デジタル産業革命の進展や、新型コロナウイルス感染症で人々のライフスタイル・価値観・行動様式が大きく変化しています。そんななか、企業が生き残り、持続的に成長していくためには、経営戦略そのものをデジタルに対応させる「デジタルシフト」が不可欠となっています。


2020年7月2日、株式会社デジタルシフトは、参議院議員であり自由民主党参議院幹事長を務める世耕 弘成氏をゲストにオンラインセミナー「ポストコロナで変わるデジタルシフトの未来社会」を開催しました。

「コネクテッド・インダストリーズ」という言葉を掲げ、IoTやAIなどデジタル技術の発展を支援する戦略を打ち出した世耕 弘成氏と、デジタルシフト社の鉢嶺 登氏が日本企業の今のデジタル化の現状や今後のあり方について語ったセミナーの一部をご紹介いたします。

ざっくりまとめ

-新型コロナウイルス感染症は仕事、医療、キャッシュレス、教育などあらゆる分野において、デジタル化を加速させるきっかけになった
-「コネクテッド・インダストリーズ」戦略において、重点分野として掲げた5つの分野のうち「スマートライフ」にはまだ成長の余地があるが、他は比較的デジタル化が進んでいる
-ポストコロナ時代において、人口増に頼らない経済発展のあり方は日本全体で模索しなければならない課題である

新型コロナウイルス感染症で急速に進んだデジタルシフト

鉢嶺:新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、デジタルシフトが加速したと言われている分野を列挙しています。

気になる項目などありますでしょうか?
「デジタルシフトする以外に選択肢はなし」 元経済産業大臣の世...の画像はこちら >>

世耕:やはり仕事の仕方はガラッと変わったと感じています。

特にテレワークへのシフトが進んでいて、自宅のIT環境整備に取り組んだ人も多いと思います。ただ一方で、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないですが、最近になって少しずつ元の働き方に戻っていると感じています。せっかく、テレワークでも仕事ができると分かったので、今後も新しい働き方を維持してほしいと感じています。

また、感染症の影響でオンライン診療の整備も進みましたが、事態が収束に向かうにつれ、以前までの形に戻ってしまうことも懸念しています。
オンラインでも十分診察してもらえると感じた方も多いので、継続してオンライン診療が受けられる体制を整えてもらいたいです。そのためにも、医療の現場と国とが、現在の規制についてよく議論しなければならないと思っています。

鉢嶺:世耕さんは近畿大学の理事長、教育に力を入れられています。新型コロナウイルス感染症により教育のオンライン化も進みましたが、その傾向についてはどのようにお考えなのでしょうか?

世耕:オンラインへの切り替え自体は非常に良いことだと考えています。私自身近畿大学では率先して、全てのカリキュラムのオンライン化を進めました。満員電車で学校に行かなくても済むようになりますし、オンラインの方が生徒一人ひとりの顔や名前を把握しやすいため先生方からの評判は良かったですね。


大学側からしても、オンライン授業に切り替わったことで新たな市場開拓の可能性が出てきたと思っています。例えば、オンラインコンテンツをそのまま社会人向けのリカレント教育(※)に活用することもできると思います。少子化が進むなか、大学が生き残るための可能性に気付ける機会になったなと感じています。

※生涯にわたって教育と就労のサイクルを繰り返す教育制度

鉢嶺:オンラインにすることで優秀な先生が一人いれば、その講義を日本中の生徒に伝えられるようになりますよね。生徒からの人気が可視化されるようにもなるので、良い先生とそうでない先生との間に差が生まれるかもしれません。

世耕:そうですね。
教える側はもちろん、授業を受ける側もそのためのスキルを磨く必要があるのだと思います。両者の技術があがり、全体的に教育のレベルも上がっていくことも期待できるのではないでしょうか。

世界と戦える企業を増やしたいとの想いから推進したコネクテッド・インダストリーズ

鉢嶺:世耕さんは2017年、経済産業相として「コネクテッド・インダストリーズ」を掲げられました。改めてその背景を教えてください。

世耕:背景の一つに、日本企業同士が不必要に競争していると感じたことがありました。企業同士で連携し、データやシステムなども共有することで、国内での不要な競争を避け、世界と戦える企業を増やしたいという想いがありました。

また、当時はドイツの製造業がハイスピードでデジタル化を進めていたことに危機感を抱いていたことも背景にありました。
製造分野におけるデータの利活用も積極的に行われていて、このままだとデジタル時代のものづくりはドイツの一人勝ちになると焦っていました。

それらの想いが合わさり、これからの日本がどうあるべきか省内で考えた結果、ものづくりの現場でほったらかしにされているデータを活用することが重要だと気がつきました。例えば機械一つ動かすにしても、どんな温度や湿度ならどんな動かし方になるなど、職人技と呼ばれるスキルがたくさんあります。しかしそれらのスキルは見える化されていなかったり、他の企業に連携されていなかったりしました。

そんな状況を改善するため「コネクテッド・インダストリーズ」つまり「データで企業同士を繋ぐ」という戦略を掲げたのです。そのうえで当時、特に成長の可能性がある分野を5つピックアップしました。
「デジタルシフトする以外に選択肢はなし」 元経済産業大臣の世耕弘成氏と考える、ポストコロナの未来社会

鉢嶺:5つの分野に関しては、狙い通りデジタル化が進んだのでしょうか。

世耕:スマートライフに関しては、まだまだデジタル化の余地があると思います。

私自身、デジタルガジェットマニアでいろいろな電化製品を見てきましたが、胸を打つ商品やプラットフォームは国内だけでなく、海外のものもまだ出てきていません。スマートライフはポテンシャルが大きな領域ではありますが、なかなか進んでいない分野でもあり、もっと頑張ってほしいと思っています。

