンマは日本企業と重なる

 日本国内は人口減少社会に突入し、創価学会をはじめとした多くの宗教団体は今、信者数の伸び悩みと少子高齢化という共通課題を抱えている。

 その波は学会にも容赦なく押し寄せている。もともと学会は高齢者が多く、若年層が少ない逆ピラミッド型の会員構成とされる。組織内部の高齢化が進み、新規入会者も頭打ちとなれば、組織の活力低下は避けられない。

 一方で海外に目を向けると、事情は全く異なる。

 昨年にはイタリアSGIが、イタリア政府と宗教協約(インテーサ)を結び、現地においてさまざまな特権が認められるようになった。「インドでも昨年だけで青年層が劇的に伸びている」(学会幹部)。学会本部によれば、海外の会員数は約175万人に達する。

 国内の低迷と海外の躍進──。

今の学会のジレンマは、2000年以降に頭打ちの国内に見切りをつけ、海外進出を加速させてきた日本企業のそれと重なる。

 こうした日本企業には、進出先の国々で幾つもの壁が立ちはだかった。その一つが意識の差などからくる本部と現地との摩擦だ。

 現地に派遣された駐在員が現場の意見を無視して、本部の意向ばかりを忖度した結果、海外事業が失敗した企業の事例は枚挙にいとまがない。

 すでに同じことが創価学会インタナショナル(SGI)でも起こっているのかもしれない。

 SGIの事情に詳しい学会関係者は、「欧州のトップに学会本部から派遣された人が就き、和気あいあいとしていた組織を、日本的組織にしようとしている」との見方を示した。

 海外には、日本の学会本部のこうした方針に同調しないSGI幹部もいて、「もし名誉会長がいなくなってしまったら、海外のSGIが暴走して、歯止めが利かなくなるリスクがある。その前に手を打たなければ……」。本部中堅幹部は危機感を募らせている。

突然の教義変更
その真の狙いは学会の「世界宗教化」

 そんな中で、執行部主流派がひそかに進めていたのが、「日蓮世界宗」の立ち上げと、その会則に相当する「会憲」の制定だとされる。

 日蓮世界宗のトップに就くのはもちろん日本の創価学会会長。さらに、会憲によって独立色の強い各国のSGIへの指導力を強める算段だったもようだ。

 それを裏付けるように、学会が「日蓮世界宗」および「日蓮世界宗創価学会」という商標を登録していたことが明らかとなった。

 内部からの反対などもあって結局、日蓮世界宗の旗揚げはまだ実現していないが、ここ数年、その地ならしが着々と進められてきた。

 一昨年には、教義の変更にも踏み切っている。

 学会がそれまで信じてきた日蓮正宗の総本山「大石寺」(静岡・富士宮市)の本尊を信仰の対象にするのをやめ、新たな本尊を総本部の「広宣流布大誓堂」(東京・信濃町)に安置したのだ。

 前出の本部中堅幹部はこの狙いについて、「さまざまな文化的背景が混在する海外で、創価学会を普及させるには普遍性が不可欠。がんじがらめの古い考えから脱却するため、教義の近代化を図った」と解説する。

 また、学会本部も「当会の宗教的独自性をより明確にし、世界広布新時代にふさわしいものとするため」との見解を示した。

 教義変更から浮かんでくるのは、「創価学会の世界宗教化」という何とも野心的な「歴史的転換」である。

 突然の本尊の変更に、古参の学会員らから反発が出るなど物議を醸したが、執行部は世界宗教化のためなら、一定数の学会離脱はやむなしと割り切っている節がある。

SGIとの共存で
信濃町が世界聖地になる日は来るのか

 ただ、日本の創価学会が権力を握ったままでの世界布教には不安もある。

 というのも、SGIには国ごとの色があり、例えば、「ドイツは炭鉱労働者、フランスは主婦、英国は雑多な層、東欧は政治的に虐げられた層」(SGI関係者)といった具合に中心層が異なり、それぞれ独自の発展を遂げてきた。

 また、海外で最多の学会員がいる韓国はリーダーシップを取りたがる幹部が多く、手綱を取るのは一筋縄ではいかないだろう。

「信濃町」への権力の一極集中に違和感を覚えるSGI関係者も少なくない中で、強引な改革を強行した場合、新宗教によく見られる「分裂」という不幸な結末を迎えることにもなりかねない。

 企業が海外展開で成功する秘訣の一つに、「現地への権限移譲」がある。もちろん企業と宗教団体ではガバナンスの構造が大きく異なり、一概には言えないが、過度な締め付けをするようでは、学会本部が掲げる「世界広宣流布」(世界に教義を広げること)の実現はおぼつかない。むしろ内部崩壊を加速させるだけだろう。

 逆に、執行部がSGIとの対等な共存関係を築くことができれば、総本部の「広宣流布大誓堂」は世界中の信者が集う巡礼地となり、信濃町は世界的な聖地となっているかもしれない。

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