「可搬式オービス、取締り件数ではなく「撮影枚数」の集計に変わったのはなぜ!?」(https://driver-web.jp/articles/detail/38957)とは6月16日付けの私の記事だ。その後、警察庁へ行き確認してきた。
驚いた。なんと、「取締り件数」から「撮影枚数」へ表記が変わっただけだという。なるほど確かに、私は「取締り件数」を開示請求し、そしたら「撮影枚数」が出てきた。請求と違うものを開示するはずがない。「撮影枚数」=「取締り件数」なのだ。
じつは固定式オービスの「取締り件数」も2020年から突然「撮影枚数」になった。可搬式とあわせ、なぜ2020年に突然? 2013年から可搬式オービスをめぐる動きに注目し続けてきた私としては、たぶんこうだろうと思うことがある。ものすごく端折って言えば…。
可搬式はS社(外国企業)とT社(日本の老舗企業)が競合する形であるところ、T社の可搬式は取締り件数をなかなか上げられないことがいよいよ明白になってきた。そこで警察庁内のT社推しの一派が、ダメぶりを少しでも薄めるために「撮影枚数」と表記を変えさせたんじゃないか。
全国都道府県警察の方々は、「撮影枚数」への突然の変更に、T社推し一派の本気度を思い知るだろう。
都道府県別のオービス取り締まり件数
さてさて、めんどくさい話はここまで。2019年と2020年の可搬式オービスの、都道府県別の取締り件数と撮影枚数を見てみよう。
【画像】都道府県別の可搬式オービス取り締まり件数、2019年、2020年を比較
※これらのデータは公開も発表もされていない。情報公開法に基づき警察庁に対し開示請求し、手数料を払って開示を受けたのだ
全国の総数は、2019年の5069件から2020年の1万1568枚へ、約2.3倍も増えた。可搬式の全国の整備数(これも詳細は別記事で)は、2019年度末(2020年3月末)の60台から2020年度末(2021年3月末)の99台へ、約6割増えた。年度と歴年の違いはあるものの、台数の増え方より撮影枚数の増え方がはるかに大きい。
しかし、2019年と2020年のデータは、単純には比較できない。各都道府県警察が可搬式を何台、何月に購入(運用を開始)したかを考慮しなければならない。千葉県警の例を挙げよう。
2019年 整備数=1台 取締り件数=42件
2020年 整備数=3台 撮影枚数=1076枚
2019年度の1台は、同年12月から運用を開始した。だから2019年に取り締まった42件は、1年分じゃなくて1カ月分なのだ。
2020年度は3台、うち1台は2020年1~12月の運用だ。あと2台は同年12月に運用を開始した。よって、1台当たり月平均約77件を取り締まった、もとい約77枚を撮影したことになる。一方、たとえば岡山県警はこうだ。
2019年 整備数=1台 取締り件数=133件
2020年 整備数=3台 撮影枚数=96枚
2020年2月25日付けの山陽新聞によれば、最初の1台は2019年1月15日から運用を開始したようだ。1年弱で133件。月当たり約11件ちょいか。千葉に比べてどえらく少ない。
可搬式オービスの性能差が明らかに? 誤測定の冤罪が増えるかも
千葉と岡山、なぜこんなおかしな違いが生じるのか。ずばり、千葉の可搬式は3台ともS社製、岡山の可搬式は3台ともT社製なのだねぇ。両者の性能の違い、それしかなかろうと私は見る。
ちなみに、千葉の1カ月1台当たりの取締り件数(撮影枚数)は、2019年から2020年へ2倍近くに増えている。これはなぜか。扱いに慣れたってこともあるだろう。ほかに、私のほうに大胆な仮説がある。すなわち、警察庁内のT社押しの一派が、T社製のダメぶりを目立たなくするために、S社製の取締り件数を抑えていたが、さすがに警察庁内で問題になり、S社製の取締り(撮影)を解禁し始めた!
どぉです、大胆な仮説でしょ。もし当たりなら、S社製の可搬式による撮影が今後はどっと増える可能性がある。そうなった場合、T社押しの一派も負けていられない。T社製の性能が今までのままなら、誤測定でも強引に検挙、送検というケースが増えるんじゃないか。
運転者からすれば、たとえば超過30キロぐらいで走行中に超過20キロで捕まったらどうだろう。「ラッキー」と思って素直に反則金を払うでしょ。じゃあ、制限速度ちょうどぐらいで走行中、超過15キロで捕まったらどうか。裁判覚悟で不服を主張し続けられる人がどれほどいるだろう。
もしも裁判(刑事裁判)になれば、無実の証拠でもない限り、無罪は困難だ。T社の固定式オービスの裁判を私はたくさん傍聴してきたが、裁判所にとって「オービスの専門家」はT社の社員(証言専門社員)以外にいない。そもそも、警察がスピード違反検挙のために日々使っているオービスが、まさか誤測定をするかもとは、普通の裁判官は考えてもみないようだ。
なんにしても、可搬式オービスの取締り、もとい撮影は、今後どっと増えることが予想される。交通事故や妨害運転(いわゆるあおり運転)に備えるだけでなく、誤った取締りを受けたときのためにも、ドライブレコーダーは必須だ! 今どきドラレコなしで運転するってあり得ないでしょ。いや私はドラレコのどのメーカーさんからも、芋焼酎の1杯だってゴチになってませんってば(笑)。
※警察文書にある「可搬式速度違反自動取締装置」を私は可搬式オービスと呼んでいる。
〈文=今井亮一〉
交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。