他の分野はそれなりにデジタル化が進んでいるのではと感じています。特に良い進捗が生まれているのは自動走行の分野です。まさに狙い通り、メーカーを越えた協力が進んでいると思います。
例えば、地図を作っている会社と自動車メーカーとの協力体制が生まれてきています。世界の企業とは違うアプローチで、日本は自動走行に関して最先端の技術を有していると言えます。

また、プラント・インフラ保安分野に関しても良い成果が出ていると言えます。例えば化学プラントや石油化学プラントは、安全のため2年に1回の定期点検が義務付けられていますが、センサーを導入することで、その頻度を抑えることができました。点検によりラインを止めなくてよくなったので、生産性も高まりました。

ポストコロナで変わる価値観

「デジタルシフトする以外に選択肢はなし」 元経済産業大臣の世耕弘成氏と考える、ポストコロナの未来社会

鉢嶺:図は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により世の中の価値観がどのように変わったのかを例示したものです。世耕さんはこの図を見て、気になる項目はありますか?

世耕:図に示されている変化は、新型コロナウイルス感染症の影響もありますが、ここ数年、変わるべきだと指摘をされてきたものでもあるかと思います。今回の出来事で、その傾向が一気に後押しされたのだと思います。

鉢嶺:同感です。

個人的に特に大きな変化は、経済成長のあり方が見直されたことだと感じています。これまでのような経済成長を続けるには、人口の増加が必須です。しかし日本では人口が減っていくことが分かっており、だからこそAIをはじめとしたテクノロジーによって、人口が減っても経済が発展するシステムを作らなければならないと考えられています。

世耕:おっしゃる通りですね。人口増に頼らない経済発展のあり方は日本全体で模索しなければいけない課題だと考えています。その一つの方向性として、生産性を上げ製品やサービスのクオリティを上げることで、いわば「良い値上げ」を行うことも有効だと思っています。

例えば、ポストコロナ時代では、飲食店は席数を減らさなければならないでしょう。だからといってコストを抑えにかかるのではなく、メニューの値段を上げることを検討しても良いのではと思っています。それによって、お客さまの側に、「割高であってもこの店が必要だからお金を支払うんだ」と思ってもらうことが必要だと思います。

鉢嶺:なるほど。例えば最近だとテレワークで飲食店を使っている人も増えていると思います。そんな人たちに対しては、静かな席を用意し、かつ長い時間いても良いようにする分、単価を上げるなどしても良いかもしれませんね。

世耕:そうですね。サービス提供者はそういった工夫をする必要があり、消費者もその変化を受け入れる姿勢が重要だと思います。

図の中で気になっているのは「都市化の終焉」です。地方の努力も必要ですが、テレワークで大抵のことができるとわかった今、過密な都市で暮らすより、地方で暮らしたい人が増えていると感じています。また、駅や空港など高速交通網の整備もしっかりされているので、必要な場合だけ都市に出かけ、基本は地方で暮らすという生活も可能になってきています。物価が安いなど地方ならではの良さも、今後どんどん見出されていくのだと思います。

鉢嶺:私の周りにも、地方に住みつつ、東京にセカンドハウスを持って働いている人が増えています。そんな人たちの生活スタイルが紹介されれば、さらに地方への移住者は増えるかもしれませんね。

世耕:今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、我々はある意味アフターデジタル(※)の世界を疑似体験できたのではと思っています。私自身も、会社員時代を含めこれまで猛烈に働いてきましたが、最近は国会内での仕事が終わると、家で過ごす生活を送っていました。

※オフラインでの人の行動もデータ化されることで、私たちの身の回りのリアル(オフライン)が完全にデジタル(オンライン)に包含される世界となるという概念

鉢嶺:20年後に来る世界を先取りして体験できたということですよね。

改めまして、今回は貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。今後もデジタルシフトはどんどん進むのだと思います。その波に乗り遅れると国家も企業も立ち行かなくなる可能性があることがよくわかりました。

世耕:そうですね。今後はデジタルシフトする以外に選択肢はないと思っています。日本はこれまでのシステムがあまりに洗練され、便利だったことで逆に世界の国々に比べ、デジタルシフトが遅れた側面もあると思います。もう一度新しいシステムを作り上げていければと思っています。

鉢嶺:改めて本日は本当にありがとうございました。

世耕:ありがとうございました。世耕 弘成 氏
自由民主党参議院議員(和歌山県選出)。参議院自由民主党幹事長。
1962年生まれ。日本電信電話㈱広報部報道担当課長在職中、1998年に伯父の急逝を受けて参議院議員選挙に出馬し初当選。総務大臣政務官、総務委員長、広報担当内閣総理大臣補佐官、参議院議院運営委員会筆頭理事等を歴任の後、内閣官房副長官を歴代最長となる3年7か月の間務める。2016年には経済産業大臣、産業競争力担当、ロシア経済分野協力担当、原子力経済被害担当、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)に就任し、経済の活性化や大規模災害への対策など国内外を奔走。2018年、国際博覧会担当大臣を兼務。2019年、参議院自由民主党幹事長に就任し、党内を取りまとめ、国会の円滑な運営に尽力。鉢嶺 登
株式会社デジタルホールディングス 代表取締役会長
株式会社デジタルシフト 代表取締役社長
1967年千葉県出身。91年早稲田大学商学部卒。94年、株式会社オプト(現:株式会社デジタルホールディングス)設立。2004年、JASDAQに上場。2013年、東証一部へ市場変更。2020年4月より現職。グループのデジタルシフト事業を牽引する株式会社デジタルシフトの代表を兼任し、日本の企業、社会全体のデジタルシフトを支援している。